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国内の暴力:ヒムス市掃討など
シリアの複数の反体制勢力筋は、住民からの情報として、ヒムス県ヒムス市で3日晩から4日にかけて、軍・治安部隊による大規模な掃討作戦が行われ、200人以上の市民が殺害されたと発表した。
情報を発信しているのは、シリア人権監視団、シリア革命総合委員会、シリア国民評議会など西側諸国に滞在する反体制活動家が主導する人権団体や政治同盟で、発表する死者数は237人から260人と若干のズレがある。
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一方、シリアのアドナーン・マフムード情報大臣は、この事件が安保理での議論に影響を及ぼすことを狙ったものだと指摘した。
マフムード情報大臣は、「武装テロ集団がヒムス市の複数の街区に無差別に砲撃を行った…。一部煽動メディアが映像として流した遺体は、武装テロ集団が誘拐・殺害した一般市民で、その遺体が彼らが言うところの(軍・治安部隊による)砲撃の犠牲者だと見せかけるために撮影されたものだ。これは安保理での交渉にあたる一部の国の姿勢に影響を与え、武装テロ集団の犯罪や攻撃を隠蔽しようとするものだ」と述べた。
SANA(2月4日付)は、情報省筋が、ヒムス県ヒムス市への軍の砲撃に関する一部衛星放送の報道内容が偽りであり、報道が武装テロ集団とイスタンブール評議会(シリア国民評議会)の反体制キャンペーンの一環をなしていると述べたと報じた。
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シリア人権監視団によると、ヒムス県以外でも、ダマスカス郊外県ダーラーヤーで、会葬者に治安部隊が発砲し、12人が殺害された。
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一方、SANA(2月4日付)によると、ヒムス県カルアト・ヒスン市では、武装テロ集団の襲撃により治安維持部隊兵士3人が殺害された。
また同報道によると、イドリブ県では武装テロ集団の襲撃により治安維持部隊士官(大尉)1人が殺害された。
国連の動き
国連安保理での対シリア決議案は、ロシアと中国の拒否権発動によって否決された。
両国による拒否権発動は、ミュンヘンでの会談で、ヒラリー・クリントン米国務長官に対してロシアのセルゲイ・ラブロフ外務大臣が求めた修正提案が満たされなかったため。
修正提案の内容の骨子は以下の通り。
1. シリア国内での暴力に関して、反体制勢力とアサド政権の双方の責任を等しく追求する。
2. 「シリア軍の都市部からの撤退」と合わせて、「武装集団」の都市部からの撤退を明記する。
3. アラブ連盟外相会合での決議(アサド大統領の権限の副大統領への移譲、挙国一致内閣の発足など)の「行程表に従った」実施を求めるとする文言を、「行程表に配慮する」と修正する。
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AFP(2月4日付)などは、安保理での対シリア決議をめぐる米露の外相会談で、クリントン校務長官は2月5日の安保理での採決への意思を伝えたが、これに対してラブロフ外務大臣は決議案の採決が安保理に「スキャンダル」をもたらすと応え、拒否の姿勢を示したと報じた。
またヴィタリー・チュルキン露国連代表大使は、決議案を提出・支持した国に関して、シリアの危機の平和的解決への「機会を奪う」と批判し、自国と中国の拒否権発動を正当化した。
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シリアのバッシャール・ジャアファリー代表大使はロシアと中国の拒否権発動を歓迎する一方、ヒムス市での市民殺害が政府による虐殺ではないと断じ、事件と合わせて行われた安保理の採決を「合理的でない」と非難した。
また安保理決議の共同作成・提出に参画した一部のアラブ諸国が、シリアの問題を国際問題化しようとしている、と批判した。
反体制勢力の動き
在外の反体制政治同盟、シリア国民評議会のアフマド・ラマダーン広報局長は『ハヤート』(2月5日付)に対して、共和国護衛隊、第4師団、第5師団などが、ヒムス県ヒムス市、同ラスタン市、ダマスカス郊外県ザバダーニー市、イドリブ県郊外、アレッポ県郊外に対する大規模な掃討作戦を計画している、と発表した。
ラマダーン氏はまた、「ロシアとイランがこの計画の詳細を熟知しており、我々は…ロシアが今やこの作戦に関与・参加しているとみなしている」と非難した。
また湾岸諸国が近く、シリア国民評議会をシリア国民の正当な代表として承認するだろうとの見方を示した。
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シリア国民評議会は声明を出し、国際社会に対して、「沈黙を破り、これ以上耐えることができないシリアでの流血停止のために行動する」よう呼びかけた。
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シリア・ムスリム同胞団は声明を出し、ヒムスでの事件を「恐るべき虐殺」と強く非難し、国連とアラブ連盟に関して法的・人道的責任者を調査し、国際刑事裁判所に提訴するよう呼びかけた。
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アラビーヤ(2月4日付)は、カースィム・サアドッディーン空軍大佐が離反し、シリア自由解放軍への参加を宣言したと報じた。
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ヒムス市で反体制運動をビデオに収め、AFP、ジャズィーラ、CNNなどに配信していた「ウマル・スーリー」氏(本名マズハル・タイヤーラ氏、24歳)が2月4日にヒムス市内で殺害された。
反体制勢力による在外シリア大使館襲撃
クウェートのシリア大使館前では、在留シリア人ら数十人が反体制デモを行ったが、当局によって強制排除され、多数が逮捕された。
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サウジアラビアのジェッダ市でも、在留シリア人数十人が「ヒムス虐殺」に抗議するデモを行ったが、警官の到着とともに解散した。
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カイロでは、シリア大使館職員によると、反体制活動家数十人が大使館内に侵入し、設備のを破壊・放火した。
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ロンドンでは活動家約150人が金曜日の夜からシリア大使館前に集まり、抗議行動を行い、警察当局に5人が逮捕された。
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アテネでは活動家約50人がシリア大使館を襲撃し、壁に落書きをし、当局はシリア人12人とイラク人1人を逮捕した。
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ベルリンでは活動家約20人がシリア大使館を襲撃し、設備の一部を破損した。
アサド政権の動き
SANA(2月4日付)は、ダマスカス県サブウ・バフラート広場で、安保理でのロシア・中国による拒否権発動を支持する大規模集会が行われたと報じた。
レバノンの動き
LBC(2月4日付)などによると、レバノン国軍は、北部県アッカール郡ワーディー・ハーリド地方ラーミー村で、シリア領内から潜入し、同地方を拠点としているとされる自由シリア軍兵士の大規模捜索活動を行った。
これに関して、ムスタクバル潮流のムフスィン・マルアビー議員は、「ミシェル・スライマーン大統領、ナジーブ・ミーカーティー首相、そしてジャーン・カフワジー国軍司令官に対するシリアの命令」によるものと断じた。
しかし『ハヤート』(2月5日付)によると、この捜索活動で自由シリア軍兵士は見つからなかった。
諸外国の動き
サウジアラビアのアブドゥッラー国王は声明を出し、シリア、エジプト、イエメン、リビアでの反体制運動による犠牲者を追悼し、2012年のジャンダリーヤ音楽祭を中止すると発表した。
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バラク・オバマ米大統領は、「(アサド大統領が)即時に去るべきだ…。国民に対する殺戮と犯罪を今止めるべきだ」と述べた。
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チュニジア大統領府は声明を出し、ヒムス市での事件に抗議するかたちで、在チュニス・シリア大使の追放、シリア現政府の承認撤回などを準備していることを明らかにした。
AFP, February 4, 2012、Akhbar al-Sharq, February 4, 2012、Alarabia.net, February 4, 2012、al-Hayat, February 5, 2012, February 9, 2012、Kull-na Shuraka’, February 4, 2012、LBC,
February 4, 2012、Naharnet.com, February 4, 2012、Reuters, February 4, 2012、SANA,
February 4, 2012。
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