アサド大統領は仏週刊誌のインタビューに応じる:「我々はテロを根絶した時に勝利する…。テロ支援と占領に違いはない、同じコンテキストで、違うタイトルなだけだ」(2019年11月28日)

アサド大統領はフランスの週刊誌『パリ・マッチ』(11月28日付)の単独インタビューに応じた。

インタビューは首都ダマスカスの大統領公邸でレジス・ル・ソミエール(Regis Le Sommier)副編集長が行い、全文がフランス語で公刊された。

また、SANAがアラビア語全訳(https://www.sana.sy/?p=1062762)を配信した。

インタビューでのアサド大統領の主な発言は以下の通り:

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「西側が押しつけようとする説明は、職にとどまりたい大統領の戦争、というものだ。だが、実際には、それは国民の戦争、テロに対するシリア人の戦争だ…。この戦争で重要な進展があったという発言は正しい…。だが、我々は勝った訳ではない。我々はテロが根絶する時に勝つのだ。北部の一部地域に今もテロは残っている。より危険なのは、このテロが今もトルコ、そして米国、英国、フランスといった西側諸国の支援を受けているということだ。だから、勝利について話すのは時期尚早だ」。

「(フランスがテロを支援しているのは)間違いない…。フランスは武器を供与していた…。フランスの部隊は正当な政府に招かれないなかシリアに入ってきた。これは占領だ。テロ支援と部隊を派遣して占領することには何の違いもない。同じコンテキストで、違うタイトルなだけだ」。

「地球レベルと言うと、国家は自らの意思ではなく、国際法によって治められている。テロと戦いたいという意思だけでは充分ではない。テロと戦うための国際的なルールがある。もちろん、善意によるものなのかもしれない。だが、我々は善意だとは思っていない。シリア政府はダーイシュ(イスラーム国)と戦っている。なぜ、フランスはこれを支援しなかったのか。また、フランス政府はダーイシュと戦いながら、なぜ今もヌスラ(シャーム解放機構)を支援しているのか。いずれもがテロ組織なのに」。

「(フランス首脳のシリア政府に対する発言内容が軟化していることに関して)我々は発言に関心はない。現場での行動に関心がある…。ただ、国際法に立ち返ればよい。我々はフランス政府に何も求めることはない。政治、経済、安全保障での支援を頼むことはない。必要ないからだ…。だが、我々はフランスに国際的な秩序に立ち返って欲しい…。国際的なカオス状態だ…。我々はシリアで流血、殺戮、苦しみをもたらすすべてのことを支援しないで欲しい」。

「(シリア国内でジハード主義者を収監しているかとの問いに対して)国籍にかかわらず…、ジハード主義者がいれば、彼らはシリアの法律に従うことになる…。(フランス人ジハード主義者が収監されているか否かを把握する)統計はない。我々にとって、テロリストはテロリストだ。フランス人であっても、シリア人であっても変わりない…。テロに関してシリアの法律は明確だ。我々はテロへの対応を専門とする法廷がある。彼ら(北・東シリア自治局支配地域で拘束されているダーイシュ・メンバー)はそこで訴追される」。

「(トルコのレジェップ・タイイップ・)エルドアン(大統領)は(ダーイシュ・メンバーを欧州に送り返すと言うことで)欧州を恐喝しようとしている。自尊心のある男であればそのようなことは言わない。制度、そして法律があるからだ。テロリストを追放したり、他国に引き渡す場合、二国家合意に準じることになる。だが、テロリストと知っていて釈放したり、他国に送り込んで市民を殺害させることは、非道な行為だ」。

「戦争とは過酷でたやすいものではない。また、我々は超大国ではない。我々は世界でもっとも裕福で協力な国々と戦っている。論理的に考えて、我々の友人(ロシアやイラン)の支援があることで間違いなく損害は減ったし、領土を取り返すことができた」。

「(戦争中に亡命を考えたことはあったかとの問いに対して)ない。それ以外の選択肢はないし、考えたこともなかったからだ」。

「最近では、この6ヶ月で、複数の企業がシリアにやって来て投資を始めた。現状において外国の投資は停滞したままだが、制裁を回避する方法はある…。だが、このことは投資や復興プロセスが加速することを意味していない。このことに関して私は現実主義的だ」。

「(復興に必要な歳月に関して)制裁がいつまで、そしてどのようなかたちで続くかによる。またシリア人が外国から戻ってくるかどうかにもよる…。100万人以上のシリア人が1年弱の間に帰国した。このプロセスは、ダマスカス(郊外県)と南部が解放されて以降、加速している。もちろん、シリア人の帰還はインフラ復旧や、電気、学校、病院などの福祉が利用可能になることとかかわっている。なぜなら、残念なことに、これらのセクターは制裁でもっともダメージを受けているからだ。加えて、西側が難民にシリアに帰国しないよう圧力をかけている。西側にとって、それは政治的目的を実現するために利用できる人道カードのようなものだ」。

「ほとんどの移民(シリア難民)は国家を支援している。その逆ではない。その証拠に彼らは2014年の大統領選挙で投票している。彼らの多くは戦争そのもの、そしてその経済的な結果が理由で避難した。だから、彼らが帰国することには何の問題もない。彼らは恩赦がなくとも、帰国できる。罪を犯しておらず、逮捕状が発効されていない反体制派もいる。彼らが私に反対していることも問題ではない。なぜなら、シリア国内にも反体制派はいるが、彼らと絶えず関わりをもっているからだ」。

「恩赦だが、我々は何度も実施してきた。最近では数ヶ月前に行った。なぜなら、恩赦がないかたちで帰国れば、逮捕されると恐れている者がいるからだ。彼らが武器を携帯していれば逮捕されるが、それでも彼らは免罪される」。

「一部の者は(武器を棄てることを拒否して、ダマスカス郊外県グータ地方から)イドリブ県に向かった。彼らは我々(政府支配地域)に家族を残していった。我々は残された家族の面倒を見ている…。また、イドリブに去った一部の戦闘員はその後我々の側に戻ってきた…。彼らは恩赦の対象となった」。

「(イラン、レバノン、イラクでの最近の抗議デモで掲げられたスローガンについて)尊厳、自由など、デモで掲げられたスローガンに限って話すと、それらはきれいなマスクのようなもので、その背後にあるものは醜い。例えば…、フランス、英国、そして米国は(シリアの)クルド人を守るという口実のもとに国際法を破っている。彼らがシリア国民の一部をなしていて、独立したグループではないにもかかわらずだ。2011年のシリアでも、尊厳や自由というまったく同じスローガンが掲げられた。それらは警官、市民を殺害し、公共の財産を破壊するために利用された。だから、現場で起きている事実、見出しではなく実際に起きていることに関心を持つべきだ」。

「シリアでのデモ参加者は最大で17万人だとされる。だが、この数字は不正確で、しかんも、それは何倍にも誇張されて、百万人のデモ参加者がいるとされた。シリアの人口は2,300万強だ。だからこの数は何も代表していない。規模という点では民衆蜂起ではない。第2に、民衆蜂起はカタールが人々にカネを払ってデモをさせている時に起こることはない。第3に、実際に民衆蜂起が起きていたら、私は9年も政府にとどまっていることなどできるはずない…。民衆蜂起と呼ぶのは誤りで、少なくとも現実味がない」。

「(2011年にサイドナーヤー刑務所からジハード主義者を釈放したことに関して)数年ごとに我々は収監者に対する恩赦を行っている。戦争前に一般的に行われてきた政策だ。恩赦が発せられれば、スパイ容疑、麻薬密売などを除いた犯罪に対して適用される。だが、恩赦法には、過激派というカテゴリはなく、恩赦は彼らを含んでしまった」。

「特に2011年は、恩赦によってではなく、刑期を終えて釈放された収監者もいた。我々が過激派やテロリストを釈放して、シリア軍の士官や民間人を殺させることに何の得があるのか?! 西側の解説では、我々は平和的デモを「悪魔化」するためにそうしたことになっている。だが、実際には、彼ら当初から、警官を殺し、市民を攻撃し、殺害するビデオを投稿することで自らを「悪魔化」したのだ」。

「実施される政策と個人の行動は別ものだ。ハラスメントやレイプはシリア社会で横行はしてない。だが、そうした事件があれば、それは法の下に罰せられる。個人的な事件はある…。我々はこの手の政策が世界のどこで行われていようと非難する。なぜなら、非道だからだ。そうした政策があれば、シリアの安定が揺らぐだろう」。

「(政権による拷問を告発したドキュメンタリーの)ストーリーと文書化された証拠は別ものだ。(ドキュメンタリーなどで)示されているものはすべて根拠がなく、写真も立証されていない。目撃者は誰だったのか? 彼らの名前は伏せられている。こうした事例の多くは、カタールが資金を援助し、レポートとして配信されたものだ。それを事実と認定するには専門的な調査が必要だったはずだ…。だが、我々はなぜそのようなことをする必要があったのか?! 拷問で何を達成できるというのか?! 結果は復讐か?! だが、国家によって奪還された反体制派支配地域に行けば、逆の状況を目にするだろう。我々は統合失調症ではない。ある場所では寛容で、別の場所で人々を拷問するようなことはない。それは根拠のない政治的な主張に過ぎない…。この手の話についての事実を目の前にすれば議論できるが、噂や作り話は議論できない。事実があれば、どんな罪を犯した者であれ、シリアの法律によって訴追される。これが規範だ」。

「(米国によるダーイシュのアブー・バクル・バグダーディー指導者殺害に関して、米国に情報を提供したかとの問いに対して)この質問がなされる度に、笑ってしまう。なぜなら、より質問されるべきより重要な問いがあるからだ。バグダーディーは本当に殺されたのか? 米国による「ファンタジーのような演技(プレイ)」は本当の行われたのか?

「(ダーイシュはバグダーディー殺害を認めているが)ダーイシュは米国が作り出した。ダーイシュは演劇の一部で、イラクにある米国の刑務所にいたバグダーディーに米国がどう演技(アクト)するかを教えたのだ。だから、この壮大な演技が実際に行われたのかと言っているのだ。我々には分からない。だが、彼が殺されたかどうかでは意味のないことだ。彼が殺されたら、それは彼がテロリストだったからではない。米国はシリアからイラクに石油が運ばれている時にダーイシュを攻撃できた。だが、しなかった。ダーイシュがダイル・ザウル県のシリア軍を攻撃したとき、米国はダーイシュに代わってシリア軍を爆撃した。我々は米国と何らの協力もしていなかった。テロを支援する者とテロとの戦いで協力などできない」。

「(トランプ大統領がシリアに謝意を示したことは)トランプのちょっとしたジョークだ」。

「(シリア政府による化学兵器使用の)証拠は一つもない…。シリア軍がテロとの戦いで進軍していたから、彼ら(米国)はシリア軍を攻撃する口実を探していた。そして事件は起きた…。我々は進軍していたのに…なぜ化学兵器を使用するのか?」。

AFP, November 28, 2019、ANHA, November 28, 2019、AP, November 28, 2019、al-Durar al-Shamiya, November 28, 2019、Reuters, November 28, 2019、SANA, November 28, 2019、SOHR, November 28, 2019、UPI, November 28, 2019などをもとに作成。

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