ムアッリム外務大臣が記者会見を行いアラブ連盟外相会合および閣僚委員会会合に対する政府の立場を説明、またヒムス県およびハマー県で軍・治安部隊による大規模な掃討作戦が行われる(2012年1月24日)

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アサド政権の動き

ワリード・ムアッリム外務大臣が記者会見を行い、22日のアラブ連盟外相会合および閣僚委員会会合に対するシリア政府の立場を明示した。

SANA, January 24, 2012

SANA, January 24, 2012

記者会見でムアッリム外務大臣は、副大統領への権限移譲や2ヵ月以内の挙国一致内閣発足を骨子とする連盟外相会合の決議に関して、「解決策は連盟決議に示されたようなものではない。我々はそれを断固拒否する。なぜなら、我々の内政へのあからさまな干渉だからだ…。シリア的解決策はシリア国民の利益から発しており、それは何よりも先ず、バッシャール・アサド大統領が宣言した包括的改革プログラムの実施に基づいている…。シリア指導部の立場は、内外でシリアが曝されているものに対して断固且つ協力なものである。シリア政府は断固として、武装テロ集団に対処する」と述べた。

そのうえで現下の危機の解決策に関して「アラブ的解決はもはやなく、今後はシリア的な解決になるだろう」と付言し、治安対策を民衆の要請と位置づけ、その必要を強調した。

またシリア・バッシングを主導するカタールやサウジアラビアを示唆するかたちで、「彼らは…、安保理へ向かうべく行動している…。シリアに対抗するための彼らの計画における新段階とは、国際(問題)化をめざすという動きである。彼らは連盟決議の承認を得るため国連に出向くと言った。このことは連盟の決議、そして連盟が役割を果たせないということを彼らが認めているということだ」と述べた。

さらにこれらの国が民主化や憲法改正に関わるシリア内政について言及することに関しては、「ない袖は降れない状態」として、これらの国々に議会や憲法さえないことを暗に非難した。

一方、カタールのハマド・ブン・ジャースィム首長がアラブ連盟のナビール・アラビー事務総長との連名で国連の潘基文事務総長との会談を求めていることに関して、「彼らがニューヨークに行こうと、月に行こうと、それは彼らの問題だ。我々は彼らの旅費を出さない」と述べ、こうした動きを拒否する姿勢を示した。

しかし、アラブ連盟監視団の活動の延長に関しては、「検討すべき問題」と述べ、これを受諾する方向であることを明らかにした。

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SANA(1月24日付)は、アーディル・サファル内閣がインターネット通信調整情報犯罪撲滅法案を閣議承認したと報じた。

反体制勢力の動き

シリア・クルド国民評議会事務局のアフマド・スライマーン氏は『クッルナー・シュラカー』(1月24日付)に対して、同評議会のシリア国民評議会への参加に関するアブドゥルハキーム・バッシャール氏の発言は「事実と真実から遠い」と述べ、否定した。

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シリア人民民主党の重鎮の一人で反体制活動家のジョルジュ・サブラー氏がシリアを出国しフランスに入った。

『リベラシオン』(1月24日付)の取材に対して、サブラー氏は、「シリア国民は国連の保護を受けるに値する」と述べ、国際社会の介入を是とする姿勢を明示した。

またシリア国民評議会のブルハーン・ガルユーン事務局長に関しては、「理想的な男だが、大学教授としてであって、政治家としてでない」と述べ、「他者との共同行動に不慣れだ」と批判した。

同氏は、人民民主党によってフランスに派遣されたという。

人民民主党(旧シリア共産党政治局派)は国内最大の反体制政治同盟シリア国民民主連合加盟政党で、その「精神的指導者」のリヤード・トゥルク弁護士は、ダマスカス国民民主宣言運動を主導、シリア国民民主連合加盟政党のアラブ社会主義連合民主党書記長で民主的変革諸勢力国民調整委員会代表のハサン・アブドゥルアズィーム弁護士と不仲だと言われている。

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地元調整諸委員会は声明を出し、アラブ連盟監視団のムハンマド・アフマド・ムスタファー・ダービー団長の発言に関して、「犠牲者と死刑執行人を十把一絡げにしている」と批判した。

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シリア国民評議会のブルハーン・ガルユーン事務局長はアラビーヤ(1月24日付)の取材に対して、シリア問題への国際社会の介入を求めるため国連安保理に使節団を派遣する用意があると述べた。

国内の暴力

地元調整諸委員会によると、ヒムス県およびハマー県で軍・治安部隊による大規模な掃討作戦が行われ、ヒムス市カラム・ザイトゥーン地区ではビル2棟が倒壊し、18人が死亡した。

またこの18人を含めヒムス県、ハマー県、イドリブ県、ダマスカス郊外県などで少なくとも43人が殺害された、という(その後、地元調整諸委員会はヒムス市でのビル倒壊の犠牲者数を19人、死者総数を68人と修正した)。

AFP(1月24日付)によると、ダマスカス県内でも厳戒態勢が強化されている、という。また反体制派によると、ダマスカス郊外県のザマルカー、サクバー、ハムーリーヤ、カフルバトナーが自由シリア軍によって解放されたとのことだが、真偽は定かでない。

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SANA(1月24日付)によると、イドリブ県では、農民総連合イドリブ支部のアブドゥッラティーフ・バックール支部長が武装テロ集団に暗殺された。また歯科医ムハンマド・ザカリヤー・ユースフ氏、治安維持部隊も同県で殺害された。

ヒムス県では、アイマン・ハッルーフ弁護士が武装テロ集団に誘拐・殺害された。

アラブ連盟の動き

GCCは声明を出し、連盟監視団から撤収したと発表した。

これを受け、アラブ連盟は常駐代表級会合を急遽開催し、GCC諸国の監視団への物心面での支援が継続されることを確認した。

GCC諸国の決定により、サウジ人監視員22人とそれ以外のGCC諸国の監視員30人が撤収し、監視団は108人となった。

アフマド・ベンフッリー事務次長によると、シリアによる監視団の活動の1ヵ月延長受諾を受け、監視団の増員が行われるだろうと述べた。

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カタールのハマド・ブン・ジャースィム首相兼外務大臣はアラブ連盟のナビール・アラビー事務総長と連名で国連の潘基文事務総長に書簡を送り、シリアの危機収束のためのアラブ連盟の行動計画に関して安保理の支援を求めるための会談を要請した。

レバノンの動き

ムスタクバル・ブロック(ムスタクバル潮流の国会議員)は会合を開き、北部県アッカール郡アリーダ村の漁師3人の身柄拘束を「シリア政府によるレバノンへの主権侵害」と厳しく非難し、ナジーブ・ミーカーティー内閣に対してアラブ連盟の場でこうした行為を停止させるべく行動するよう求めた。

諸外国の動き

ニューヨークでは23日から米英仏独、ポルトガル、グアテマラ、コロンビア、サウジアラビア、カタール、UAE、ヨルダン、モロッコの国連代表が会合を重ね、シリア問題をめぐる決議案の作成を進めている。

この決議案は、国連憲章第7章に依拠していないが、シリアに対してアラブ連盟の行程表を期限付きで遵守させることを求めるものだという。

また国内の暴力に関しては、これまでのアサド政権に対する一方的非難の姿勢を改め、「シリアのすべての当事者に暴力と殺戮行為の停止」を呼びかける内容となっている、という。

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英国のウィリアム・ヘイグ外務大臣は、アラブ連盟に対して、国連安保理にシリア問題を付託するよう求めた。

AFP, January 24, 2012、Akhbar al-Sharq, January 24, 2012、al-Hayat, January 25, 2012、Kull-na Shuraka’, January 24, 2012、Naharnet, January 24, 2012、Reuters, January 24, 2012、SANA, January 24, 2012などをもとに作成。

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