トルコのPKKがクルド人戦闘員約3,000人をシリアに派遣することに関してアサド政権から承認を受けたと報じられるなか、ホワイトハウスはシリアの化学兵器の国際管理・廃棄に関するロシアの「建設的な役割」を評価(2013年9月11日)

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反体制勢力の動き

タウヒード旅団のアブドゥルカーディル・サーリフ司令官は訪問先の米ワシントンDCで「米国は、最高軍事評議会(自由シリア軍参謀委員会)に非殺傷兵器の支援だけでなく、殺傷兵器の支援を行っている」と述べた。

また「彼ら(米国)は最高軍事評議会に供与された装備が正しく試用されたことを確認し、武器が間違ったかたちで供与されないことを確認している」と付言した。

ロイター通信(9月11日付)が報じた。

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シリア革命反体制勢力国民連立メンバーでシリア民主主義者連合代表のミシェル・キールー氏はAKI(9月11日付)に、シリアの化学兵器の国際管理・廃棄をめぐって「ジョン・ケリー米国務長官がシリアへの軍事攻撃停止の条件として提案したとは承知しておらず、米国世論、国際社会世論も突然のことで驚いている…。それはその場だけの提案だろう」としたうえで、「化学兵器だけでなく、シリア情勢が国際社会の監視下に置かれなければ、反体制勢力はいかなる政治的解決をも受け入れない」と述べた。

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リハーブ・ニュース(9月11日付)は、インターネット世論調査で、シリア・クルド国民評議会のシリア革命反体制勢力国民連立への加入に関して、回答者(18,343人)の58%(10,653人)が支持、42%(7,690人)が不支持を表明したと報じた。

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『ナハール』(9月11日付)は、アスマー・アフラス大統領夫人の通訳だったミールハーン・ビールティズリヤーン氏がアルメニアに「家族の身の安全のために」亡命し、トルコ日刊紙『ヒュッリイェト』に対して「アサド大統領は騙されている…。自分の身の回りで起きている策略に気づいていなかった」と証言したと報じた。

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シリア革命反体制勢力国民連立は声明を出し、シリアの化学兵器の国際管理・廃棄に関するロシアの提案を「時間稼ぎと…政権によるシリア国民殺戮…の猶予を与えるだけの政治的陰謀」と非難し、拒否すると発表した。

また、アサド政権による化学兵器使用に対して国際社会が実質的な対応をとれなければ、「イラン、北朝鮮、ヒズブッラーなどのテロ組織は、こうした兵器の密輸、製造、使用の青信号とみなすだろう」と警鐘を鳴らした。

シリア政府の動き

オリエント・ネット(9月11日付)は、シリア国外に去ったアリー・ハビーブ元国防大臣に関して、「出国前は刑務所に収監されており、アサド政権へのロシアの圧力によって出国した…。離反による脱出ではない」と報じた。

同報道は、自由シリア軍のハーリド・ハンムード中佐からの情報として、ハビーブ元国防大臣は「シリア革命」への対応をめぐって、アサド大統領と対立、マーヒル・アサド准将の進言を受けて、刑務所に収監されていたと伝えた。

またハンムード中佐によると、ハビーブ元国防大臣が収監されていたのは総合情報部第211課の拘置所で、そこにはフサイン・ハルムーシュ大佐も収監されていたという。

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在欧のクルド人活動家のサラーフ・バドルッディーン氏は、トルコ紙『ミッリ・ガゼテ』(9月11日付)に、トルコのPKKが、クルド人戦闘員約3,000人をシリア国内に派遣することを決定し、アサド政権の承諾を得た、と述べた。

このうち1,500人がシリア出身のクルド人、のこる1,500人がイラク、イラン、トルコ出身だという。

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『ハヤート』(9月12日付)によると、マアルーラー市での戦闘に関して、アサド政権支持者らがフェイスブックなどで聖タクラ修道院長のビーラージヤー・サイヤーフ女史を「テロリストの共謀者」、「反逆とテロ」に荷担したと厳しく批判していると報じた。

サイヤーフ女史は、自由シリア軍がマアルーラー市で殺戮・破壊を尽くしているとのシリア政府側の主張を否定していた。

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ワリード・ムアッリム外務在外居住者大臣は、ロシアからの帰路、レバノンでアドナーン・マンスール暫定外務大臣と会談し、シリア情勢などについて協議した。

NNA(9月11日付)によると、ムアッリム外務在外居住大臣は、シリアの化学兵器の国際管理・廃棄に関するロシアの提案、およびシリア政府の対応などをマンスール外務大臣に説明したという。

国内の暴力

ダマスカス郊外県では、AFP(9月11日付)によると、反体制武装集団が撤退を宣言したマアルーラー市で、軍と市民から構成される国防隊(義勇軍)が掃討作戦を継続した。

治安筋によると、マアルーラー市はまだ完全に奪還されておらず、市内の複数カ所で「病巣」の摘出を続けているという。

シリア人権監視団によると、スバイナ町、ダーライヤー市、ジャイルード市郊外、ドゥーマー市郊外、ヤブルード市郊外、ナバク市郊外を軍が砲撃し、4人が死亡した。

またムライハ市などで、軍と反体制武装集団が交戦した。

一方、SANA(9月11日付)によると、マアルーラー市で、シャームの民のヌスラ戦線の掃討を続ける軍が大いに進軍し、中心街の広場、聖タクラー修道院に到達、数十人の戦闘員を殲滅した。

またマアルーラー市北部のラアス・アイン市、サルハー村でも、軍は反体制武装集団を追撃、戦闘員8人を殺害、20人を負傷させた。

このほか、ザマルカー町、バハーリーヤ市郊外、サイル・サルマーン市郊外、ドゥーマ-市郊外、カースィミーヤ市郊外、ズィヤービーヤ町、ザバダーニー市東方の山間部で、軍が反体制武装集団の追撃を続け、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

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イドリブ県では、シリア人権監視団によると、バザーブール村、カフルラータ市、アルバイーン山、タフタナーズ市を軍が砲撃、またアルバイーン山、ハーミディーヤ航空基地周辺で反体制武装集団と交戦した。

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ヒムス県では、シリア人権監視団によると、シャームの民のヌスラ戦線がマクサル・ヒサーン村でアラウィー派の村人12人を殺害した。

同監視団によると、これを受けて、軍が同村を空爆し、ヌスラ戦線と交戦し、戦闘員多数と軍兵士2人が死亡したという(シリア人権監視団は12日、マスカル・ヒサーン村での死者数は22人に上ったと発表した)。

一方、SANA(9月11日付)によると、軍がマスカル・ヒサーン村で反体制武装集団の掃討を完了し、の治安を回復した。

同通信社によると、マスカル・ヒサーン村は、これに先立ち、村人12人を虐殺したという。

またヒムス市カラービース地区、クスール地区、ダール・カビーラ村、ハーリディーヤ村、ガースィビーヤ村、タルビーサ市、バイト・ハッジュー市、ウユーン・フサイン村、シンダーヒーヤ市、アブー・キッラ・ダム西部などで、軍は反体制武装集団の追撃を続け、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

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タルトゥース県では、シリア人権監視団によると、マトラース村を何者かが襲撃し、一家4人を殺害した。同監視団によると、マトラース村の住民はスンナ派のトルクメン人だという。

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ダイル・ザイル県では、シリア人権監視団によると、マリーイーヤ村の軍が拠点として使用している学校で、爆弾が仕掛けられた車が爆発し、また軍と反体制武装集団が交戦した。

一方、SANA(9月11日付)によると、マリーイーヤ村で、軍が反体制武装集団の追撃を続け、ユーフラテス自由人大隊戦闘員らを殺傷、拠点・装備を破壊した。

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ダルアー県では、シリア人権監視団によると、反体制武装集団がアトマーン村の軍高射砲大隊基地と歩兵中隊基地を制圧した。

一方、SANA(9月11日付)によると、インヒル市、東ガーリヤ町、西ガーリヤ村、ラジャート高原、ナワー市、アトマーン村で、軍が反体制武装集団の追撃を続け、リビア人、ヨルダン人戦闘員らを殺傷、拠点・装備を破壊した。

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ダマスカス県では、SANA(9月11日付)によると、バルザ区で軍が進軍を続け、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

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アレッポ県では、SANA(9月11日付)によると、バーブ市北部、カブターン・ジャバル村、フライターン市東部、ダーラ・イッザ・アレッポ街道で、トルコから大量の武器・弾薬を密輸しようとしていた反体制武装集団を殲滅、装備を破壊した。

またハーン・アサル村、ブンヤーミーン村、クッバト・シャイフ村、クワイリス村、アレッポ市アーミリーヤ地区、ジュダイダ地区、旧市街で軍が反体制武装集団と交戦し、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

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クナイトラ県では、SANA(9月11日付)によると、ジャバーター・ハシャブ村からフドル市に潜入しようとした反体制武装集団を軍が撃退、殲滅した。

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ハサカ県では、SANA(9月11日付)によると、シャッダーディー市、タッル・ハミース市、ウンム・トゥワイナ村で、軍が反体制武装集団の追撃を続け、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

諸外国の動き

ロシアのヴラジミール・プーチン大統領は、シリアの化学兵器の国際管理・廃棄に関して「我々は米国大統領とG20サミットに際して議論し…、この動きを活性化させることで合意した…。それぞれの外務大臣に連絡を継続し、この問題の解決に至るよう支持した」と述べた。

そのうえで「こうした動きはある一つの状況において、実質的意義を獲得し、実施可能となる。すなわち、我々が米国、そして米国を支持するすべての国々にシリアに軍事力を行使する計画を断念すると耳にした時である」と強調した。

なおシリア政府による化学兵器保有に関して、プーチン大統領は「イスラエルの核兵器に対抗して…、シリアが化学兵器を保有していることは周知のことだ」と述べた。

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ジェイ・カーニー米ホワイトハウス報道官は、シリアの化学兵器の国際管理・廃棄に関するロシアの提案について「2年にわたり、アサドを制裁しようとする国連の試みを凍結してきた(ロシアが)…建設的な役割を果たしているようだ」と評価しつつ、「シリアが行う誓約に関して懐疑的である…。アサド政権は、ことが誓約の尊重に関わると、あまり信用できない」と述べた。

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米上院は、シリアへの軍事攻撃に関する決議案の審議を来週まで延期することを決定した。

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フランスのフランソワ・オランド大統領は、シリアの化学兵器の国際管理・廃棄に関するロシアの提案について「あらゆる道を探る」と述べ、外交的解決を目指すとの方針を示した。

またオランド大統領は「化学兵器を使用したアサド政権に対する制裁の準備は整っている」と付言、米国とともに軍事攻撃の可能性を維持することを明らかにした。

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中国外交部報道官は記者会見でシリア情勢に関して「国連安保理でのいかなる措置も、すべての当事者の協議を通じて達せされるコンセンサスに基づかねばならず、シリアの緊張緩和に資さねばならないと考える。また同国、そして地域の平和と安定の実現に役立ち、政治的解決の実現を支援するものでなければならない」と述べた。

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キャサリン・アシュトンEU外務・安全保障政策上級代表兼欧州委員会副委員長は欧州議会で、シリア情勢に関して「必要なのは化学兵器の使用に関する問題に対処することだけではなく、問題そのもの正常化だ」と述べた。

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欧州委員会のジョゼ・マヌエル・バローゾ委員長は、シリアの化学兵器の国際管理・廃棄をめぐる動きへの支持を表明するとともに、アサド政権に化学兵器禁止条約に加盟するよう強く求めた。

AKI(9月11日付)が報じた。

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イランの最高指導者アリー・ハーメネイー師は、バラク・オバマ米大統領がシリアへの軍事攻撃の事実上の見送りを発表しことに関して、「シリアへの米国の新たなアプローチが真摯なものとなり、政治的ゲームにならないことを希望する」と述べた。

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イスラエルのシモン・ペレス大統領は、記者団に対して、バラク・オバマ米大統領がシリアへの軍事攻撃の事実上の見送りを発表したことに関して「外交的措置によっていかなる結果がもたらされようと、戦争よりはましだ。しかし問題の中心は今やシリア政府の信頼性にある…。シリアが誠実で…化学兵器廃棄に向けた真のステップを踏むのであれば、米国は攻撃しないだろう。もしシリアの信頼に疑わしい点があれば、間違いなく米国は軍事的行動をする。後戻りはできない」と述べた。

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トルコ外務省報道官は、シリアの化学兵器の国際管理・廃棄に関するロシアの提案について「それ自体として前向きな進展だ」として歓迎の意を示しつつも、アサド政権がこうした合意を遵守することに「懐疑的」だと述べた。

またアブドゥッラ・ギュル大統領は「問題は化学兵器に限られない」と述べ、シリアの紛争が終息しないことに遺憾の意を示した。

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アラブ連盟は代表者会合を開き、シリアの化学兵器の国際管理・廃棄に関するロシアの提案について「ロシアのイニシアチブブを成功させるための必要な措置を講じる」ことを希望するとの認識で一致した。

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ヨルダン国王アブドゥッラー2世は、「私は親愛なる国人に、懸念したり、恐れたりする必要はないとして安心させたい。我々の姿勢は明確である。我々は包括的な政治解決を望んでいる」と述べた。

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イラク外務省は声明を出し、シリアの化学兵器の国際管理・廃棄に関するロシアの提案について「このイニシアチブは危機の軍事的緊張と激化を軽減する」と支持を表明した。

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シリア情勢に関する国連人権理事会の独立調査委員会は、シリア国内での人権侵害、戦争犯罪に関する最新の報告書を公表した。

同報告書は、周辺諸国での聞き取り調査・証拠など258件をもとに、2013年5月15日から7月15日にかけての被害についての調査を行った。

この時期の化学兵器使用に関して、報告書は「政府軍によるものとの主張がほとんど」だと指摘し、化学兵器攻撃に関して「化学兵器を使用した者の責任を追及し、訴追することが重要」との見解を示した。

また報告書は、反体制勢力のなかでサラフィー主義者が穏健な勢力を上回る影響力を確保していると分析、大量虐殺に関する報告のうち、軍によるとされるものが8件、反体制武装集団によるとされるものが1件あることを明らかにした。

そのうえで「この紛争に軍事的解決はなく…、ジュネーブ合意(2012年6月)の原則に基づく政治解決こそが和平に至る唯一の道である」と力説した。

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国連人道問題調整事務所はダマスカス郊外県で60万人が人道支援を必要としていると発表した。

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米国務省のジェン・サキ報道官は、ジュネーブで12、13日に予定されているジョン・ケリー米国務長官とロシアのセルゲイ・ラブロフ外務大臣の会談に関して、「(シリアの化学兵器の国際管理・廃棄に関するロシアの)提案が真摯なものかどうかを見極め、化学兵器を特定し、検証・確保したうえで、最終的に廃棄するしくみについて協議する」と述べた。

またサキ報道官はロシア側から、シリアの化学兵器を国際管理下に置くための計画案を受け取ったことを明らかにしたうえで、「詳細な計画というよりは、アイデアと呼ぶべきものだ。詳細は(ジュネーブで)協議する」と述べた。

さらに、シリアでの化学兵器使用をめぐる問題の外交解決について「当然、それなりの時間がかかる」と述べた。

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イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相は、シリアの化学兵器の国際管理・廃棄に関するロシアの提案について「アサド政権から化学兵器を確実に奪い取れねばならない」と述べた。

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『ワシントン・ポスト』(9月11日付)は、米国およびシリアの複数の消息筋の話として、CIAが2週間前にシリアの反体制勢力への武器供与を始めていたと報じた。

AFP, September 11, 2013、AKI, September 11, 2013、al-Hayat, September 12, 2013, September 13, 2013、Kull-na Shuraka’, September 11,
2013, September 12, 2013、Kurdonline, September 11, 2013、al-Nahar, September 11, 2013、Naharnet, September 11, 2013、NNA, September 11, 2013、Reuters,
September 11, 2013、Rihab News, September 11, 2013、SANA, September 11, 2013、UPI,
September 11, 2013、The Washington Post, September 11, 2013などをもとに作成。

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