シリア南部でダーイシュ(イスラーム国)系の武装集団「ジハード軍」が台頭、自由シリア軍南部戦線との対立表面化(2015年4月28日)

ダルアー県のナスィーブ国境通行所を管理する「ハウラーン法務局」は声明を出し、シリア南部で活動するすべての反体制武装集団(自由シリア軍南部戦線)に対して、クナイトラ県のカフターニーヤ町、ハミーディーヤ村を占拠するいわゆる「ジハード軍」と戦い、その司令官とメンバーを法務局に差し出すよう呼びかけた。

『ハヤート』(4月29日付)によると、ジハード軍はアブー・ムスアブ・ファンヌースィーを名乗る人物が指導し、ジハード中隊、ジュンド・イスラーム団、ズー・ヌーライン旅団、アブー・バスィール団、シャーム・ムジャーヒディーン運動、アフル・サラフ青年団、堅固な建造物団といったジハード主義武装集団からなり、ダーイシュを支持しているとされる。

ハウラーン法務局の声明によると、ジハード軍は、同地にいたる街道を封鎖し、ダルアー県で戦闘を行う「革命家」の展開を阻止するとともに、サイフ・ハック旅団(自由シリア軍南部戦線)の司令官サーミル・スワイダーニー大尉を暗殺したという。

ジハード軍はダルアー県で活動する自由シリア軍南部戦線を「覚醒評議会」、「背教者」、「アッラーの敵」と呼び、ダーイシュ(イスラーム国)に属している可能性があるという。

これに関して、SMO(4月28日付)は、クナイトラ県庁所在地のバアス市の制圧に向けた作戦を開始した自由シリア軍南部戦線に所属する武装集団がカフターニーヤ町でダーイシュと交戦した、と伝えた。

同報道によると、ダーイシュに忠誠を誓う複数の武装集団がカフターニーヤ町でナワー自由人大隊を要撃し、戦闘員3人を殺害、9人を負傷させ、約20人を捕捉したという。

また、シリア人権監視団は、ジハード中隊が、シリア軍と戦闘するために進軍していたジハード主義武装集団を要撃し、戦闘員6人(大尉1人を含む)を殺害したと発表した。

**

シリア人権監視団は、ジハード軍の台頭を受け、ダルアー県西部でも、ブルージュ・イスラーム旅団がサフム・ジャウラーン村に検問所を設置、またこれに先だってヤルムーク殉教者旅団がブルージュ・イスラーム旅団の司令官を拘束するなど、緊張が高まっていると発表した。

ブルージュ・イスラーム旅団とヤルムーク殉教者旅団の対立に関して、自由シリア軍南部戦線第1旅団は声明を出し、ヤルムーク殉教者旅団がクナイトラ県内で自由シリア軍メンバーを殺害、捕捉したことを「ヤルムーク殉教者旅団がイスラームの共同体(ムッラ)から逸脱した確たる証拠」と断じ、ヤルムーク殉教者旅団のメンバーや支持者に対して、「新たな偶像であるアブー・アリー・バリーディー司令官(ヤルムーク殉教者旅団)」からの離反を求めるとともに、バリーディー司令官およびその支持者の殺害は免罪されると発表していた。

**

自由シリア軍南部戦線に所属するヤルムーク軍は27日付で声明を出し、ダルアー県とクナイトラ県での自由シリア軍南部戦線とダーイシュ(イスラーム国)に属すとされる武装集団との対立激化に関して、「ダーイシュはアサド政権の手先だ…。革命家がブスラー・シャーム、ブスル・ハリールなどで勝利したことを受け、アサド政権こそがダーイシュにダルアーで活動するよう指示した」と批判した。

そのうえで「思想と軍事の両面においてダーイシュと戦うとかつて宣言した言葉を全うするため、我々は南部地域に差しのばされるダーイシュの手を断固として断ち切る準備ができていると宣言する」と強調した。

**

ダルアー県でや、SANA(4月28日付)によると、スワイダー県との県境に位置するブラーク村、カサーラ村、ダルアー市キャンプ地区、旧税関地区などで、シリア軍が反体制武装集団と交戦し、シャームの民のヌスラ戦線、イスラーム・ムサンナー運動の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

**

クナイトラ県では、SANA(4月28日付)によると、ハミーディーヤ村、カフターニーヤ町、西サムダーニーヤ村一帯、ラワーディー村で、シリア軍が反体制武装集団と交戦し、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

AFP, April 28, 2015、AP, April 28, 2015、ARA News, April 28, 2015、Champress, April 28, 2015、al-Hayat, April 29, 2015、Iraqi News, April 28, 2015、Kull-na Shuraka’, April 28, 2015、al-Mada Press, April 28, 2015、Naharnet, April 28, 2015、NNA, April 28, 2015、Reuters, April 28, 2015、SANA, April 28, 2015、SMO, April 28, 2015、UPI, April 28, 2015などをもとに作成。

(C)青山弘之 All rights reserved.