イスラエル軍戦闘機がゴラン高原シャイフ山北部の高原地域を侵犯し複数施設を空爆する一方、シリア革命反体制勢力国民連立のハティーブ議長が条件付きでアサド政権と対話に応じる意思を示す(2013年1月30日)

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イスラエルによる越境空爆

AFP(10月30日付)は、イスラエルの複数の治安筋の話として、シリアからレバノンに入国した車列を(レバノン領内で)イスラエル軍戦闘機が攻撃した、と報じた。

またイスラエルの匿名治安筋によると、イスラエル軍戦闘機は、レバノンに武器を輸送していると思われる車列をシリア領内でグリニッジ標準時23時30分(現地時間30日2時30分)に攻撃したという。

この報道に関して、イスラエル軍報道官はコメントを控えている。

なおこの攻撃に先立ち、イスラエル軍は28日にアイアンドーム防空システム2基を北部(占領下のゴラン高原方面)に配備していたほか、イスラエル政府・軍高官らが、シリアからヒズブッラーへの大量破壊兵器供与の可能性への危機感を表明していた。

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シリア軍武装部隊総司令部は声明を出し、イスラエル軍戦闘機がゴラン高原シャイフ山(ヘルモン山)北部の高原地域を低空で侵犯し、ダマスカス郊外県ジャムラーヤー地方にある軍の科学研究センターを空爆、同センター施設と隣接する民生の機器開発センター施設、駐車場を破壊、センター職員2人が死亡、5人が負傷したと発表した。

同声明は、この攻撃をシリアの主権と領空へのあからさまな侵犯と非難したうえで、イスラエル軍戦闘機がシリア・レバノン国境地帯での車列を攻撃したとの一部報道が誤りだと指摘した。

また同声明は、イスラエルの攻撃をレジスタンス支持やアラブの大義を堅持するシリアへの挑戦だとしつつ、報復権を行使する可能性については明言しなかった。

SANA(1月30日付)が報じた。

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AFP(1月30日付)は、ジャムラーヤー地方住民の話として、6発のロケット弾(ないしはミサイル)が施設に命中し、施設は半壊、2人が死亡したと伝えた。

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レバノンのNNA(1月30日付)は、レバノン領内でイスラエル軍戦闘機による空爆が起きた事実はない、と報じた。

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米匿名高官はAP(1月30日付)に対して、ヒズブッラーに供与される武器を積んだ車列を攻撃するための越境空爆が数日前からイスラエル軍によって準備されていたとしたうえで、武器のなかにはロシア製のSA-17地対空ミサイルなどが含まれていたと述べた。

なおジェイ・カーニー米ホワイトハウス報道官は、イスラエル軍の空爆に関して、「これらの報告に関してコメントすることはない」と述べた。

国内の動き(シリア政府の動き)

シリア外務在外居住者省は、国連安保理議長と事務総長に宛てて書簡を送付、そのなかでアレッポ市ブスターン・カスル地区クワイク川岸で60体以上の遺体が発見された事件に関して、シャームの民のヌスラ戦線の犯行と断じ、国際社会に断固たる姿勢で対応するよう求めた。

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クッルナー・シュラカー(1月30日付)は反体制運動に協力的な大統領府消息筋の話として、アサド大統領がファールーク・シャルア副大統領を解任する意向を持っていたが、イランより、バアス党シリア地域大会を開催し、党内の人事改編の一環として副大統領の退任を進めるよう進言を受け、解任を思いとどまったと報じた(未確認情報)。

国内の暴力

ダマスカス郊外県では、SANA(1月30日付)によると、ドゥーマー市、ダーライヤー市、スバイナ町などで、軍が反体制武装勢力の追撃を続け、多数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

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アレッポ県では、SANA(1月30日付)によると、サフィーラ市、マンナグ村、ナッカーリーン村、ハーン・トゥーマーン村などで、軍が反体制武装勢力の追撃を続け、シャームの民のヌスラ戦線、ズィー・ヌーライン旅団のメンバーなど多数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

またアレッポ市では、バーブ街道、アーミリーヤ地区、タッル・ザラーズィール地区、カルム・マイサル地区などで、軍が反体制武装勢力の追撃を続け、多数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

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ダルアー県では、SANA(1月30日付)によると、バスル・ハリーラ市などで、軍が反体制武装勢力の追撃を続け、多数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

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ハサカ県では、SANA(1月30日付)によると、シャッダーディー市で軍が反体制武装勢力と交戦し、多数の戦闘員を殺傷、撃退した。

またクルディーヤ・ニュース(1月30日付)は、ラアス・アイン市で反対武装勢力に誘拐された市民が遺体で発見されたと報じた。

遺体は両手を後ろでに縛られ、拷問の跡が残っていたという。

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ヒムス県では、SANA(1月30日付)によると、ラスタン市、アイン・フサイン村、タルビーサ市郊外などで、軍が反体制武装勢力の追撃を続け、多数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

またレバノン領内からタッルカラフ地方に潜入しようとした反体制武装勢力を国境警備隊が撃退した。

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ハマー県では、SANA(1月30日付)によると、カルナーズ町、ハウワーシュ村、ハマーミーヤート村、カフルヌブーダ町などで、軍が反体制武装勢力の追撃を続け、多数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

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イドリブ県では、SANA(1月30日付)によると、イドリブ・サルミーン街道沿い、ラーミー村、カフルズィーター市などで、軍が反体制武装勢力の追撃を続け、アブー・バクル大隊メンバーを含む多数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

一方、クッルナー・シュラカー(1月30日付)は、ジスル・シュグール市郊外の対トルコ国境に位置するジャーヌーディーヤ町に展開していた軍が突如として撤退した、と報じた(未確認報道)。

反体制勢力の動き

シリア国民革命反体制勢力国民連立のアフマド・ムアーッズ・ハティーブ議長は声明を出し、ワーイル・ハルキー首相による反体制勢力に対話参加を呼びかけるための各県分科委員会の設置(1月29日)を批判し、①160,000人に達する逮捕者の釈放、②在外シリア人が保有する期限切れのパスポートの更新と2年以上の有効期間延長、をシリア政府に求め、この2点を対話の条件とすると発表した。

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シリア国民評議会は声明を出し、シリア政府との対話に二つの条件を提示したシリア革命反体制勢力国民連立のアフマド・ムアーッズ・ハティーブ議長の声明を「連立の立場を表現しておらず、現体制との対話の一切を拒否するとした内規に矛盾する」と厳しく批判した。

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カフルナブル市(イドリブ県)地元評議会は、シリア革命反体制勢力国民連立に宛て公開書簡を発表し、そのなかで同市への人道支援配給が遅れていると批判した。

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クルディーヤ・ニュース(1月30日付)は、クルド語サイトからの報道として、ハーリド・ミシュアル大隊のウサーマ・ヒラール司令官が、ラアス・アイン市の「解放」のため同市に進入したが、民主統一党人民防衛隊によって阻止されたと語ったと報じた。

ヒラール司令官によると、ミシュアル大隊は425人の戦闘員からなり、ハサカ革命軍事評議会(ハサン・アブドゥッラー大佐)の傘下で戦闘を行っている。

またラアス・アイン市侵攻には、シャーム外国人大隊、ジャズィーラ自由人大隊、グワイラーン自由人大隊、使徒末裔大隊などが参加したという。

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アブドゥルハリーム・ハッダーム前副大統領が声明を出し、アラブ諸国首脳に対して、シリア国民を救済するための軍事的連立組織の結成、シリア人への武器供与を呼びかけた。

また一部のアラブ諸国が、シリア革命反体制勢力国民連立、自由シリア軍参謀委員会の結成を通じて、実行力のある政治・軍事組織を排除したことが、反体制勢力の対立を助長している、と批判した。

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市民権潮流(欧州)は声明を出し、シリア革命反体制勢力国民連立のアフマド・ムアーッズ・ハティーブ議長が条件付きでアサド政権と対話に応じる意思を示したことに関して、「内戦や社会的構成への破壊的影響を回避するあらゆる政治的解決のプロジェクトに共鳴する」と支持を表明した。

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シリア国家建設潮流は声明を出し、イスラエル軍戦闘機によるシリアへの越境空爆を、シリア国内のいかなる政治勢力にも受け入れられない敵対行為を非難、アサド政権に対して、軍を民衆に向けるのではなく、「主権の番人」とするよう求めた。

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地元調整諸委員会は声明を出し、ラアス・アイン市への自由シリア軍・サラフィー主義者の侵攻(と民主統一党人民防衛隊との戦闘)を「革命の敵以外の何者にも奉仕しないアジェンダ…が入り込んていることの明白な兆候」と非難した。

クルド民族主義勢力の動き

クルディーヤ・ニュース(1月30日付)は、クルド最高委員会が特別委員会を設置し、シリア革命反体制勢力国民連立との連絡態勢を整えようとしていると報じた。

特別委員会の設置は、ラアス・アイン市への侵入を続ける自由シリア軍・サラフィー主義者と民主統一党人民防衛隊の戦闘を受けたものだという。

諸外国の動き

国連主催のもと、クウェートでシリア支援国会議が開催され、59カ国の代表、国連潘基文事務総長ら13の国際機関の代表が出席した。

会議では、クウェート、サウジアラビア、UAEがそれぞれ3億ドル、米国が1億5500万ドルの供与を発表し、参加国による援助額の総計は10億ドル以上となった。

しかし国連は、国外避難民100万人と国内被災者400万人の救援に15億ドルが必要だとしており、各国の支援はこれに達しなかったことになる。

なおシリア政府、シリア革命反体制勢力国民連立の代表はいずれも招待されなかった。

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国連バレリー・アモス人道問題担当事務次長は、支援国会議出席のため訪れたクウェートで、「我々は現地で多くのパートナーとともに活動しており、政府に直接資金が行っているなどということはない」と述べ、シリア国内の人道支援の配給で政府支持者が優遇されているとの見方(国境なき医師団)を否定した。

AFP, January 30, 2013、Akhbar al-Sharq, January 30, 2013、AP, January 30, 2013、al-Hayat, January 30, 2012, January 31, 2013、Kull-na Shuraka’, January 30, 2013,
January 31, 2013、al-Kurdiya News, January 30, 2013、Naharnet, January 30,
2013、NNA, January 30, 2013、Reuters, January 30, 2013、SANA, January 30,
2013などをもとに作成。

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