アレッポ市の反体制武装勢力占拠区域で60体以上の遺体が放置されているのが発見される一方、ラアス・アイン市での戦闘のため自由シリア軍・サラフィー主義者がトルコから増援部隊を投入していることが明らかに(2013年1月29日)

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国内の動き(シリア政府の動き)

ワーイル・ハルキー首相は、危機解決政治プログラムの方針に沿って、反体制勢力を含む政治団体、職業諸組合、人民諸組織、NGO、宗教団体、経済団体などに、国民対話大会の形式と内容を検討するための対話への参加を呼びかけるための分科委員会を各県に設置する決定を発した。

同分科委員会は、各県知事を委員長とし、バアス党支部指導部書記長、県議会議長、県警察署長、人民議会和解委員会、国民和解問題担当大臣事務局の代表からなる。

またハルキー首相は、周辺諸国に避難しているシリア人の帰国を監督するための委員会を設置した。

同委員会は、最高支援会議の代表を委員長とし、国民安全保障会議、外務在外居住者省、法務省、内務省、国民和解問題担当大臣事務局、赤新月社・海運法問題担当大臣事務局、シリア赤新月社の代表からなる。

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バウワーバ(1月29日付)は、アスマー・アフラス大統領夫人が妊娠5ヶ月目を迎えた、と報じた。

Youtube, August 23, 2012

Youtube, August 23, 2012

アサド大統領はアスマー夫人との間に、長男ハーフィズ(2001年生まれ)、長女ザイン・シャーム(2003年生まれ)、次男カリーム(2004年生まれ)の3人の子供を設けている。

国内の暴力

アレッポ県では、反体制武装勢力が占拠するアレッポ市ブスターン・カスル地区のクワイク川岸で、60体以上の男性の遺体が放置されているのが発見された。

遺体のほとんどは20歳代から30歳代の男性の遺体で、後ろ手に縛られ処刑された跡が見られた。

これに関して、クッルナー・シュラカー(1月29日付)は、発見された遺体のうち17人が空軍情報部に身柄拘束されていた市民で、遺体発見場所のブスターン・カスル地区は政府軍が支配していたと報じた。

一方、SANA(1月29日付)は、報道筋の話として、遺体の多くがシャームの民のヌスラ戦線によって誘拐・処刑されたものだと多くの住民が認めていると報じた。

同報道によると、誘拐・処刑された住民の多くは、ヌスラ戦線への協力を拒否し、同戦線に住宅地からの退去を要求していたのだという。

http://www.youtube.com/watch?v=W5HQeS-Tpl0&feature=youtu.be

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同じくアレッポ県では、クッルナー・シュラカー(1月29日付)は、アレッポ市内で反体制武装勢力(自由シリア軍)がタルトゥース県出身の空軍士官4人を暗殺した、と報じた。

一方、SANA(1月29日付)によると、サフィーラ市、ハルバシュ村、ナッカーリーン村、ハーン・トゥーマーン村などで、軍が反体制武装勢力の拠点を攻撃し、多数の戦闘員を殺傷した。

またアレッポ市では、ハイダリーヤ地区などで、軍が反体制武装勢力の拠点を攻撃し、多数の戦闘員を殺傷した。

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ハサカ県では、クッルナー・シュラカー(1月29日付)によると、ラアス・アイン市での民主統一党人民防衛隊と自由シリア軍・サラフィー主義者の戦闘が続き、アラブ系住民がクルド民族主義政党である民主統一党の側について戦う一方、自由シリア軍・サラフィー主義者はトルコから増援部隊を投入していると報じた。

またクルディーヤ・ニュース(1月29日付)は、ラアス・アイン市での戦闘に関する現地取材レポートを掲載した。

同レポートによると、ラアス・アイン市で民主統一党人民防衛隊と交戦している自由シリア軍は、ハサカ軍事評議会、使徒末裔大隊、ミシュアル・タンムー大隊、アーザーディー大隊で、いずれもトルコから戦車・装甲車4輌を伴い潜入した。

また戦闘には、アレッポ県からの外国人戦闘員、そしてラッカ県革命軍事評議会も参加している、という。

民主統一党は、ラアス・アイン市での戦闘で、自由シリア軍の兵士120人以上が死亡、約70人が負傷したと発表する一方、地元の調整組織などによると、自由シリア軍側の死者は40人程度だという。

一方、同調整組織によると、民主統一党人民防衛隊の兵士は12人が死亡、25人が負傷したという。

民間人の死者は、クルド・シリア文書センターによると13人にのぼる。

同レポートによると、民主統一党人民防衛隊は「治安スクウェア」と呼ばれるラアス・アイン市の要所を奪還し、戦闘は現在国立病院周辺で激しく行われている、という。

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ダマスカス郊外県では、SANA(1月29日付)によると、ダーライヤー市、ドゥーマー市郊外、ズィヤービーヤ町、バービッラー市などで、軍が反体制武装勢力の拠点を攻撃し、多数の戦闘員を殺傷、装備を破壊した。

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ダマスカス県では、SANA(1月29日付)によると、クスール地区で、アブドゥッラッザーク・クタニー人民議会議員の車に仕掛けられた爆弾が爆発し、同議員が負傷した。

また旧市街のシャーリウ通りで、反体制武装勢力が仕掛けた爆弾が爆発し、商店主1人が負傷した。

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ヒムス県では、SANA(1月29日付)によると、カルナーズ町、ヒムス市東部、ブルハーニーや市、サクラジー市、アーミリーヤ市、クサイル市などで、軍が反体制武装勢力と交戦し、多数の戦闘員を殺傷した。

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イドリブ県では、SANA(1月29日付)によると、イドリブ中央刑務所周辺、ジスル・シュグール市、アブー・ドゥフール市などで、軍が反体制武装勢力と交戦し、多数の戦闘員を殺傷した。

またカフルタハーリーム町では、反体制武装勢力どうしが略奪品の分配をめぐって衝突し、複数の戦闘員が死傷した。

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ダイル・ザウル県では、マサール・プレス(1月29日付)が、ダイル・ザウル市内の政治治安部を自由シリア軍が制圧・解放したと報じた(未確認情報)。

反体制勢力の動き

ジュネーブで民主的変革諸勢力国民調整委員会のハイサム・マンナーア在外局長の主導のもと1月28日から続けられていたシリアの反体制活動家による「民主的シリアと市民国家のためのシリア国際会議」が閉幕声明を発表して閉会した。

閉幕声明の骨子は以下の通り:

1. 2012年6月のジュネーブ合意を暴力停止の基礎とする。
2. 同じくジュネーブ合意に基づき、政府と反体制勢力の交渉を通じた政治プロセスを確立し、移行期政府を樹立し、全権を委任し、国際社会の監視のもとで国会、大統領選挙を行う。
3. 現地情勢の進捗を踏まえた「ジュネーブ合意2」の成立を呼びかけ、国連憲章第7章のもとに安保理が政治プロセスを監督する。
4. 避難民への人道支援と補償。
5. シリアの国民統合の維持、人権、基本的自由を尊重した政体、近代社会、市民的平等の確立。
6. 上記合意の実行するため、民主的市民的勢力結集を目的とする委員会と、国際社会との協調・調整を目的とする委員会の設置。

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シリア革命反体制勢力国民連立は声明を出し、アレッポ市ブスターン・カスル地区で60体以上の遺体が発見されたことに関して、アサド政権による新たな「虐殺」と断じ、国際社会に対して事件の調査と国際刑事裁判所での審理・処罰を呼びかけた。

諸外国の動き

新華社通信(1月29日付)は、中国外交部の洪磊報道官がシリア情勢に関して、「シリア政府と反体制勢力の双方にプラグマティズムに則り…、すべての関係当事者が政治的対話と移行プロセスを早急に開始できるような解決策をめざすべき」だと述べたと報じた。

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国連難民高等弁務官事務所報道官は、周辺諸国に避難したシリア人の数が70万人を超えたと述べた。

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クウェートで1月30日に開催予定の国連シリア支援国会議に先立って、EUはシリア人避難民に対する1億ユーロの追加支援を行うことを発表した。

EUはすでに1億ユーロを供与している。

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ロバート・フォード駐シリア米大使は『ハヤート』(1月30日付)のインタビューに答え、そのなかで「米国がシリア革命反体制勢力国民連立を破綻させようとしているとの言説は奇妙な話で…シリア政府から発せられているのだろう」と述べ、同連立を支持・支援を続けていることを強調した。

しかし移行期政府発足に関して、それが発足されればシリア革命反体制勢力国民連立に対するのと同じように支持するとしつつ「彼らの統合がきわめて重要であり…、この暫定政府発足宣言がこの統合を脅かして欲しくないと思っている」と暗に消極的な姿勢を示した。

また「政府の発足は反体制派の連立を結成することとは違う。政府は、官僚機構や…人々にサービスを提供する体制を必要とする。現在こうした状況が充分だと言えるのか?」と述べ、シリアの反体制勢力の力量不足を暗示した。

一方、シリアの現状に関しては、アサド政権が「徐々に現地での支配力を失っている…が、彼(アサド大統領)は自由シリア軍が自身の宮殿の門前に来るまで勝っていると考え続けるだろう」と述べた。

さらに、シャームの民のヌスラ戦線などサラフィー主義勢力の台頭に関しては「自由で民主的なシリアでどうしてアル=カーイダのような組織が受け入れられようか。シリア人は寛容で、宗派的に多様だ…。しかしヌスラ戦線は最初からイスラーム国家を建設すると述べ、選挙を拒否している」と排除する意向を改めて示した。

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『ハヤート』(2月2日付)は国連安保理の複数の西側外交筋の話として、1月29日の国連安保理の非公式会合でアフダル・ブラーヒーミー共同特別代表が提案した紛争和解に向けた6項目提案を明らかにした。

同報道によると、この非公式会合においてブラーヒーミー共同特別代表は、「国連安保理によるイニシアチブとすべく」この6項目を提案したという。その骨子は以下の通り:

1. シリアの独立、主権、国土保全は維持されねばならない。
2. 移行プロセスの目的は、シリア国民が尊厳権と人権を合法的に行使することを認める者でなければならない。
3. 2012年6月のジュネーブ合意に基づき、行政権の全権を有する移行期政府を樹立する。また移行期政府発足のための会合を開始する前にシリアのすべての当事者がこのことを明確にする。
4. ジュネーブ合意が規定する「全権を有する移行期機関」に関して、アサド大統領が移行プロセスにおいて何らの役割も果たさないという意味で理解する。
5. 実質的交渉は、反体制勢力を完全に代表する確固たる代表団と現政権の文民・軍人からなる代表団の間で行われる。
6. 交渉は国外で開始され、合意された期間内に行うものとする。それにより選挙、憲法の再検討・修正・承認を迅速に行うことを担保する。

ブラーヒーミー共同特別代表はまた、アサド政権や反体制勢力との意見交換を通じて、現行の大統領制から議院内閣制に移行することが困難ではないと判断したと述べる一方、シリア国民が人種、宗教、言語を超えて法の前の完全なる平等を享受することを安保理が明確なかたちで支持表明することが肝要だと強調した。

さらに、シリア国内での殺戮に関しては、国際調査機関による調査、責任者の処罰を支持する意向を示した。

AFP, January 29, 2013、Akhbar al-Sharq, January 29, 2013、Albawaba.com, January 30 2012、al-Hayat, January 30, 2013, January 31, 2013, February 2, 2013、Kull-na Shuraka’,
January 29, 2013, January 30, 2013、al-Kurdiya News, January 29, 2013、Masarpress.com,
January 29, 2013、Naharnet, January 29, 2013、Reuters, January 29, 2013、SANA,
January 29, 2013、UPI, January 29, 2013、Youtube, January 29, 2013などをもとに作成。

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