「シリア革命2011」がアサド政権に対するロシアの姿勢に反対するデモを呼びかける、アラブ諸国第136回定例外相会議が閉幕し発砲停止の必要性が改めて強調される(2011年9月13日)

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反体制運動をめぐる動き

複数の活動家によると、シリア治安部隊がデモ抑止の新たな戦術として行っている各地での活動家逮捕・捜索活動により、昨日少なくとも8人が殺害、数十人が逮捕された。また逮捕者は殴打されるなどの蛮行を受け、その自宅も損害を被っているという。

Kull-na Shuraka', September 13, 2011

Kull-na Shuraka’, September 13, 2011

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ハマー県では、カフルヌブーダ町で行われた犠牲者の葬儀に軍・治安部隊が発砲し、5人が殺害された。葬儀中、約200人の会葬者がバッシャール・アサド政権の打倒を叫んでいた。

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ダイル・ザウル県では、軍・治安部隊による活動家の逮捕・追跡作戦で1人が殺害された。

一方、SANA(9月14日付)は、ダイル・ザウル県のクーリーヤ市、ブーカマール市で治安当局は、ライフル、ショットガンおよび弾薬など大量の武器を押収したと報じた。

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ヒムス県では、オガレット・ニュースによると、ラスタンで2人が殺害された。

これに対して、SANA(9月14日付)は、ヒムス県サアン・アスワド村武装テロ集団が夜間に移動中の軍の車輌を要撃し、士官1人、民間人1人が死亡、兵士5人が負傷したと報じた。またラスタン県でも軍の車輌が要撃に遭い、兵士4人が負傷した。

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フェイスブックの「シリア革命2011」は「ロシアに対する怒りの火曜日」と銘打って、バッシャール・アサド政権に対するロシアの支持に反対するデモを呼びかけていた。

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これに呼応するかたちで、複数の活動家らによると、12日晩からダルアー県、ヒムス県、イドリブ県、ハマー県、ダマスカス郊外県の一部のみデモが行われ、参加者はロシア国旗を焼き、アサド政権を支持する同国の姿勢を批判した。

しかしこれに対して軍・治安部隊がただちに強制排除に乗り出し、シリア人権監視団と地元調整委員会がデモ参加の動員を行った。

ダマスカス郊外県のザバダーニー市では、13日早朝から軍・治安部隊が展開し、少なくとも34人が逮捕された。逮捕者は多かったが、「ロシアに対する怒りの火曜日」はラマダーン月後の反体制勢力の動員力の低さ、そして平日の一般国民のデモへの参加率の低さを示す結果に終わった。

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9月9日からカイロで開催されていた「シリア国民支持支援週間」が閉幕した。

閉幕声明を発表するとともに、「シリア人のための国民倫理綱領」を作成・発表し、シリア国民による自由、尊厳、体制打倒という合法的要求への完全なる支持、公正、知識、道徳的価値、人道の普及、民主的市民国家の建設、宗派主義の根絶、平和的示威行動に対する暴力行使への反対という立場を確認。

また「アラウィー派宗徒に向けた声明」を出し、アサド政権がアラウィー派の宗派体制ではなく、特定の支配家族に奉仕する体制だと述べ、宗派主義的言動を拒否するとの姿勢を明示した。

「アラウィー派宗徒に向けた声明」にはシリア・ムスリム同胞団、シリア国民支援イスラーム教ウラマー大会、シリア・ウラマー連盟、マアシューク・ハズナウィー宗教対話・寛容・刷新機構などが署名した。

一方、カイロのアラブ連盟本部前では、シリア人約千人が、外相会議に合わせてアサド政権に対する連盟の態度を非難するデモを行った。デモでは、「エルドアンよ、エルドアン、ハルムーシュはどこだ」といったシュプレヒコールも行われ、外相会議に出席したトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン首相も非難の対象となった。

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『シャルク・アウサト』(9月13日付)は、キリスト教徒の若者たちが、司祭たちの多くがアサド政権への支持を表明しているなかで、「キリスト教のもっとも基本的な人道的・精神的諸原則と矛盾している」とみなし、「キリスト教徒を祖国において正しい立場に回帰させる」ための会合・フォーラムの開催を検討している、と報じた。

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パリに渡航しようとしていた心理アナリストのラファー・ナーシド女史がダマスカス国際空港で9月10日(土曜日)に逮捕されたと、夫でダマスカス大学のファイサル・ムハンマド・アブドゥッラー教授が明らかにした。これを受け、フランス外務省報道官は、ナーシド女史の即時釈放を要求した。

Kull-na Shuraka', September 13, 2011

Kull-na Shuraka’, September 13, 2011

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シリア変革大会(アンタルヤで発足)は13日に声明を出し、GCC閣僚評議会に対して、「シリアでの殺戮装置の即時停止」を求めるよう呼びかけた。

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DPI(9月14日付)は、シリアの複数の活動家の話として、治安当局が9月13日晩、ダマスカス郊外県ダーライヤー市でのギヤース・マタル氏の葬儀を襲撃したと報じた。襲撃に先立ち、アメリカ、フランス、デンマーク、日本の大使が弔問に訪れていた。

一活動家の葬儀への大使参列という「挑発行為」に対して当局が力を誇示し、西側諸国の干渉や扇動に断固たる姿勢を示したかたち。資料映像はhttp://www.youtube.com/watch?feature=player_embedded&v=jUJNfjcLzlEを参照。

アサド政権の動き

県・大学レベルの国民対話会合での審議が各県で引き続き行われた。

ダマスカス県の会合では、汚職撲滅(汚職に対抗し得る司法のしくみの創出)、行政改革、外国の陰謀への抵抗、国民統合強化、経済改革、市民社会を構成する組織・団体の活性化、市民意識の強化、社会保障の拡充、メディアの活性化、治安回復、脱税への対処、分権化、脱官僚化、地方への投資の奨励、武装テロ集団に対峙するシリア軍に対する支援の評価、産業育成・支援などが審議された。

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『シャルク・アウサト』(9月13日付)は、国営のシリア石油販売会社(スィトロール)は、米国、EUなど西欧諸国による石油禁輸制裁に対抗するかたちで、10月半ばに原油の出荷量を160,000トン増加させることを決定。シリアの最大の石油輸出先であるEUは禁輸制裁を発動しているが、シリアは契約により11月15日までEUに原油を輸出できる、という。

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Kull-na Shuraka', September 13, 2011

Kull-na Shuraka’, September 13, 2011

アーディル・サファル内閣高官は、「9月6日の閣議で決定第1/12562を出し、各省職員が大臣の許可なく、省の執務に関する報道発表を行うことを禁じ、施行前の新情報法によって保障されるはずの表現の自由を奪った」(『シリアン・デイズ』9月12日付)との報道を否定。

諸外国の動き

アラブ諸国第136回定例外相会議がカイロで開催され、「流血停止と、シリア国民に対するさらなる暴行・殺戮回避のため、早急に変革を行うこと」を求める声明を発表し、閉幕した。

閉幕声明では、「シリアの危機に関する様々なレベルでの折衝が行われ、またアラブ連盟が、国民の要求実現、シリアの治安、安全、領土保全、外国の干渉禁止などへの対処に寄与するための方法が審議された」したうえで、「発砲および暴力行為が停止した後に高官レベルの使節団を派遣し付託されたに無を実行する」と発表された。

外相会議ではシリアが8項目からなるイニシアチブ案を提示し、これを各国外相は声明において支持を表明した。このイニシアチブは、「アラブ諸国における民主主義と改革の強化、非常事態解除に向けた行動、包括的国民対話への呼びかけ、議会設置、政党発足などを含むすべての自由を保障する憲法の制定」などからなっている。

ナビール・アラビー事務総長はカタールのシャイフ・ハマド・ブン・ジャースィム首相兼外相との共同記者会見で、アサド大統領が使節団派遣を受け入れたが、連盟が発砲停止後に派遣することを決定したと述べた。また議長を務めたジャースィム首相兼外相は「シリアの暴力装置を停止させねばならない」と述べ、使節団派遣に向けて、シリア政府に改めて「シリアでの殺戮の停止と都市からの軍撤退」を求めた。

しかしSANA(9月15日付)によると、シリアのユースフ・アフマド・アラブ連盟代表は、声明「全体およびその詳細を拒否」すると述べた。外相会議で、アフマド代表は「危機解決に寄与しない消極的な姿勢をとり、陰謀を推し進め、シリアへの忌まわしい圧力を加える一部の国際社会の諸勢力に荷担するアラブの当事者がいる…。(声明の)全文、そしてその詳細を拒否し、それを敵対行為とみなし、シリアの危機への対処をめぐって非建設的で、アラブ連盟事務局長のミッションを失敗させようとする動きとみなす」と述べた。

一方、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン首相は、シリア政府が改革を実施していないとし、シリア国民がもはやバッシャール・アサド大統領を信頼してないとの考えを示した。またこれに先だって、「諸国民の合法的要求は力による弾圧されてはならない」と明言した。

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SANA(9月13日付)によると、ロシアのミハイル・ボグダノフ外務次官はブサイナ・シャアバーン大統領府情報顧問との会談で、ロシア政府がアサド政権の「改革路線と、民主的選挙実施の意思に安堵している」、「シリア国民がこの危機を平和的に克服し、反映と発展を取り戻すと確信している」、「ロシアはシリアでリビアのシナリオが繰り返されないとの意思を持っている」と述べたと報じた。

これに対して、シャアバーン大統領府情報顧問は「シリアで起きていることは、地域で起きていることと切り離すことはできない」、「シリアの危機には…シリアに対する情報戦争といった側面もあり、それによってシリアの弱体化、信頼喪失、暴力行為のエスカレート、エスニック・宗派的亀裂の助長などが計られている」と応え、ロシアの姿勢を高く評価した。

シャアバーン大統領府情報顧問は9月10日から13日にかけてロシアを訪問・滞在していた。

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フランスのアラン・ジュペ外務大臣が中国を訪問し、中国に国連での対シリア制裁決議への支持を求めたが、中国への説得工作に進展があったかとの問いに、「実際にはない…。我々の関係は良好だが、このことは我々がすべてのことで合意していることを意味しない」と答えた。

SANA, September 13, 2011

SANA, September 13, 2011

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一方、FIDH、ヒューマン・ライツ・ウォッチ、エジプトのNPO20団体、シリアの人権組織2団体、スーダン、イエメン、モロッコ、モーリタニア、ヨルダン、レバノン、パレスチナ、チュニジアなどアラブ諸国内外の市民団体176団体がアラブ連盟にシリアのメンバーシップ凍結を求めた。

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レバノンをめぐる動き

進歩社会主義党のワリード・ジュンブラート党首は、自身がアサド大統領ないしは、ヒズブッラーのハサン・ナスルッラー書記長との会談を願い出たとの一部報道を否定した。

しかし複数の消息筋によると、シリアの反体制運動に理解を示す最近のジュンブラートの発言は、アサド政権の怒りを買っており、進歩社会主義党の幹部であるガーズィー・アリーディー公共労働大臣が事態を収拾すべく、ジュンブラートのシリア訪問を3度にわたって調整したが、いずれも失敗に終わった、という。

AFP, September 13, 2011, September 14, 2011、DPI, September 14, 2011、al-Hayat, September 14, 2011, September 15, 2011、Kull-na Shuraka’, September 13,
2011, September 14, 2011、al-Liwa’, September 12, 2011、Naharnet, September 12, 2011, September 13, 2011, September 14, 2011、Reuters, September 13, 2011, September 14, 2011、SANA, September 13, 2011, September 14, 2011、al-Sharq al-Awsat, September 13, 2011などをもとに作成。

 

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