イドリブ県でシリアのアル=カーイダと共闘していた国民解放戦線が、トルコの要請を受けて、トルコ占領下のアレッポ県北部で活動する国民軍(シリア国民連合暫定内閣国防省指揮下)に統合される(2019年10月4日)

シリア革命反体制勢力国民連立の傘下で活動する暫定内閣のアブドゥッラフマーン・ムスタファー首班は、トルコ南部のシャンルウルファ市で記者会見を開き、国民解放戦線が暫定内閣国防省指揮下の国民軍に統合されたと発表した。

ムスタファー首班は「国民軍の目的は、腐敗、宗派主義、そして独裁からの国土解放であり、我々はイドリブ県、ハマー県、ラタキア県郊外を防衛するためにあらゆる努力を行い…、アサド政権によって掌握されている全土を回復するために行動する」と述べた。

記者会見には、暫定内閣国防大臣のサリーム・イドリーブ氏も同席し、「ユーフラテス川東部に関して、この地域はシリア領であり、崇高なるシリアの領土であるこの地域において闘うことは我々の義務だ」としたうえで、「我々は断固たる決意と力をもって、そしてまたトルコ共和国の同胞の支援をもって、クルディスタン労働者党(PKK)の悪党に代表されるあらゆるテロと闘う」と述べた。

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国民軍は2017年12月30日にシリア革命反体制勢力国民連立傘下の暫定内閣国防省がアレッポ県アアザーズ市の参謀委員会本部での会合で結成を宣言した反体制武装集団の連合体。

会合には、アレッポ県東部および北部で活動するすべての反体制武装集団(「家の者たち」作戦司令室、「ユーフラテスの盾」作戦司令室、ハワール・キリス作戦司令室所属組織)の幹部が参加した。

2017年9月に「ハワール・キリス作戦司令室」が設置した統合司令部がその原型。

統合司令部は「国民軍ブロック」、「スルターン・ムラード・ブロック」、「ナスル・ブロック」の三つに大別され、スルターン・ムラード師団、スルターン・ウスマーン旅団、精鋭軍、北部の鷹旅団、北部旅団、ハムザ旅団、第9師団、第23師団、ジャズィーラ革命家、末裔軍、スルターン・スライマーン・シャー旅団、シャームの鷹旅団、ムウタスィム旅団、特殊任務旅団、シャーム自由人イスラーム運動、イスラーム軍、覚醒師団、東部自由人、第1連隊、第5連隊、アサーラ・ワ・タンミヤ戦線、サマルカンド旅団、ムンタスィル・ビッラー旅団、ムハンマド・ファーティフ旅団、ワッカース旅団、第3旅団が参加していた。

これが、国民軍を構成する三つ軍団、すなわち第1軍団(国民軍)、第2軍団(スルターン・ムラード軍団)、第3軍団(シャーム戦線軍団)となった。

一方、国民解放戦線は2018年5月にイドリブ県で活動するが糾合して結成された武装連合体で、シリア・ムスリム同胞団系のシャーム軍団、アル=カーイダ系のシャーム自由人イスラーム運動、シャーム解放機構から分離した「穏健な反体制派」のヌールッディーン・ザンキー運動、自由イドリブ軍、第1沿岸師団、第2沿岸師団、第1歩兵師団、第2軍、精鋭軍、ナスル軍、ダーライヤー・イスラーム殉教者旅団、自由旅団、第23師団、殉教者ムハンマド・サッルーム大隊、ジュンキョウシャアリー・バッルー大隊、北部の鷹大隊、殉教者ラビーア・ハムシュー大隊、北部革命家大隊、ムバッシリーン大隊、殉教者フドル・ハムシュー大隊、アンダーン特殊任務大隊、北部の騎士大隊、殉教連隊、殉教者アブー・サルムー・シャッガール大隊、殉教者アフマド・アッルー大隊などからなる。

2019年5月、シリアのアル=カーイダと目されているシャーム解放機構、「穏健な反体制派」として知られていたイッザ軍とともに「必勝」作戦司令室を結成し、イドリブ県、ハマー県北部、ラタキア県北東部でシリア軍と交戦を続けている。

なお、「必勝」の戦いを構成するシャーム解放機構、イッザ軍は国民軍統合には参加しなかった。

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なお、シリア人権監視団、ドゥラル・シャーミーヤ(10月4日付)、スマート・ニュース(10月5日付)によると、国民軍に統合された国民解放戦線は、第4軍団、第5軍団、第6軍団、第7軍団へと改編にされた。

国民解放戦線と国民軍の再編はトルコの要請によるものだという。

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国民解放戦線に所属する武装集団の一つアフラール軍のアブー・サーリフ・タッハーン司令官は、国民解放軍の国民軍への統合に関して、ツイッターのアカウント(https://twitter.com/Abo_Saleh_4)を通じて、シリア軍への徹底抗戦継続への意志を表明した。

 

AFP, October 4, 2019、ANHA, October 4, 2019、AP, October 4, 2019、al-Durar al-Shamiya, October 4, 2019、Reuters, October 4, 2019、SANA, October 4, 2019、SMART News, October 4, 2019、SOHR, October 4, 2019、UPI, October 4, 2019、Zaman al-Wasl, October 4, 2019などをもとに作成。

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