アサド大統領「トルコが難民を帰還させたいと考えているとは誰も信じていない。トルコは人種主義に基づく紛争と過激派社会を作り出そうとしている」(2019年11月15日)

アサド大統領はロシア24チャンネルとラシーヤ・シヴォードニャ通信社のインタビューに応じた。

インタビューは通訳を介して行われ、アサド大統領はアラビア語で答えた。

アサド大統領はインタビューのなかで、「トルコがシリア北東部にシリア難民300万人を帰還させたいと考えているなどとは誰も信じていない。それはトルコ政府が提示した人道主義的な触れ込みに過ぎず、欺くことが目的で、この地域に人種主義に基づく紛争を創出し、テロリストを家族ごと呼び込み、(レジェップ・タイイップ・)エルドアン大統領がめざすヴィジョンに沿った過激派社会を作ろうとしている」と述べた。

また「シリアのクルド人のほとんどは愛国的で、国家、そしてシリア国民とともにあるが、一部のクルド人グループとアラブ人グループが米国の手先となっている」と指摘、その一方で「彼らが北部でシリア軍に復帰するための対話が行われており、我々みなが憲法を遵守すれば安定が得られると彼らを説得している」と付言、「シリア人のほとんどは9年におよぶ戦争を経て、政治的な意見の相違を度外視して、国家と一つになることの重要性を理解した」と強調した。

さらに「どんな戦争でも社会を大きく変化させるが、それは国家分裂や、分離、憲法破棄、国家の弱体化を意味しない。我々はいかなる状況であれ、いかなる分離も受け入れず…、戦争を通じて、我々はより強力な祖国として試練を乗り越えねばならない」と述べた。

一方、米軍残留について「シリア領から米占領軍を排除するもっとも平和的な解決策は、我々が愛国的な概念のもとにシリア人として一つになることだ」と主張、「米軍の駐留は米軍に敗北と撤退をもたらす軍事的な抵抗をもたらすことになる。米国はいかなる占領地においても安心して暮らしていくことはできない。そうしたことは、イラク、アフガニスタンですでに起きている。シリアもこの件に関して例外ではない」と述べた。

インタビューでのアサド大統領の主な発言は以下の通り:

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「(10月22日のソチでのロシア・トルコ首脳会談でのシリア北東部の処遇をめぐる合意を)前向きに評価している。アスタナであれ、何であれ、これまでの制約に必ずしも誠実ではなかったトルコ側をまったく信頼していないが、間違いなく、ロシアがこの問題に参入したことは、肯定的な側面だ。なぜなら、我々は三つの選択肢を前にしていたからだ。第1は、同胞団的・オスマン的側面を持つトルコのアジェンダと計画、第2は米国の計画で…、トルコを介入させシリア情勢を複雑にし、問題解決を遠ざけようとするもの…、そして最後の選択肢は、ドイツが提示した…国際部隊の創設だ…。ロシアの役割はこうした計画を阻止し、クルドという口実をなくす役割を果たしているために前向きなものだ」。

「シリアにおけるロシアの駐留はまず、世界のバランスを保つ一環だ。なぜなら、世界は今日、法律でなく、力という基準に従っているからだ…。これが(ロシアがシリアを支援することの)一側面だ。もう一つの側面は「テロとの戦い」だ。「テロとの戦い」にはさらに二つの側面がある。第1は道徳的側面で、法的側面、すなわち国際法はこのなかに含まれる。なぜならテロは周知の諸外国によって支援されているからだ。第2の側面はロシアの国益保護だ。テロには国境はないからだ…。テロが存在する場所だけでテロと戦うことなどあり得ない。テロは世界のあらゆる場所で戦われねばならない。さらに、ロシアは…西側諸国とは対象的に、国際法が自国の国益に資すると考えている」。

「トルコがこの地域(シリア北東部)にシリア難民300万人を帰還させたいと考えているなどとは誰も信じていない。これは人道主義を装った触れ込みだ。その目的は欺くことだ。もちろん、たとえ彼らがそれを望んだとしても、この言葉は実現できない。土地、都市、村、家、農場、農地などを所有する人々と新たにやって来させられる人々の紛争を招くからだ…。つまり、人種主義に基づく紛争を創り出すことになる。だが、トルコの真の目的は、シリアで戦い、そして負けた武装テロリストを家族ごと移動させ、エルドアン大統領がめざすヴィジョンに沿った過激派社会を作ることだ」。

「少し詳しくの言っておきたい。なぜなら、ダーイシュ(イスラーム国)は米国の意思を受けて登場したからだ…。我々は、米国がダーイシュをシリア軍に打撃を与え、テロと戦うシリア軍などの軍事勢力を分断するためのツールとして直接操ってきたという情報を持っている。クルド勢力について話す時でも、我々は概念を訂正したい。この概念(クルド勢力)は悪用されており、西側はそこにいる部隊がクルド人部隊で、この地域がクルド人の地域であるというイメージを与えようとしている。まずはっきりさせて起きたいのは、シリア北部および北東部の住民の大多数はアラブ人だ。住民の70%以上がアラブ人で、その逆ではない。そこで戦っているグループもクルド人とそれ以外の人々の混成だ。だが、米国はクルド人グループを支援し…、この地域がクルド人のものだというイメージを作り、クルド人とそれ以外の集団との紛争を作り出そうとした。しかし、(クルド人グループとの)コミュニケーションは続いている…。ほとんどのクルド人は愛国的で、国家、そしてシリア国民とともにあるが…、一部のクルド人グループとアラブ人グループが米国の手先となっている。このグループと我々は直接に対話をしている。彼らが北部でシリア軍に復帰するための対話が行われており、我々みなが憲法を遵守すれば安定が得られると彼らを説得している。なぜなら、この憲法は国民とシリア・アラブ軍を表しているからだ…。9年におよぶ戦争を経て、ほとんどの人々は政治的な意見の相違を度外視して、国家と一つになることの重要性を理解したと思っている。政府、あるいは与党と意見の違いがあっても、それは別問題だ。国家は世界のどこでも万人を守るものだ」。

「改めて言っておきたいが、数十年前からシリアにいるほとんどのクルド人には問題はない。過激派、すなわち政治的な意味での過激派がいるのだ。彼らが分離に近い案を示している。彼らの一部は連邦制やクルド人にかかわる自治を提示している…。文化的な権利については、アルメニア教徒の例をあげたい…。100年前にやって来た彼らは、学校、教会があり、完全な文化的権利を持っている。なぜ、特定の集団に文化的権利を与えて、別の集団には与えないというのか? このグループが分離主義的な案を提示しているという理由で、我々は今日も、明日も、そして国家としても、国民としてもいかなる分離主義的な案には同意はしない。米国が支援するこのグループはまた戦争で事態は変わったと言う。もちろん、事態は変わる。それは当然だ。だが、どんな戦争でも社会を大きく変化させるが、それは国家分裂や、分離、憲法破棄、国家の弱体化を意味しない。我々はいかなる状況であれ、いかなる分離も受け入れず…、戦争を通じて、我々はより強力な祖国として試練を乗り越えねばならない」。

「(人民防衛隊(YPG)をどう評価するかとの問いに対して)米国が支援する勢力がダーイシュと戦っていたのであれば、米国が実際にテロと戦っていたことになる…。しかし、我々はみな…、米国がダーイシュの側に立っていたことを知っている。我々は、自分たちの村を守ろうとする市民、そしてテロリストと戦い、根絶することで彼らが達成した真の成果と…、米国と結びついた政治的アジェンダを区別しなければならない」。

「これらの武装勢力(シリア民主軍)の撤退に関するロシアとトルコの合意は実施されるべきだ。それはクルド人とアラブ人の混成だが、クルド人が指導しており…、トルコが夢見てきた計画を実施し始める口実を与えるからだ…。だが、まだ完全には実施されていない。なぜならこの手の措置は突如として達成されないからだ…。どの地域で戦うグループは必ずしも統合的に統率されている訳ではない。民兵が混沌と戦い、混乱した決定を下すことを知っているはずだ…。これらのグループのシリア・アラブ軍への編入について、我々は2013年から和解を進めてきた…。武器を棄てたすべての者は、恩赦を与えられ、普通の市民になり、シリア・アラブ軍に加わることもできる…。ロシアとトルコの合意を受けて、我々は(改めて)正式に発表した。防衛省は、これらの戦闘員をシリア・アラブ軍に編入する用意があると。しかし、これに対する答えは、シリア・アラブ軍に加わる用意はないというものだった。彼らはこの地域で武器を保持することにこだわっている」。

「(制裁下での復興は)困難だが、不可能ではない…。例えば、製薬業においては、戦争前よりも工場の数は増えている。さまざまなセクターで工場が持続的に建設されている。もちろん、そのペースは…難民が帰国して働く機会を探すことができるほどではない。しかし、我々が新たな工場を建設することができ…、それが経済状況に反映される。この種の戦争に苛まれている国は、軽工業しか創出できない…。だが、我々は今、より多くの投資を呼び込む手段を模索している。なぜなら、制裁が科されているからだ…。我々は投資法にどのような追加の修正が必要かを検討している」。

「(シリア政府と和解した反体制派戦闘員の処遇に関して)戦闘員には(第1に)…家族があり、社会、つまり過激な社会があり、長年にわたり法律や愛国的な振る舞いを知らずに暮らしてきた子供たちがいる。子供たちは誤った概念を教えられてきた。まずは彼らを学校に編入しなければならない…。もう一つ重要なポイントが宗教的過激主義だ…。これは長年にわたり、ダーイシュ、ヌスラ戦線、シャーム自由人、イスラーム軍などといった名が冠せられたアル=カーイダとワッハーブ主義の思想によって支配された地域の社会の智を席巻してきた…。彼ら(元戦闘員)は自分たちの頭のなかの宗教的な概念が誤ったもので、歪められており、宗教そのものに矛盾していることを理解しなければならない。我々は今、こうした誤った概念を一掃するための重点的な活動を行っている。第3に、こうした社会は法律の外にあり、国家、法律、法廷、警察など、社会生活を調整するための諸機関が何を意味するのかを知らない。これがもっとも困難な側面だ。こうした村、あるいは都市に国家がどのように入り、規則や制度といった概念を回復させるのがもっとも得策か? こうしたことを我々は持続的に行っていかなければならない」。

「教育省はトルコ侵攻を受けて…、2~3週間前、あるいはそれより以前だったかとは思うが、クルド語のカリキュラムを修めた生徒を初等教育以降の段階、すなわち中等教育において国のカリキュラムに統合すると発表した」。

「私はいつも、手先がいなければ占領者はやっては来ないと言っている。占領者が敵対的な空気のなかで暮らすことは困難だ。シリア領から米占領軍を排除するもっとも平和的な解決策は、我々が愛国的な概念のもとにシリア人として一つになることだと我々は常に言っている。その時、米国は出て行くだろうし、とどまることはできないだろう。石油のためでもなければ、それ以外の何のためでもない…。米軍の駐留は米軍に敗北と撤退をもたらす軍事的な抵抗をもたらすことになる。米国はいかなる占領地においても安心して暮らしていくことはできない。そうしたことは、イラク、アフガニスタンですでに起きている。シリアもこの件に関して例外ではない」。

「彼ら(米国)は石油だけを盗んでいるのではない。米国は、悪党どもを基礎にして政治体制として作られた国家だ。米国大統領は国家を代表していない。彼は企業の業務執行取締役が言うことを代弁しているだけだ。そして取締役の背後には取締役会があり、それが米国の大企業を代表している。これこそが国家の真の所有者だ。石油会社、武器会社、銀行、そのほかのロビー団体がだ…。米国は国家ではなく、体制であり、この体制は利潤を追求するために動き企業によって指導されている…。米国は(石油を求めてナチスがソ連に侵攻したのと)同じことをしている。これはナチスの真似だ。米国の政策がナチスの政策に似ているのに気づくのは簡単だ」。

「この問題(トルコでのホワイト・ヘルメット創設者のジェームズ・ルムジュリアー氏死亡)を表面的に捉えないようにするため、より全体的な文脈のなかで、似た事例と対比させながら見るべきだ。米国の億万長者のジェフリー・エプスタインが数週間前に殺された。刑務所で自殺したのだという。だが、彼は、米国、英国、そしておそらくはそれ以外の国々のシステム、あるいは体制内の重要人物の重要な秘密を握ったまま殺されたのだ。ドイツにいたホワイト・ヘルメットの重要メンバーの一人も刑務所で殺された。自殺したのだとう。そして今度は、ホワイト・ヘルメット創設者で、彼は士官だ。彼の経歴は、NATOで勤務し、アフガニスタン、イラク、レバノンに勤務し、その後シリアでホワイト・ヘルメットを創設したというものだ。この人物の経歴と、ホワイト・ヘルメットが行っているという人道活動とどんな関係があるのか? 我々も、あなた方も、彼らがアル=カーイダの一部だということをもちろん知っている。これらの人々(の死)は、(ウサーマ・ビン・ラーディン)殺害、そして最近では(アブー・バクル・)バグダーディーの殺害と同じだと思う。こうした人々はいずれも、何よりもまず重要な秘密を握っていて、用無しとなり、役割が終わったから殺される…。だから、彼らが自殺した、ないしはその死が自然死だったという話は信じない…。バグダーディーやビン・ラーディンがなぜ殺されたのか? おそらく生きていれば、何らかのときに真実を語るかもしれないからだ」。

「(ルムジュリアー氏の死の背後に英国の諜報機関MI6がいるのかとの問いに対して)もちろんだ。これは諜報活動だ。だが、どの諜報機関か? 我々が西側、トルコ、そして中東の諜報機関について話すとき…、それは特定の国家の諜報機関ではない…。諜報機関はすべて一人の人物の命令のもとに行動し、互いに連携し合っている。おそらく、トルコの諜報機関が外国の諜報機関の命令を受けて実行したのだろう。もちろん、可能性を言っているだけだが」。

「制憲委員会(憲法委員会)を通じて戦争の解決策がもたらされると印象の操作が行われている。だが、シリアの戦争は憲法をめぐる意見の相違や対立があったから起こったのではない。シリアでの戦争はテロがあり、軍人、警官、市民が殺され、公共施設などが破壊されたために始まったのだ。つまり、戦争はテロが終わるときに終わる…。制憲委員会は憲法を議論する。我々にとって、憲法の文言はシリアの新たな状況に応じて、いつでも検討、修正し得るものだ。神聖な文言ではない。この問題に関して、我々には何の問題もない…。我々はトルコ政府、つまりはもちろん米国によって任命された当事者と交渉をしている…。我々がこの委員会から何らかの結論を得たいと期待するなら、そこに参加する者すべてがシリアの道、シリア国民に身を置くべきだ。米国に帰属することなどあってはならない…。彼らが心底シリア人となることは許されるだろうか? 外国に帰属してきた者が祖国に再び復帰することは可能か? この問いに答えるのは控えたいが、この問いは実に論理的なものだ」。

「我々は数年前から汚職撲滅の戦いを始め、それは今も続けられ、多くの汚職が発生したのを受けてこれを強化している…。なぜなら、戦争は混乱をもたらし、混乱は一方でテロ、他方で汚職を育む環境を作るからだ…。我々は法律の適用を続行するが、汚職撲滅と経済支援には新たな法律が必要だ」。

「(レバノン、イラクでの抗議デモに関して)これらはシリアで起きたこととは似ていない。シリアでの出来事は当初、デモを行うために街頭に出るよう一部の人々に資金が供与された…。街頭に出た人はわずかだった。なぜなら、その数日後に(デモ参加者による)殺戮、発砲が行われた…。つまり、デモは自発的ではなかった。資金があり、武器が用意されていた…。これに対して近隣諸国でのデモは…偽りのない自発的ないもので、政治、経済などの状況改善への国民の願いを表現している」。

AFP, November 15, 2019、ANHA, November 15, 2019、AP, November 15, 2019、al-Durar al-Shamiya, November 15, 2019、Reuters, November 15, 2019、Rossiya Segodnya, November 15, 2019、Russia 24, November 15, 2019、SANA, November 15, 2019、SOHR, November 15, 2019、UPI, November 15, 2019などをもとに作成。

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