英日刊紙:2018年4月の東グータ地方でシリア軍が塩素ガスを使用したとの主張に反する文書の「すべての痕跡の削除」をOPCW幹部が指示(2019年12月15日)

『メール・オン・サンデー』(12月15日付)は、2018年4月にダマスカス郊外県東グータ地方のドゥーマー市で発生した化学兵器使用疑惑事件に関して、化学兵器禁止機関(OPCW)幹部が、化学兵器が装填されているガス・ボンベが空中から投下されたという主張に反する文書の「すべての痕跡を消し去る」よう要請していたと伝えた。

『メール・オン・サンデー』は11月にも、専門家による中間報告が検閲を受けて、内容を変更されたことに抗議する実際のメールを明らかにしていた。

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同紙が独自に入手したこの中間報告は、今年3月に発表された最終報告書とまったく異なっているという。

具体的には、最終報告書では、ドゥーマー市で塩素が使用された「合理的根拠」があると結論づけているのに対して、中間報告では、検出された塩素が微量で、どの家庭にもある程度の量だとしていた。

また中間報告では、「事実調査団(FFM)は、鉄筋で補強された屋根の破壊に比して、一定の高さから投下されたとされるボンベの損傷が警備であることについて満足のいく説明を行うことができない…。第4現場(ボンベが発見された2カ所のうちの1カ所)の場合、どのようにしてボンベがベッドの上に到達したのか、それが部屋に貫通したとされる場所を踏まえても、不明確なままである」と指摘していた。

さらに最終報告書では、中間報告に記載されていた多くの具体的な証拠も削除されたという。

そのなかには「窒息や出血をもたらす塩素と推定される物質の存在と、目撃者の証言、ビデオ、写真などで確認できる症状の間の一貫性は合理的に説明できない」といった指摘がも含まれているという。

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これに関して、OPCWの元検査官で、ドゥーマー市での調査にも参加していたイアン・ヘンダーソン氏は、発見された2本のボンベはいずれも人為的に置かれた可能性が高いと結論づけていた。

ヘンダーソン氏は、自身の調査内容を最終報告書に盛り込もうと試みたが、削除されたために、文書記録アーカイブ(DRA)で文書を保管した。

しかし、「ヴォルドモート」と呼ばれるOPCWの幹部が、この文書だけでなく、送付記録、さらにはストレージなど文書にかかるすべての痕跡を消し去るよう命じたという。

AFP, December 15, 2019、ANHA, December 15, 2019、AP, December 15, 2019、The Daily Mail, December 15, 2019、al-Durar al-Shamiya, December 15, 2019、Reuters, December 15, 2019、SANA, December 15, 2019、SOHR, December 15, 2019、UPI, December 15, 2019などをもとに作成。

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