アサド大統領がシリア・アラブ共和国憲法草案準備委員会が作成した新憲法草案を国民投票にかけることを決定、フランスが自国が推進する「人道回廊」構想をめぐる新安保理決議の採択をめざす(2012年2月15日)

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アサド政権の動き

SANA(2月15日付)は、アサド大統領がシリア・アラブ共和国憲法草案準備委員会が作成した新憲法草案を2月26日に国民投票にかけることを決定したと報じた。

Kull-na Shuraka’, February 15, 2012

Kull-na Shuraka’, February 15, 2012

同草案は、157条からなり、現行憲法(1973年憲法)からの主な変更点は以下の通り。

1. バアス党を「社会と国家を指導する党」とした前衛党規定の削除し、 「国家の政治体制は政治的多元主義を原則とする」との文言を明記(第8条)。
2. 「イスラーム教は大統領の宗教である」、「イスラーム法は立法の主要な法源である」という文言に加えて、「国家はすべての宗教を尊重する」との文言を明記(第3条)。
3. 集会、平和的デモ、ストライキ権の保障(第44条)。
4. 大統領(任期7年)の再任を1度に限定(第155条)。
5. 大統領就任資格年齢を34歳(アサド大統領の就任時の年齢)から40歳への引き上げ(第84条)。
6. バアス党が指名する大統領候補の信任投票に代えて、人民議会議員35人以上が推薦する大統領候補の国民投票による大統領選出。

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『クッルナー・シュラカー』(2月15日付)は、ハサカ県アフリーン市近郊にPKK系でアサド政権と協力関係にあるクルド民族主義政党、民主統一党が展開し、自治を行っていることを示す写真を公開した。

反体制勢力の動き

AKI(2月15日付)は、反体制活動家のアンワル・ブンニー氏が、2月26日に信任投票が発表された新憲法草案に関して、「国民の信頼を欠く政府の産物」と非難、また「現状においていかなる信任投票ができるのか、人々が死んでいる。殉教者や犠牲者の票はどこにあるのか」と述べ、拒否の姿勢を示した、と報じた。

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シリア・クルド国民評議会と西クルディスタン人民評議会が共同声明を出し、クルド民族主義勢力の共闘を訴えた。

国内の暴力

反体制活動家によると、ヒムス県、ハマー県などで軍・治安部隊による掃討作戦が続き、31人が殺害された。

うち21人は軍・治安部隊兵士で、アレッポ県アタ-リブ市での離反兵との交戦で死亡した、という。

ヒムス県ではヒムス市の石油精製所につながるパイプラインが爆破された。

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反体制活動家らによると、ダマスカス県ではバルザ区で治安部隊が反体制活動家の大規模摘発を実施した。

Kull-na Shuraka’, February 15, 2012

Kull-na Shuraka’, February 15, 2012

レバノンの動き

進歩社会主義党のワリード・ジュンブラート党首は、カマール・ジュンブラート財団のセミナーで講演し、新憲法草案の信任投票発表を「軌跡」と評した。

ジュンブラート党首は「我々は今日、(シリアでの)新憲法の公布と憲法第8条(バアス党を「社会と国家の指導党」と規定する条文)の廃止という「軌跡」を耳にした…。バアス党は自らをすげ替えようとしているが、最善の方法は政権の座を去ることだ」と述べた。

さらに「ターイフ合意は死んだ。我々はスンナ派とシーア派の間の「新たなターイフ合意」、そして新たな和解を必要としている」と付言した。

諸外国の動き

『ハヤート』(2月16日付)が複数の外交筋の話として伝えたところによると、フランスが提案した「人道回廊」構想が、16日に予定されているアラン・ジュペ外務大臣とロシアのセルゲイ・ラブロフ外務大臣とのウィーンでの会合で議論され、安保理での新決議採択がめざされる、という。

同構想は、シリアの人口密集地域とトルコ国境、レバノン国境、ヨルダン国境、地中海岸ないしはシリア国内の空港を結び、人道支援を行い、その警備には「武装した監視団」があたる、というもの。

この動きは、国連総会の対シリア決議案において、①暴力行使が続く現状への責任をアサド政権だけでなく反政府勢力に対しても追求することと、②アラブ連盟決議における行程表が示した日程を削除することを求めたロシアの修正提案が却下されたことを受けたもの。

同決議案は、西側諸国、親米アラブ・イスラーム諸国約70カ国が支持しているが、ロシア、中国、イラク、レバノン、アルジェリア、スーダンは反対するものと思われる。

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ロシアのセルゲイ・ラブロフ外務大臣は、「我々のパートナーの一部は対話ではなくシリア政府を最初から排除し、シリア政府を孤立させようとしている…。これは間違いだ」と西側諸国を批判、政治的対話に基づく解決の必要を改めて強調した。

またアサド大統領による新憲法草案国民投票の日程発表に関して「一党のヘゲモニーを限定する新憲法は前進だ」と高く評価した。

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フランスのアラン・ジュペ外務大臣はフランス・インフォ(2月15日付)に対して、NGOが残忍な虐殺の行われている地域に到達できるような人道回廊が再び安保理に提起されねばならない」と述べた。

またジュペ外務大臣は、フランス、シリアなどの人権団体使節団との会談で、「シリア国民の支援を望む」組織・団体を資金援助するための基金設立することを決定したことを明らかにした。

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米ホワイトハウスのジェイ・カーニー報道官はシリアでの新憲法国民投票の日程発表に関して、「シリア革命への皮肉」と一蹴し、「改革の約束は常に蛮行の後になされている。アサド体制に残された日は限られている」と批判した。

また米国務省高官は、シリアが保有する化学兵器や地対空ミサイルが「テロ集団」の手にわたらないよう米国が「重点的」に監視していると述べた。

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エジプトのムハンマド・アムル外務大臣は、ヒムス市などでの弾圧を「受け入れられない」と非難し、アサド政権に暴力の停止を求めた。

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トルコのアフメト・ダウトオール外務大臣は、シリア情勢をめぐる米国高官らとの会談に関して、「政治的レベルだけでなく、人道レベルでも」対応する必要があると述べた。

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3月にバグダードで予定されているアラブ連盟首脳会議に関して、イラクの地元消息筋は、イラン、トルコがオブザーバーとして参加する可能性があると報じた。

これに対してイラク政府は、これを否定、また加盟資格凍結中のシリアのアサド大統領以外のアラブ諸国首脳が招待されているのみだと発表した。

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スイス外務省は、ダマスカスのスイス大使館を閉鎖すると発表した。

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アズハル機構のアフマド・タイイブ師は、アラブ諸国に対して、シリア政府の「地獄のような殺人装置」を停止させるよう求めるとともに、シリア軍兵士に対して、民間人への発砲命令を拒否するよう呼びかけた。

AFP, February 15, 2012、Akhbar al-Sharq, February 15, 2012、AKI, February 15, 2012、al-Hayat, February 16, 2012, February 17, 2012、Kull-na Shuraka’, February 15, 2012,
February 17, 2012、Naharnet.com, February 15, 2012、Reuters, February 15,
2012、SANA, February 15, 2012、などをもとに作成。

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