国連総会は、7月11日に安全保障理事会でシリア北西部への越境(クロスボーダー)人道支援に関する決議案に拒否権を行使したロシアに説明を求める会合を開催した。
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会合において、チャバ・コロシ国連総会議長(ハンガリー)は、ロシアによる拒否権発動で、410万人とされるシリア北西部の住民への食料、水、医療品の供給がほぼ絶たれたとしたうえで、「支援を必要とする人々の命が地政学的な駆け引きに還元されるべきではない」と非難、「現実をしっかりと受け止め、真の解決に向けて」、分断ではなく、協力を優先するよう主唱した。
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越境人道支援を9ヵ月再延長することを定めた決議案を共同提出したブラジル・スイスのうち、ブラジルのセルジオ・フランサ・ダネーゼ大使は、決議案がバランスのとれた意味のあるものだったと述べる一方、スイスのパスカル・クリスティン・ベリスヴィール大使は、常任理事国1ヵ月の拒否権発動によって、「純粋に人道的」な目的を持つ越境人道支援の延長に疑義を呈されてしまったと振り返った。
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この発言に、米国のジェフリー・デローレンティス前国連大使が同調し、「邪魔をしているのはロシアだけだ」と非難したうえで、シリア政府による越境人道支援の許可については、国連による越境人道支援のメカニズムに代わる実行可能な代替手段ではないと主張した。
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英国、コスタリカ、フィージー、日本なども、ロシアによる拒否権の発動に異を唱えた。
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これに対して、ロシアのドミトリー・ポリャンスキー国連第一副代表は、これらの国の非難を一蹴し、越境人道支援が今後はシリア政府の許可を得て行われることについて、「大きな成果」だと述べた。
また、7月11日の安保理会合において、米国とその同盟国が、越境人道支援を12ヵ月延長することをめぐって「最期通告」を行ってきたと振り返ったうえで、ロシア側が提案した「真に人道的な文言」が決議案に盛り込まれなかったと反論した。
そのうえで、拒否権発動については、「そうしなければ、安保理はNATOの会合になってしまう」と主張した。
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イランのエミール・サイード・イールワーニー国連大使は、ロシアの拒否権発動に関して、シリア国内のすべての地域に政治利用されないかたちでの人道支援を行う必要があるとともに、シリアの主権、領土の一体性を支援に際して尊重することが必要だと述べた。
また、シリア政府が国連に対してバーブ・ハワー国境通行所を通じた越境人道支援を6ヵ月間行うことを認めたことについては、歓迎の意を示す一方、越境人道支援をこれまで通り継続することは、シリアを分割し、同国北西部にテロリストが支配する地域を作り出そうとするに西側の意志を含んでおり、これに対する懸念は正当だと主張した。
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シリアのバッサーム・サッバーグ国連代表は、ロシアの拒否権発動について、失効した国連安保理決議第2672号がシリア国民の真のニーズに最善の対処をしたいというシリアの正当な要求を満たしていなかったとしたうえで、「バランスがとれた賢明な決定」と高く評価、これを全面的に支持していると述べた。
サッバーグ国連代表はまた、越境人道支援の実施を最初に定めた2014年の国連安保理決議第2165号について、例外的な状況下での一時的な措置だったが、現在そうした例外的状況は存在しないと指摘する一方、越境人道支援がシリアの主権や領土の一体性を侵害し、テロ組織に支援が行きわたることを阻止し得ないという重大な欠陥を有していることを何年にもわたって警告してきたと主張した。
サッバーグ国連代表はさらに、シリア政府が7月13日に国連および関連機関に対して、イドリブ県のバーブ・ハワー国境通行所を通じた越境人道支援の実施を6ヵ月に限って認めたこと、それに先立ち2月にトルコ・シリア大地震の被害に対応するために、アレッポ県のバーブ・サラーマ国境通行所とラーイー村北の通行所を経由した支援を認めたことを強調、一部西側諸国がこうした積極的な措置を無視し、シリア人に対する集団処罰的な政策に固執していると非難し、シリアでの人道活動を政治利用する西側諸国の姿勢は非人道的だと指弾した。
SANA(7月19日付、20日付)などが伝えた。
AFP, July 19, 2023、ANHA, July 19, 2023、al-Durar al-Shamiya, July 19, 2023、‘Inab Baladi, July 19, 2023、Reuters, July 19, 2023、SANA, July 19, 2023、July 20, 2023、SOHR, July 19, 2023などをもとに作成。
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