シリア救国内閣は「公共倫理法案」の規定に基づき、「公共倫理警察」の募集を開始(2024年1月1日)

シリア救国内閣は「公共倫理法案」の規定に基づき、「公共倫理警察」の募集を開始
シリア救国内閣の内務省は同内閣の公式ホームページを通じて、2024年1月2日から7日まで「公共倫理警察」への採用についての告知を発表した。

告知によると、募集の要件は、シャリーア学部、あるいは中等シャリーア学院を終了していること、年齢が30歳以上、40歳以下であること、健全な体格を有し、健康で、身体的な適性に優れていること、品行方正であること、重犯罪や不名誉な罪で有罪判決を受けていないこと、所定の研修または課程を無事に修了すること。

イナブ・バラディーシャーム・ネットワークジャズィーラ・チャンネルFacebook (@groups/2027788424199119/user/613728822/)などによると、募集は、シリア救国内閣の内務省が策定した「公共倫理法案」の規定に沿ったもので、複数筋によると、救済内閣当局は、草案を意図的に流出させることで、世論の反応を探ろうとしているという。

「公共倫理法案」は5章128ヵ条からなり、個人が遵守すべき禁止事項や違反行為が、さまざまな分類のもとにまとめられている。

その分類には、宗教上の禁止事項、公共道徳違反、動物に関する違反、結婚式場や催事に関する違反、ショッピング・モールや商業施設に関する違反、レストランやカフェに関する違反、公園、遊園地、レジャー施設に関する違反、道路や公共施設に関する違反などが含まれる。

宗教上の禁止事項には以下の行為が含まれる。

  • アッラーや預言者、イスラーム教に対する冒涜、イスラームの儀式・象徴・学者を侮辱する行為の禁止。
  • 魔術や呪術、コーヒー占いや手相占いの禁止。
  • ラマダーン月における公然とした断食破りの禁止。
  • 金曜礼拝の時間帯の店舗営業の禁止。
  • 12歳以上の少女が体を覆う衣服を着用せずに外出することの禁止。
  • 親族関係のない男女が2人だけとなること(密会)の禁止。
  • 姦通、罵倒、飲酒、ギャンブル、窃盗、女性の遺産の横領、親不孝の禁止。

公共道徳違反には以下の行為が含まれる。

  • 公共施設やサービス機関、病院、医療センター、薬局、公共交通機関での喫煙。
  • 「公序良俗に反する」商品を店舗に陳列すること、学校、専門学校、大学、女性専用施設の前で社会的慣習に反するかたちで立ち止まること。

動物に関する違反には以下の行為が含まれる。

  • 動物虐待や傷害。
  • 動物を闘わせる行為。

結婚式場や催事に関する違反には以下の行為が含まれる。

  • 宗教に反する音楽やパフォーマンスの禁止、銃の発砲、男女の混在、試着室内の監視カメラ設置、女性どうしでの無断撮影の禁止。

ショッピング・モールや商業施設に関する違反には以下の行為が含まれる。

  • 主要出入口に常駐の警備員を配置しないこと。
  • 店内での音楽の再生。
  • 女性用衣料品店に男性販売員を配置すること。
  • 店内に監視カメラを設置すること。

レストランやカフェに関する違反には以下の行為が含まれる。

  • 男性専用エリアと家族向けエリアを完全に分離しないこと(共用の公共施設も含む)。
  • 家族向けエリアのテーブルを他のエリアと仕切らないこと。
  • 同エリア内に監視カメラを設置する。
  • 水タバコを持ち込むこと、あるいは提供すること。
  • 宗教や公序良俗に反する音楽、映像・音声コンテンツを再生すること。
  • 騒音レベルの高い音の発生すること。

法案の第5章によると、違反者の逮捕は、「倫理警察」が担当し、違反者の身柄を拘束した際には、直ちに報告書を作成し、裁判官に対して逮捕状を提出することが義務として定められている。

また、逮捕された者を裁判官に引き渡すことなく、24時間以上拘束することは禁止されている。

拘束は、警察署内の指定された施設でのみ行うことが義務づけられ、これ以外の場所での拘束は認めないとしている。

また、逮捕者が48時間以上拘留され、なおかつ裁判官による決定が下されなかった場合、直ちに釈放しなければならないとしている。

女性や未成年者の拘留については、女性の逮捕者は女性専用の拘留施設に収容されることとし、未成年者や少女の拘留に関しては、関連する法律や規則を遵守することが求められる。

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シャーム解放機構は、2021年頃まで支配地域において、「サワーイド・ハイル」(勧善懲悪委員会)として知られる組織に活動の自由を与えてきた。

サワーイド・ハイルは、サウジアラビア人やシリア人を含む男女のメンバーで構成され、シャーム解放機構の治安部門である総合治安機関の支援を受けて、イドリブ市内でパトロールを行い、ヒジャーブ着用などシャリーアに基づく服装の監視、タバコ販売や音楽再生、男女の混在の取り締まりなどを行ってきた。

こうした活動が住民との軋轢を生むなかで、サワーイド・ハイルは「勧善懲悪センター」を設立し、その活動範囲を拡大し、男女の混在の禁止、宗教的に禁じられた行為や違反行為の取り締まり、違反者への告発、逮捕、裁判への送致といった法的手続きを実施するようになった。そして、「勧善懲悪センター」において、シャーム解放機構の宗教警察(ヒスバ)が活動を活発化させた。

AFP, January 1, 2024、ANHA, January 1, 2024、‘Inab Baladi, January 1, 2024、Reuters, January 1, 2024、SANA, January 1, 2024、SOHR, January 1, 2024などをもとに作成。

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