国連開発計画(UNDP)は、新たな予備的社会経済影響評価を行った結果を「シリアにおける紛争の影響」と題したレポートにまとめ、14年に及ぶシリアでの紛争で、約40年分の経済的・社会的・人的資本の進展が無に帰し、現在の成長率では、シリアのGDPが紛争前の水準を回復するのは2080年以降になるとして警鐘を鳴らし、これを10年以内に短縮するには、年間成長率を6倍に、15年以内に戦争の影響を完全に克服するには10倍の成長が必要とされるとの試算を発表した。
報告書によると、現在、シリア人の10人に9人が貧困に陥り、GDPは2011年の紛争開始以来半分以下に縮小、失業率は3倍に増加した。現在、シリア人の4人に1人が失業しており、公的インフラの悪化が紛争の影響をさらに深刻化させている。
報告書は多くの情報源の分析を基に、以下の通り紛争の影響を評価している。
- GDP損失:紛争14年間で 8000億ドル(約120兆円) の経済損失が発生。 人道支援への依存: 4人に3人 が人道援助を必要とし、健康・教育・貧困・失業・食糧安全保障・水と衛生・エネルギー・住宅の分野で支援を受けている。
- 貧困の急増 貧困率:紛争前 33% → 現在 90% 極度の貧困:紛争前 11% → 現在 66%(6倍増)
人的被害 - 約61万8000人が死亡、11万3000人が行方不明に。 医療崩壊により、死亡者数がさらに増加。
- 病院の3分の1が破壊され、救急サービスの半数近くが機能停止。
- 教育の崩壊:6歳~15歳の40~50% の子どもが学校に通えない状況。
- 住宅の損壊:全住宅の3分の1 が破壊・深刻な損傷を受け、570万人 が住居支援を必要としている。
- 水・衛生の崩壊:浄水場や下水処理施設の半数以上が損壊または機能停止。1400万人(人口の半数) が清潔な水や衛生設備を利用できない状況。
- エネルギーの崩壊:発電量が80%減少、発電所や送電網の70%以上が損傷し、電力供給能力が4分の1以下に低下。
- 人間開発指数(HDI)の低下: 2010年:0.661 → 現在:0.557(1990年の記録 0.563 を下回る)
(C)青山弘之 All rights reserved.