オバマ米政権は、アル=カーイダ系組織の影響力増大を懸念しつつ、「穏健な反体制派」への教練を開始(2015年5月8日)

駐シリア大使館はフェイスブックを通じて、「ISIS(ダーイシュ(イスラーム国)の能力を抑え、最終的には壊滅するための努力を支援するにふさわしいと判断されたシリア反体制派の志願者に対し、米軍および一部同盟国が第1回目となる軍事教練を開始した」と発表した。

前日には、ヨルダン政府が「シリア国民、部族の志願者」への軍事教練を有志連合の枠組みのなかで開始したと発表している。

米大使館フェイスブックでの発表によると、「このプログラムの実施には…有志連合の軍、外務省、諜報機関…が参加しており、教練方法は、シリアの反体制派のみの必要…、特定の任務、個人に限定して…策定されている」という。

これに関して、『ハヤート』(5月9日付)は、国防総省の複数の信頼できる消息筋の話として、3,750人以上のシリア人が志願、うち400人が今回の教練の対象者として選定されたという。

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『ハヤート』(5月9日)は、「穏健な反体制派」への軍事教練の目的を、ダーイシュとの戦いではなく、アサド政権打倒としたいトルコに配慮するかたちで、軍事教練が、①ダーイシュとの戦い、②反体制派の支配地域の維持、③シリアの紛争の政治的解決の促進、という3点が目標に設定されている、と伝えた。

『ハヤート』はまた、西側外交筋の話として、米国務省、国防総省の高官、そして「穏健な反体制派」教練を統括する中央特殊作戦軍司令官のマイケル・ナガタ少将が、バラク・オバマ米大統領に、ダーイシュ(イスラーム国)との戦闘が想定される「穏健な反体制派」を空から援護するため有志連合の活動を拡充するよう要請したが、大統領は依然として難色を示していると付言した。

西側消息筋によると、トルコ政府は「穏健な反体制派」の教練キャンプをシリア国境地帯に設置することを米国と合意した際に、教練第1期生にトルクメン人戦闘員を含めるとともに、教練生の数を5,000人から1万人(3年間での教練生の総数を1万5,000人から3万人)に増やすよう米国に求めた、という。

なおトルクメン人戦闘員、具体的にはトルキスターン・イスラーム党は、3~4月にかけてのイドリブ県でのファトフ軍作戦司令室(アル=カーイダ系組織のシャームの民のヌスラ戦線、シャーム自由人イスラーム運動などから構成)の攻勢(イドリブ市、ジスル・シュグール市などの制圧)に参加している。

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一方、『ハヤート』(5月9日)は複数の米消息筋の話として、オバマ政権が、イドリブ県でのファトフ軍作戦司令室の勝利などに「不快感」を感じ、アル=カーイダ系のシャームの民のヌスラ戦線など過激派の影響力が増すことを懸念している、と伝えた。

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シリア革命反体制勢力国民連立は声明を出し、米国など有志連合による「穏健な反体制派」への軍事教練開始発表に関して、「トルコと米国に合意は自由シリア軍の能力向上を可能とする措置」になると賞賛した。

AFP, May 8, 2015、AP, May 8, 2015、ARA News, May 8, 2015、Champress, May 8, 2015、al-Hayat, May 9, 2015、Iraqi News, May 8, 2015、Kull-na Shuraka’, May 8, 2015、al-Mada Press, May 8, 2015、Naharnet, May 8, 2015、NNA, May 8, 2015、Reuters, May 8, 2015、SANA, May 8, 2015、UPI, May 8, 2015などをもとに作成。

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