アサド大統領が独ARDのインタビューに応じる「100以上のテロ組織があり、多くの国が彼らを支援している…。我々は停戦が機能するよう尽力するが、善意だけでは不十分だ…。憲法は国民統合、主権、独立の象徴だ。我々は憲法を守り、選挙を実施せねばならない」(2016年3月1日)

アサド大統領はドイツのARD(ドイツ公共放送連盟)の単独インタビューに応じた(https://www.tagesschau.de/ausland/assad-interview-105.html)。

インタビューは英語で行われ、英語全文(http://sana.sy/en/?p=70991)とアラビア語全訳(http://www.sana.sy/?p=345544)はSANAに掲載された。

インタビューにおけるアサド大統領の主な発言は以下の通り:image001

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「(シリアでの米・ロシアによる敵対行為停止合意が発効した2月27日を「歴史的な1日だ」と述べた首都ダマスカスの街の声に関して)私はそれに同意するとともに、そうであることを希望する。なぜなら我々は敵対行為の停止に同意したからだ…。しかし、停戦…などの合意が行われても、それは二者間、さらには複数の当事者間の問題であるため、それを維持し守ることは通常はとても難しい…。複数の当事者間の問題だというのは、100以上のテロ組織があり、多くの国が彼らを支援しているということに言っている…。我々はそれが機能するよう尽力するつもりだが善意だけでは不十分なのだ」。

「停戦が発効して48時間足らずだが…、テロリストがこの合意を最初の数時間で破ったことを知っているはずだ。一方、シリア軍は報復を自制し、合意が継続するための機会を与えようとしている。こうしたことを我々はしているが、何事にも限界がある。問題は相手次第だ」。

「(停戦)合意にいたるまでに時間がかかったのではない。テロリストを監督する諸外国、とりわけ米国が停戦に向かって動きだすまでに時間がかかったのだ…。我々は当初から、地元レベルでこうしたプロセスを開始してきた」。

「こうした合意を結ぶとき、二つのことを問う必要がある。停戦に際して依拠する地図、つまり軍事的地図がどのようのものかということ、そして停戦監視の基準、ないしはメカニズムがどのようなものかということだ。現時点でも…我々はそうした地図を手に入れていない。合意はまだ熟していない。合意が熟したとき、この合意を遵守する責任ある当事者としての責任を果たすことができる」。

「シリア国民の利益、そして国家の原則に基づいた場合、私にとってもっとも重要なのは、市民であれば、機関銃を手にして、人々やその財産に危害を与えることは許されないということだ。我々が(反体制武装組織に)求めているのはこのことだけだ。それ以外は何も求めていない」。

「(「なぜテロリストと、民間人を含む反体制派を分けず、テロと戦うとしか言わないのか」との質問に対して)市民、私的財産、公共財産に対して武器を向ける者は誰であれ、法律上テロリストとなる。私の国でもそうだし、あなたの国でもそうだ。あなたは「反乱軍」などと呼ばれるものを自分の国では認めないはずだ。野党が存在するなかで、武器を手にして目的を実現しようとする「穏健な反体制派」なるものを認めないはずだ…。また我々は、すべての武装集団が過激派だとは言っていない。現地を掌握している多数派だけが過激派集団であって…、それ以外の集団は現地では影響力を持っていない…。だから我々は過激派と戦っているというのだ。現在の真の敵とは主に、ダーイシュ(イスラーム国)、シャームの民のヌスラ戦線、シャーム自由人イスラーム運動、イスラーム軍などのテロ組織からなっているからだ」。

「和解する際には、反体制政治組織ではなく、民兵、現地で戦闘を行っている者たちと話さねばならない。我々が行ってきたのはまさにそれだ…。しかし、シリア人とそれ以外(サウジアラビア人、チェチェン人などの外国人戦闘員)について個別に話そうとしても、両者は一緒になって行動しているのだ。シリアには外国人だけの集団はいない。一つの組織のなかにシリア人と外国人がまざっている。彼らは同じイデオロギーを持ち、「イスラーム国家」やそれに類するものを作るという同じ願望を持っている」。

「政治移行プロセスには、参加したいと考える誰もがそのメンバーとなれるような挙国一致内閣が必要だ。こうした内閣が次の憲法を起草すべきだ。憲法制定後、次の国家、ないしは新シリアのかたちを確定するための国会選挙が行われるべきだ。こうしたことが移行期における主なステップだ」。

「(現下のシリアでの混乱に関して)内戦など起きていない。そうした定義は誤っている…。実際にはテロリスト対それ以外の勢力が争っている」。

「選挙は趣味ではないし、大統領の見解や政府の気分…ではなく、憲法に沿ったものだ。我々が行っている戦争とは、独立にかかわるものだ。なぜなら、欧米諸国、サウジアラビア、カタールといった諸外国が政府や大統領を押しつけようとしているからだ。それは国家破壊に対するものであり、またシリアをレバノンやイラクのような宗派主義国家にしようとする動きに対する戦争だ。憲法は国民統合、主権、独立国家の象徴であり、我々は憲法を守らねばならない。憲法は机上の空論ではなく、実践するものだ。その実践の一つが選挙であって、これは政府の権限によるものではなく、市民の権利だ」。

「(大統領の進退は)我々の問題であり…彼ら(諸外国)の問題ではない…。シリア人だけが大統領を選ぶ権利がある…。シリア国民が私の退任を望むなら、いますぐにもそうしなければならない」。

「人々が国を去る(避難する)ことは、その国の人口がなくなたことを意味しない。つまり、シリアは無人ではないし、多くのシリア人は今もシリアで暮らしている。(2014年の大統領選挙の際)シリア国外で暮らす難民が非常に高い割合で選挙に参加したことに世界のほとんどが驚いた」。

「人道的観点に立つと、(ドイツがシリア人避難民を受け入れることは)良くないはずない…。しかしこれらの人々が自分たちの国にとどまることを支援することの方が人道的ではないだろうか。彼らの誰に質問しても、「私は自分の国に帰りたい」と言うだろう。こうした人々を自分たちの国にとどまらせ、テロとの戦いや安定実現のために活動させ、彼らの問題に干渉しないことの方が、より賢く…低コストではないだろうか。シリア危機に対するこうした政策の方が人道的だ」。

「(国境なき医師団が支援する病院への空爆に関して)私は誰がやったかは本当に知らない。我々がもし空爆したのであれば、もっと前にやっていたはずだ…。病院を攻撃する理由など我々にはない。問題なのは、こうした空爆を犯罪だと言うとき、もちろんそれは犯罪行為だが、どのような基準に基づいてそのように指摘するかということだ。西側の基準に従うと…、2003年のイラク戦争は150万人以上が戦争犯罪によって死亡したのに犯罪ではない。サウジアラビアがイエメンで行う残虐行為も犯罪ではないという…。シリアで起きていることと同じだ…。我々の基準に照らし合わせると、こうしたことを行う者はみな犯罪者だ」。

「(現下の紛争は)容易な戦争ではない。我々は代理として戦う傭兵やテロリストを支援する数十カ国と戦っている。一方、我々の同盟国や友人は、さまざまなかたちで参戦している。その一部は直接戦闘に参加し、一部は間接的に参加している…。彼らはシリアの大統領や政府を支援するためにやって来たのではない…。彼らはテロに国境がないということを知っているからシリアにやって来たのだ…。我々の友人はみな、我々の主権を尊重し、何らの見返りも求めていない」。
「我々は危機発生当初から二つのことを行ってきた。すべての国、国家、派閥、民兵と対話し安定を維持・回復すること。そしてテロとの戦い…。ここで問題なのは、相手方が何をするつもりか、ということだ。あなたが言及している災難や悪夢の一部はテロリストではなく…、欧米諸国の制裁によるものだ…。これらの国の高官はしりあでの苦痛や悪夢を改称するために何をする用意があるというのか。トルコ、サウジアラビア、カタールといった国の…テロ支援に対して圧力をかけるために…何をしているというのか」。

AFP, March 1, 2016、AP, March 1, 2016、ARA News, March 1, 2016、Champress, March 1, 2016、al-Hayat, March 2, 2016、Iraqi News, March 1, 2016、Kull-na Shuraka’, March 1, 2016、al-Mada Press, March 1, 2016、Naharnet, March 1, 2016、NNA, March 1, 2016、Reuters, March 1, 2016、SANA, March 1, 2016、UPI, March 1, 2016などをもとに作成。

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