ロシアは「ヌスラ戦線保護を目的とした改ざん」を避けるため米・ロシアの新和平合意の内容公開と国連安保理決議としての採択を提案、米国は「文書の秘密性を保持したい」意向(2016年9月13日)

ロシアのセルゲイ・ラブロフ外務大臣は、12日に発効した米・ロシアの新停戦合意に関して「ロシアと米国の空爆からシャームの民のヌスラ戦線(シャーム・ファトフ戦線)の保護を目的とした改善」を防ぐため、詳細な内容を公開し、合意文書の文言を変更しないまま、国連安保理決議として採択し、国際承認することを米国に提案したことを明らかにした。

ラブロフ外務大臣によると、米国側は「文書の秘密性を保持したい」との意向を持っているが、「ロシアには隠し立てするものはない。この合意の記載内容は双方のコンセンサスに基づいている。我々は透明性をもって、合意を完全に履行する」と強調した。

一方、ヌスラ戦線(ファトフ戦線)の処遇に関して、「米国側の確約を疑う理由はないが、現地での進捗状況が我々に懸念を与えている。米国が主導する有志連合はヌスラ戦線を標的にすることを避けている。だから、ロシアはヌスラ戦線をめぐる状況に関して米国と真剣かつ率直に話を行う計画がある」と述べた。

米・ロシアの新停戦合意は、9日のラブロフ外務大臣とジョン・ケリー米国務長官の共同記者会見によると、5つの合意からなり、以下の点を骨子としているとされる。

1. テロリストと「穏健な反体制派」を峻別し、シリア政府と「穏健な反体制派」の間で、空爆、支配領域の変更・拡大の試みなどを含むあらゆる戦闘行為を停止させる。
2. ダーイシュ、ヌスラ戦線が活動する地域での「テロとの戦い」は継続される。
3. イスラーム教の犠牲祭(イード・アドハー)初日にあたる9月12日にシリア軍と「穏健な反体制派」の停戦を発効する。
4. 停戦期間は48時間を単位とし、違反がなければ48時間ずつ随時更新される。
5. 7日間にわたり停戦合意が遵守され、人道支援搬入が保障された場合、米国とロシアは合同実施センター(JIC)を開設し、ダーイシュおよびヌスラ戦線への合同軍事作戦を行う。
6. 米国とロシアが合同軍事作戦を行うと定めた地域では、両国軍のみが作戦を実施する。
7. それ以外の地域ではシリア軍も作戦を実施できる。
8. アレッポ市北部のカースティールー街道を非武装化し、アレッポ市内への人道支援の搬入、住民の移動を保障する。
9. アレッポ市南部のラームーサー地区の回廊についても、シリア政府、「穏健なな反体制派」双方が、アレッポ市内への人道支援、商業物資、住民の移動の安全を保障する。


しかし、ヌスラ戦線と「穏健な反体制派」の峻別の基準や方法、アレッポ市を含む停戦地域への人道支援物資搬入方法や現地での和解プロセス、そして国連主催によるジュネーブでの和平協議再開の方法など、明らかにされていない点が多い。

また、ヌスラ戦線は、ジュネーブ3会議の決裂以降、「穏健な反体制派」との連携を強めており、この動きは、シリア軍によるアレッポ市東部包囲とヌスラ戦線がシャーム・ファトフ戦線に改称によって加速している。

AFP, September 13, 2016、AP, September 13, 2016、ARA News, September 13, 2016、Champress, September 13, 2016、al-Hayat, September 14, 2016、Iraqi News, September 13, 2016、Kull-na Shuraka’, September 13, 2016、al-Mada Press, September 13, 2016、Naharnet, September 13, 2016、NNA, September 13, 2016、Reuters, September 13, 2016、SANA, September 13, 2016、UPI, September 13, 2016などをもとに作成。

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