アサド大統領がAPのインタビューに応じる「ヌスラ戦線やダーイシュを攻撃してしまえば、米国は重要なカードを失うことになる。だから、米国がロシアとともに「テロとの戦い」を行うとは思えない」(2016年9月22日)

アサド大統領はAPのインタビューに応じ、シリア大統領府がその映像をYoutube(https://youtu.be/tTIXZGSPl4c)を通じて配信、またSANAが英語全文(http://sana.sy/en/?p=88686)とアラビア語全訳(http://www.sana.sy/?p=433246)を掲載した。

インタビューにおけるアサド大統領の主な発言は以下の通り:

SANA, September 22, 2016

SANA, September 22, 2016

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「我々はすべての作戦停止を遵守する準備があると宣言した…。(停戦の遵守は)シリアやロシアの問題ではなく、米国、そしてダーイシュ(イスラーム国)、シャームの民のヌスラ戦線、アル=カーイダ、米国、トルコ、サウジアラビアに帰属するテロ組織の問題だ。彼らは正式に(停戦を遵守すると)宣言したが、遵守していない…。米国は本気でシリアの暴力を停止させようとしていないと思う」。

「米国はヌスラ戦線、さらにはダーイシュにさえ対抗しようとする意思を持っていない。なぜなら、米国はこれらの組織が自分たちのアジェンダに利用できるカードだと考えているからだ。ヌスラ戦線やダーイシュを攻撃してしまえば、シリア情勢に関する重要なカードを失うことになる。だから、私は、米国がシリアでのテロとの戦いでロシアに与する用意があるとは考えていない」。

「(ダイル・ザウル県サルダ山のシリア軍拠点に対する有志連合の誤爆に関して)事故だとは思っていない…。4機もの戦闘機がシリア軍の拠点を1時間教も攻撃し続けたのだ…。これが第1点。また第2に、彼らは一区画の一棟を狙ったのではなく、複数の丘陵からなる広大な地域を攻撃した。そこにはシリア軍と対峙するテロリストなどいなかった。しかも同時に、ダーイシュが米軍の空爆直後に攻撃してきたのだ。ダーイシュはどうやって米軍が攻撃することを知り得たのだ…。米国は意図していないと言っているが、明らかに意図的だった」。

「(アレッポ市郊外でのシリア赤新月社と国連の支援チームの車列への攻撃に関して)数年前から各地に世界中のさまざまな機関が数十の車列を派遣してきたが、ロシア軍によるものであれ、シリア軍によるものであれ、こうした事件は過去には起こらなかった…。米国高官がシリアでの紛争について何を言おうと、そこに信憑性はない…。ただの嘘、空想であり、何の根拠もない」。

「車列はテロリストの支配地域にいた…。この車列の安全に責任を負っていたこの地域にいる人々、ないしは武装集団、そしてテロリストがまず非難されるべきだ。しかし、我々は何が起きたのかはまったく承知していない。我々はビデオ映像で、車が炎上し、トラックが破壊された光景したのを見せられただけだからだ」。

「(攻撃は反体制派によるものだとしたうえで)国連さえも車列に対して空爆は行われなかったと言っている…。また、事件と時を同じくして、テロリストがシリア軍をミサイル攻撃している…。さらに、(空爆だとする)判断や非難を下す目撃者は信用できるのか。我々にはそれを知る由もない」。

「(ホワイト・ヘルメットなどの)証言はシリア軍やロシア軍を非難するときにだけ表れる。しかし、テロリストが犯罪や虐殺などを行うときには、こうした証言は出てこないし、ホワイト・ヘルメットの活動について耳にすることもない。つまり完全に一致している。しかも、我々にはそうしたことをすることに何の利益も得ることはできない。その理由はたった一つだ。我々が車列を攻撃すれば…、我々はテロリストを利することになるからだ」。

「(化学兵器の使用に関して)我々はどの事件においても、国連に対して調査団の派遣を要請しており、今もこの立場を貫いている…。しかし米国はこれに反対している…。なぜなら調査が行われれば、シリア軍ではなく、テロリストが有毒ガスを使用したことが発覚するからだ」。

「樽爆弾」とは…人々を無差別に殺戮しているという悪事を行っているように見せるために使われている言葉に過ぎない…。しかし、そのほかの爆弾と何が違うというのか。すべての爆弾は人を殺すためのもので、問題はどう使われるかだ。兵器を使用するのであれば、市民を守り、テロリストを殺すために使うべきだ…。我々は市民を殺すことはない…。なぜなら、彼らは我が国民であり、我々を支持しているからだ…。我々は間違いを犯していないなどとは言わない。我々はそれ(「樽爆弾」と言われる無差別殺傷兵器)は使用していない。個々人が間違えることは多々あるが、こうした間違いと…政府が実施する政策としての犯罪は同じではなく、我々はそうした政策は打っていない」。

「政府から難民・批判民が逃げているというのは正しくない。テロリスト、とりわけアル=カーイダ、ヌスラ戦線、そしてアル=カーイダとつながりのある組織が市民を守り、政府が国民を殺しているなどという非難を誰も信じることはできない」。

「(シリア軍がアレッポ市など包囲中の地域に飢餓作戦を行っているのではとの指摘に対して)アレッポ市が本当に包囲されているとすれば、今にも住民は死んでしまうだろう…。また、より重要なこととして、彼ら(反体制派)は隣接する地域やシリア軍の拠点を何年も砲撃し続けているのに、迫撃砲や爆弾が尽きることはない。兵器を得続けながら、どうして彼らが餓死するというのか。包囲されている地域への食糧・医療支援を我々が阻止しているとして、なぜこれらの地域への兵器の流れが止められないというのか。こうした見方はまったく論理的でない」。

「シリアを去ったシリア人の大多数が、治安と生活が正常化し、必要最小限の生活の糧が保障されるようになったら戻ってくると確信している。そのことについて心配はしていない…。シリアの国内的要因を見た場合、数ヶ月でこうした状況が整うだろうと言える…。しかし、現状は地球規模の紛争、地域紛争であり、制御できない多くの外的要因がある…。テロリストを直接支援する国、政府、首脳がテロリストへの支援を辞めれば、シリア情勢は何の障害もなく解決へと向かう…。しかし、エルドアンや米国の政権、そして欧米諸国政府、そしてもちろん、サウジアラビア、カタールがテロリストへの支援を数ヶ月中に止めるなどとは信じられない」。

「(シリア分割はあり得るかとの問いに対して)我々はそうしたことは決して考えたことはない。シリア人の大多数もそうは考えていない。私自身も、現状がこうした分割の雰囲気を醸成しているとも思っていない…。多くのシリア人は、自分たちの国を繁栄させる唯一の道が、共存ではなく統合であると理解するようになっている…。私はシリア人がこれまで以上に統合されると確信している。つまり、現下の唯一の問題は分割ではなく、テロなのだ」。

「何度も行っているが、我々はいかなる病院も攻撃していない…。もし我々が病院、学校などを攻撃すれば、それはテロリストを助けることになってしまう」。

「(ホワイト・ヘルメットのライト・ライブリフッド賞受賞を支持するかとの問いに関して)ホワイト・ヘルメットが信用できるかどうかが問題なのではない…。しかし、一部の政治化した組織は、人道主義者のマスクを使い分けて…特定のアジェンダを実効しようとしている…。ホワイト・ヘルメットがシリアで何を達成したというのか」。

「(米国の大統領選挙に関して)彼ら(大統領候補)は概して、選挙期間中に言ったことと逆のことを選挙後にする。米国の高官らは朝に行ったことと逆のことを夜にしているのを見てきた。だから、彼らが言っていることで判断することはできない…。我々は候補者が大統領になるまで待たねばならないし、そのうえで政策、行動、振る舞いに目を向けねばならない。しかし多くを期待してはいない」。

AFP, September 22, 2016、AP, September 22, 2016、ARA News, September 22, 2016、Champress, September 22, 2016、al-Hayat, September 23, 2016、Iraqi News, September 22, 2016、Kull-na Shuraka’, September 22, 2016、al-Mada Press, September 22, 2016、Naharnet, September 22, 2016、NNA, September 22, 2016、Reuters, September 22, 2016、SANA, September 22, 2016、UPI, September 22, 2016などをもとに作成。

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