アスタナ4会議閉幕:ロシア、トルコ、イランは「安全地帯」(緊張緩和地帯)設置を骨子とする新停戦合意に署名、シリア政府はこれを支持、反体制武装集団は怒号を浴びせ退場(2017年5月4日)

カザフスタンの首都アスナタで3日に開幕したシリア政府と反体制武装集団の和平協議「アスナタ4会議」は2日間の日程を終え、閉幕した。

2日は、カザフスタンのカイラット・アブドラフマノフ外務大臣を議長とする全体会合が開かれ、シリア国内での停戦の保障国であるロシア、トルコ、イランの3カ国の代表団(ロシアのアレクサンドル・ラヴレンチエフ・シリア問題担当大統領特使、イランのホセイン・ジャーベリー・アンサーリー・アラブ・アフリカ担当外務副大臣、トルコのセダト・オナル外務大臣特別顧問)は、ロシアが提案した「安全地帯」設置を骨子とする新たな停戦合意、「緊張緩和地帯(de-escalation zones)設置にかかる覚書」に署名した。

SANA, May 4, 2017

Ministry of Defence of the Russian Federation, May 5, 2017

 

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ロイター通信(5月4日付)によると、3日に米国の代表団との会談後に会議への参加中止を決定していた反体制武装集団の代表団(イスラーム軍のムハンマド・アッルーシュ氏が代表)は、4日の全体会議に出席したが、ロシア、イラン、トルコの3カ国の代表が「安全地帯」設置を骨子とする新停戦合意に署名すると、怒号を浴びせて、議長を退出した。

反体制武装集団の代表団に参加するウサーマ・アブー・ザイド氏は、アスタナ4会議でロシア、トルコ、イランが合意した「安全地帯」設置を骨子とする新停戦合意に関して「反体制派はシリアの統合を維持したい…。我々はシリア分割に反対する。この合意において、我々は当事者ではない。イランが保障国とされる限り、もちろん支持などしない」と述べた。

『ハヤート』(5月5日付)が伝えた。

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一方、シリアの外務在外居住者省は声明を出し、「シリア・アラブ共和国は、「緊張緩和地帯」にかかるロシアのイニシアチブを支持し、2016年12月30日に署名された停戦規定を順守する」と発表するとともに、「テロとの戦い」を継続する意思を改めて表明した。

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ロシア国防省が5日の会見で明らかにしたところによると、「緊張緩和地帯」は、ロシア国防省が5月に入って原案を作成、3日のソチでのヴラジミール・プーチン大統領とトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領の会談など、トルコ、米国、イラン、シリア、イスラエルとの協議を経て合意に至り、国連のアントニオ・グテーレス事務総長、スタファン・デミストゥラ・シリア問題担当国連特別代表からも高く評価され、支持を得ているという。

「緊張緩和地帯設置にかかる覚書」は、2017年5月6日0時00分に発効され、その実施により、ダーイシュ(イスラーム国)、シャーム解放機構(シャームの民のヌスラ戦線)と反体制派の峻別が実現するとともに、同地域への医療物資、食糧物資などの自由な支援、インフラ復興、難民および国内避難民の帰宅、内戦終結と紛争の政治的解決を保障するという。

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覚書によると、合意に基づいて設置される「緊張緩和地帯」は4カ所。

第1の地域はシリア北部のイドリブ県やラタキア県を含むシリア北東部、アレッポ県西部、ハマー県北部で、1万4,500人の反体制武装集団戦闘員が同地を支配し、約100万人が暮らしている。

Ministry of Defence of the Russian Federation, May 5, 2017

第2の地域はヒムス県北部のラスタン市、タルビーサ市一帯で、約3,000人の反体制武装集団戦闘員が同地を支配し、約18万人が暮らしている。

Ministry of Defence of the Russian Federation, May 5, 2017

第3の地域はダマスカス郊外県の東グータ地方で、約9,000人の反体制武装集団戦闘員が同地を支配し、約69万人が暮らしている。

なおこの地域には、シャーム解放機構の支配下にあるダマスカス県カーブーン区は含まれない。

Ministry of Defence of the Russian Federation, May 5, 2017

第4の地域はダルアー県、クナイトラ県内の地域で、いわゆる「南部戦線」(1万5,000人の戦闘員を擁する)が同地を支配、約80万人が暮らしている。

Ministry of Defence of the Russian Federation, May 5, 2017

「緊張緩和地帯」は必要に応じて増設されるという。

「緊張緩和地帯」では、シリア政府軍と反体制武装集団は停戦に応じ、戦闘を中止し、すべての兵器の使用が禁止される。

また、停戦実施のために、安全通路を確保し、検問所を設け、武器を持たない民間人の往来、人道物資の搬入、経済活動の支援が行われ、その監視にはロシア、イラン、トルコが2週間以内に合同作業グループを発足させ、人員を派遣する。

合同作業グループはまた、7月4日までに、「テロ組織」と反体制派を峻別する地図を作成する。

なお「緊張緩和地帯」設置に伴う停戦は、ダーイシュ(イスラーム国)、シャーム解放機構を含むものではなく、停戦保障国は引き続きシリア国内での「テロとの戦い」を継続する。

また、シリア軍もシリア中部、東部、ユーフラテス川一帯でダーイシュに対する「テロとの戦い」を継続、ロシア空軍はこれを支援する。

AFP, May 4, 2017、AP, May 4, 2017、ARA News, May 4, 2017、Champress, May 4, 2017、al-Hayat, May 5, 2017、Kull-na Shuraka’, May 4, 2017、al-Mada Press, May 4, 2017、Ministry of Defence of the Russian Federation , May 5, 2017、Naharnet, May 4, 2017、NNA, May 4, 2017、Reuters, May 4, 2017、SANA, May 4, 2017、UPI, May 4, 2017などをもとに作成。

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