シリア・ロシア軍はイドリブ県南部を集中的に爆撃、アル=カーイダ系組織はトルコが支援する反体制派とともにハマー県北部でシリア軍に反撃(2019年5月16日)

シリアのアル=カーイダと目されるシャーム解放機構が軍事・治安権限を掌握するイドリブ県、ハマー県北部、ラタキア県北部、アレッポ県西部の緊張緩和地帯第1ゾーンに対するシリア・ロシア軍の激しい爆撃・砲撃は17日目を迎え、前日に比べて若干の激しさを増した。

爆撃はイドリブ県南部に集中する一方、ドゥラル・シャーミーヤ(5月16日付)などによると、シャーム解放機構、トルキスタン・イスラーム党、トルコの支援を受ける国民解放戦線はハマー県北部でシリア軍に対する反転攻勢を強めた。

シリア人権監視団によると、シリア軍ヘリコプターが各所に投下した「樽爆弾」は108発、戦闘機による爆撃は72回、地上部隊が発射した迫撃砲弾、ロケット弾は475発あまりに達した。

ロシア軍も9回にわたり爆撃を実施した。

一連の戦闘で、シリア軍兵士、反体制武装集団戦闘員合わせて7人が死亡した。

なお、4月30日以降の戦闘による犠牲者数は前日より12人(民間人5人、戦闘員7人)増えて452人となった。

うち、153人が民間人(女性33人、子供27人を含む)、299人がシリア軍兵士および反体制武装集団戦闘員。

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ラタキア県では、シリア人権監視団によると、シリア軍ヘリコプターが、カッバーナ村一帯に「樽爆弾」25発を投下、戦闘機がカッバーナ村一帯を19回爆撃した。

また地上では、シリア軍がカッバーナ村一帯を砲撃した。

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イドリブ県では、シリア人権監視団によると、シリア軍ヘリコプターが、フバイト村に「樽爆弾」12発、ハーン・シャイフーン市およびその一帯に6発、ウンム・スィール村に5発、アービディーン村に2発、バアルブー村に2発、カフルルーマー村灌木地帯に2発、アミーカ村に2発、トゥラムラー村に2発、ハッサーナ村に2発、マアッラト・ハルマ村に2発、カフルサジュナ村に2発、マアッルズィーター村に2発、カッサービーヤ村に2発、マガッル・ハマーム村に2発、サイヤード村一帯に2発、ルワイバダ村に2発を投下、戦闘機がハーン・シャイフーン市を13回、フバイト村を8回、マアッラト・ハルマ村を6回、カフルサジュナ村を4回、ヒーシュ村を6回、カフルナブル市を2回、カフルルーマー村を2回、ジャバーラー村とその一帯を2回、アービディーン村を2回、ハーッス村を2回、トゥラムラー村を2回爆撃した。

また地上では、シリア軍が県南部各所を砲撃した。

一方、ドゥラル・シャーミーヤ(5月16日付)やANHA(5月16日付)によると、ロシア軍がハーッス村を爆撃し、子供2人が死亡した。

また、SANA(5月16日付)によると、シリア軍がフバイト村、アービディーン村、マアッラト・ヌウマーン市にあるシャーム解放機構の拠点に対して重点的に砲撃を行い、拠点複数カ所を破壊、複数の戦闘員を殺傷した。

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ハマー県では、シリア人権監視団によると、シリア軍ヘリコプターが、マイダーン・ガザール村に「樽爆弾」に16発、シャフルナーズ村に6発を投下、戦闘機がシャフルナーズ村を2回、ハウワーシュ村を2回爆撃した。

ロシア軍もアンカーウィー村、ハウワーシュ村などガーブ平原各所を爆撃した。

また地上では、シリア軍がラターミナ町、カフルズィーター市などを砲撃した。

一方、ドゥラル・シャーミーヤ(5月16日付)によると、「革命諸派」(組織は明示せず)が、フワイズ村内に設置されたシリア軍の陣地に対して特攻(インギマースィー)攻撃を敢行し、兵士15人以上を殺害した。

また、イバー・ネット(5月16日付)は、シャーム解放機構が県北部に設置されたロシア軍の作戦司令室をグラード・ロケット弾で重点的に砲撃したと伝え、その写真や映像を公開した。

ロシア軍は、ブライディージュ村にあるシリア軍基地など、県北部各所に展開しているが、標的とした場所は不明。

トルコの庇護を受ける国民解放戦線も、マイダーン・ガザール村一帯に進軍を試みたシリア軍とパレスチナ人民兵のクドス旅団を撃破し、兵士多数を殺傷したと発表、戦闘の様子を撮影した映像を公開した。

さらに、トルキスタン・イスラーム党もインターネットを通じて、戦闘で殺害したとするシリア軍兵士の遺体の写真を公開した。

こうした反撃に関して、シリアのアル=カーイダと目され、イドリブ県を中心とする反体制派支配地域(緊張緩和地帯第1ゾーン)の軍事・治安権限を掌握するシャーム解放機構のアブー・ハーリド・シャーミー報道官が声明を出し、ハマー県でのシリア軍との戦いが新たな局面を迎えたと発表した。

声明で、シャーミー報道官は、ラタキア県クルド山でロシア軍の無人航空機(ドローン)を撃破するなどの戦果を上げたと誇示する一報、ハマー県北部の「フワイズ村、カルカート村、マイダーン・ガザール村一帯をアサド軍の死に場所にした」「シリア軍は10日に自分達の計画を何ら実現していないことが分かった」と主張した。

他方、SANA(5月16日付)によると、シリア軍がシール・マガール村、アンカーウィー村、ズィヤーラ町、カストゥーン村にあるシャーム解放機構の拠点に対して重点的に砲撃を行い、拠点複数カ所を破壊、複数の戦闘員を殺傷した。

シリア軍はまた、シャフシャブー山(イドリブ県)に面するバーブ・ターカ村、フワイズ村一帯に進攻した反体制武装集団と交戦、これを撃破した。

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アレッポ県では、ANHA(5月16日付)によると、トルコの支援を受ける反体制武装集団がアレッポ市東部のナイラブ・キャンプ地区、西部の新シャフバー地区を砲撃した。

いずれも人的被害はなかった。

これに対して、シリア・ロシア両軍がアレッポ市ラーシディーン地区、ライラムーン地区、カフルハムラ村を爆撃、シリア軍とシャーム解放機構などの反体制武装集団が砲撃戦を行った。

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ヒムス県では、ダーイシュ(イスラーム国)に近いアアマーク通信(5月16日付)によると、ダーイシュがタドムル市南西に位置するシリア軍の兵舎を襲撃し、兵士21人を殺害した。

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ロシア国防省は声明を出し、過去24時間で「緊張緩和地帯設置にかかる覚書」への違反を7件(ラタキア県5件、ハマー県2件)確認したと発表した。

トルコ側の監視チームは停戦違反を14件(アレッポ県6件、ハマー県7件、イドリブ県1件)確認した。

AFP, May 16, 2019、ANHA, May 16, 2019、AP, May 16, 2019、al-Durar al-Shamiya, May 16, 2019、al-Hayat, May 17, 2019、Ministry of Defence of the Russian Federation, May 16, 2019、Reuters, May 16, 2019、SANA, May 16, 2019、Shabaka Iba’ al-Ikhbariya, May 16, 2019、SOHR, May 16, 2019、UPI, May 16, 2019などをもとに作成。

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