国連安保理でクロスボーダーでの支援をめざすドイツ・ベルギー・クウェートの決議案がロシアと中国の拒否権発動で廃案に、ロシアの決議案も否決(2019年12月20日)

国連安保理で、シリア情勢への対応を協議する会合が開かれ、2020年1月10日に失効する国連安保理決議第2165号(2014年7月14日)の延長とクロスボーダーでの支援継続にかかる決議案の審議・採決が行われた。

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国連安保理決議第2165号は、国連事務総長の権限のもと、周辺諸国からの人道支援物資搬入を監視するための仕組みを構築、反体制派の支配下にあるバーブ・サラーマ国境通行所(アレッポ県)、バーブ・ハワー国境通行所(イドリブ県)、ラムサー国境通行所(ダルアー県)、西クルディスタン移行期民政局(ロジャヴァ)の支配下にあるヤアルビーヤ国境通行所(ハサカ県)を経由して、反体制派支配地域に人道支援を行うことができる旨、定められている。

物資搬入に際しては、周辺諸国の同意とシリア政府への通告を義務づけ、人道支援以外の目的での物資搬入を抑止することが目指されている。

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会合に提出され、審議・採決の対象となった決議案は二つ。

第1の決議案は、ドイツ、ベルギー、クウェートが「シリアの人道問題にかかる共同ペンフォルダー」の名のもとに提出したもので、国連安保理決議第2165号が定めたシリア領内へのクロスボーダーでの試練の期限を延長するとともに、支援物資を搬入するために、バーブ・サラーマ国境通行所、バーブ・ハワー国境通行所、ヤアルビーヤ国境通行所の3カ所を維持することを求めていた。

採決では、常任理事国の米英仏と非常任理事国10カ国が賛成票を投じたが、ロシアと中国が拒否権を発動し、廃案に追い込んだ。

ロシアが、シリア関連の安保理決議案に拒否権を発動するのは2011年以降ではこれが14回目。

拒否権発動に関して、ロシアのワシーリー・ネベンジャ国連大使は、シリア政府が同意しない人道支援搬入は認められないと述べた。

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第2の決議案は、ロシアが提出したもので、シリア政府の支配地域拡大を考慮し、通行所を4カ所のうち、ヤアルビーヤ国境通行所とラムサー国境通行所を閉鎖し、トルコ国境に面するバーブ・サラーマ国境通行所とバーブ・ハワー国境通行所のみを残すことを骨子としていた。

だが、採決の結果、賛成5カ国、反体制4カ国、棄権4カ国で廃案となった。

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なお、会合に出席したルワイフ・フルール国連シリア臨時代理大使が、トルコがイドリブ県のテロ組織への支援を続けていると非難する一方、米国によるシリア領内の油田の違法な占領を指弾、すべての当事者、とりわけトルコにアスタナ会議での合意を遵守するよう求めた。

また、制憲委員会(憲法委員会)については、反体制派代表と議題について一致に達することができなかったことに遺憾の意を表明、ペデルセン特別代表に引き続き全面協力する意思を示した。

一方、ドイツ、ベルギー、クウェートが提出した決議案がロシアと中国の拒否権発動によって廃案となったことに関して、フルール代理大使は、決議をシリア情勢に乗じて、その主権を侵害しようとするものだと批判、拒否権を発動したロシアと中国に謝意を示した。

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また、ゲイル・ペデルセン・シリア問題担当国連特別代表は、スイスのジュネーブにある国連本部での制憲委員会(憲法委員会)の進捗について報告、第2会会合(小委員会会合)がシリア政府代表と反体制派代表の議題をめぐる意見の相違ゆえに開催できなかったと説明した。

AFP, December 20, 2019、ANHA, December 20, 2019、AP, December 20, 2019、al-Durar al-Shamiya, December 20, 2019、Reuters, December 20, 2019、SANA, December 20, 2019、SOHR, December 20, 2019、UPI, December 20, 2019などをもとに作成。

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