ベカーア県バアルベック郡の対シリア国境地帯でダーイシュ(イスラーム国)とともに活動を続けるアル=カーイダ系組織のシャームの民のヌスラ戦線は、2014年8月2~3日のアルサール村襲撃によって拉致していた内務治安総軍の隊員16人を釈放した。
ナハールネット(12月1日付)、MTVなどによると、隊員16人の釈放に向けたレバノン政府当局とヌスラ戦線の折衝はカタール政府によって仲介され、身柄引き渡しはアルサール村郊外で行われた。
解放された16人はレバノン赤十字社の車輌でただちに首都ベイルートに移送され、家族らと再開した。
16人は、MTV(12月1日付)に対して、釈放に向けた交渉を指揮したアッバース・イブラーヒーム総合治安局長、ワーイル・アブー・ファーウール保健大臣、カタール政府らに謝意を述べた。
またベイルート到着から数時間後、16人は首相官邸で解放を祝う式典に参加、その後リヤード・スルフ広場で家族とともに解放を祝った。
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ジャズィーラ・チャンネル(12月1日付)によると、16人の釈放の見返りとして、レバノン当局は週間中のイスラーム過激派およびその関係者13人を釈放、またヌスラ戦線戦闘員の遺体を引き渡した。
このうち5人は女性で、そのなかには、ダーイシュの指導者アブー・バクル・バグダーディー氏の元妻の一人とされるサジャー・ハミード・ドゥライミー氏(イラク人)、ヌスラ戦線カラムーン地方司令官(アミール)のアブー・マーリク・タッリー氏に近いサマル・ヒンディー女史も含まれていた。
ドゥライミー氏は2014年12月、「テロ容疑」でレバノン当局に逮捕されていた。
ドゥライミー氏は、バグダーディー氏と離婚して7~8年が経過しており、自身は現在の夫とともにトルコに向かう途中だったと述べている。
釈放された13人は、ヌスラ戦線に引き渡される予定だったが、うち少なくとも10人はヌスラ戦線のもとには向かわず、自らの意思で首都ベイルートにとどまっているという。
なお、ヌスラ戦線は13人の釈放のほか、シリア・レバノン国境地帯で避難生活を送る避難民への支援物資の配給を要求している。
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一方、アッバース・イブラーヒーム総合治安局長はジャディード・チャンネル(12月1日付)に対し、ヒズブッラーのハサン・ナスルッラー書記長とカタールのタミーム・ビン・ハマド・サーニー首長が連絡をとりあったことで、捕虜釈放の動きが加速したことを明らかにした。
イブラーヒーム総合治安局長は「10月に(ヒズブッラー書記長のハサン・)ナスルッラー氏のもとを訪れ、彼は私にカタールの首長に連絡をとると約束してくれた。1週間後、事件は急速な進展を遂げ始めた…。ナスルッラー氏は先週毎日のように交渉に伴うさまざまな問題に取り組むべく介入してくれ、困難を克服すべく、カタール首長に連絡をとってくれた」と強調した。
またナスルッラー書記長は、シリアのアサド大統領とも連絡をとり、アルサール村一帯(およびダマスカス郊外県カラムーン地方)のヌスラ戦線が停戦と、シリア当局が拘束中の逮捕者釈放を求めている旨、伝えてくれたとも付言した。
AFP, December 1, 2015、AP, December 1, 2015、ARA News, December 1, 2015、Champress, December 1, 2015、al-Hayat, December 2, 2015、Iraqi News, December 1, 2015、al-Jadid TV, December 1, 2015、Kull-na Shuraka’, December 1, 2015、al-Mada Press, December 1, 2015、MTV, December 1, 2015、Naharnet, December 1, 2015、NNA, December 1, 2015、Reuters, December 1, 2015、SANA, December 1, 2015、UPI, December 1, 2015などをもとに作成。
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