ヌスラ戦線がアル=カーイダとの関係を解消:米国とロシアの爆撃回避と「地域諸国」からの資金獲得が目的か?(2016年7月28日)

シャームの民のヌスラ戦線の最高指導者アブー・ムハンマド・ジャウラーニー氏はビデオ声明を発表、そのなかでアル=カーイダとの関係を解消し、組織名をシャーム・ファトフ戦線に解消すると発表した。

ジャウラーニー氏が公の場で顔を晒したのは今回のビデオ声明が初めてで、アブドゥッラヒーム・アトワーン氏(アブー・アブドゥッラー・シャーミー、写真左)、アフマド・サラーマ・マブルーク氏(アブー・ファラジュ・ミスリー、エジプト人、写真右)を伴って声明文を読み上げた。

ビデオ声明(https://www.youtube.com/watch?v=oossAtDYbrs)はカタールの衛星テレビ局ジャズィーラ・チャンネルと反体制系サイトのオリエント・ニュースを通じて28日晩に配信された。

3分半の短い声明のなかで、ジャウラーニー氏はまず「アル=カーイダ総司令部指導者のアイマン・ザワーヒリー氏、副指導者のアフマド・ハサン・アブー・ハイル氏に対して、シャームの民の利益、ジハード、革命を優先する姿勢を示してくれたことに謝意を示したい」と表明、「ウマーマ・ビン・ラーディン氏の教えに従い、特定の集団ではなく、イスラーム教徒全体の必要や利益に応じ、アル=カーイダが指導を続けることを願う」と激励した。

次に、「シャームの民のヌスラ戦線指導部は、アル=カーイダの指導者の指示や教えに従い、またシャームの民の利益やジハードに準じ…、ジハードを継続し、我々とジハードを遂行するその他の組織との乖離を解消するため、シューラーのもとにシャームの民を糾合し、その土地を解放するための統一組織を結成する」と表明、また「アル=カーイダの分派であるヌスラ戦線を標的とする口実で、シャームのイスラーム教徒に対して容赦ない空爆を続ける米国やロシアを筆頭とする国際社会の欺瞞に直面するシャームの人々の要請に応える」と言明した。

そのうえで「ヌスラ戦線指導部はヌスラ戦線の名で行ってきたすべての活動を完全停止し、「シャーム・ファトフ戦線の名で新たな組織を結成する」と宣言した。

また「この新組織は、いかなる外国の組織にも所属しない」と強調し、アル=カーイダとの関係解消したことを明らかにした。

最後に、シャーム・ファトフ軍の目的として、「アッラーの宗教の確立」、「ジハードを行うすべての組織の統合と、暴君からのシャームの全土解放」、「シャームにおけるジハードの防衛と継続」、「イスラーム教徒への奉仕」、「治安、安定、尊厳ある生活の保障」の5点を掲げた。Orient News Net, July 28, 2016

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『ハヤート』(7月29日付)が得た情報によると、ヌスラ戦線は数日前に幹部がイドリブ市郊外で会合を開き、「地域諸国の圧力に応じるかたちで」、アル=カーイダとの関係解消を全回一致で決定したという。

またこの決定は、米国とロシアがダーイシュ(イスラーム国)とヌスラ戦線に対する空爆で直接支援と、ヌスラ戦線、シャーム自由人イスラーム運動などからなるファトフ軍支配下のイドリブ県での空爆連携を模索しているなかで、ヌスラ戦線支配地域への攻撃を軽減することを狙ったものでもあるという。

会合に参加した複数のメンバーによると、会合ではまた、新たな資金援助の獲得についても審議されたという。

それによると、1万人以上とされる戦闘員を抱えるヌスラ戦線は、毎月約2,500万米ドル相当の予算(武器、兵站にかかる費用込み)を必要としており、これまではシリア国内での経済活動(農業など)、欧米人やアラブ人の人質解放の対価として得られる身代金、外国からの寄付によって収入をまかなってきたが、アル=カーイダと関係解消すれば、1,000万米ドルの資金援助がなされるとの約束がなされていたのだという。

AFP, July 28, 2016、AP, July 28, 2016、ARA News, July 28, 2016、Champress, July 28, 2016、al-Hayat, July 29, 2016、Iraqi News, July 28, 2016、Kull-na Shuraka’, July 28, 2016、al-Mada Press, July 28, 2016、Naharnet, July 28, 2016、NNA, July 28, 2016、Orient News Net, July 28, 2016、Reuters, July 28, 2016、SANA, July 28, 2016、UPI, July 28, 2016などをもとに作成。

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