イスラーム国報道官が音声声明のなかで自組織が「シリアとイラクで大規模な攻撃に曝されている」としつつ使徒末裔旅団と北の嵐旅団などを非難する一方、自由シリア軍最高軍事評議会報道官はアサド大統領に再び正統性を与えたとして安保理決議第2118号を非難(2013年10月1日)

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反体制勢力の動き

イラク・シャーム・イスラーム国(ダーイシュ)の報道官を名乗るブー・ムハンマド・アドナーニー氏はインターネットを通じて音声声明(https://www.youtube.com/watch?v=YhoAoA233vY)を出し、シリアとイラクで「大規模な攻撃」に曝されているとしたうえで、イラク国内のモスクに対する爆弾テロをダーイシュが行ったとの批判を否定、「こうした行為はシーア派の仕業で、憎きサファヴィー朝の治安機関との調整のもとになされた」と主張した。

Rihab News, October 1, 2013

Rihab News, October 1, 2013

そのうえで、こうした「大規模攻撃」が、イラクにおけるダーイシュの活動に何の影響も及ぼさないと強調した。

またシリア情勢に関して、ダーイシュは、自分たちが準備したアレッポ県マンナグ航空基地攻略計画を、自由シリア軍が実行したことを明らかにするとともに、ハマー県東部に対して自ら攻撃を行い「ヌサイリー態勢の検問所を殲滅、ハマー市の防衛拠点、武器庫などを襲撃した」ことを認めた。

一方、ラッカ県、ダイル・ザウル県、アレッポ県、ハマー県での使徒末裔旅団や北の嵐旅団との対立について、アドナーニー氏は、ダーイシュが「解放区」に集結しているとの情報を否定するとともに、これらの地域での戦端は使徒末裔旅団と北の嵐旅団の側が開いたと反論した。

そのうえで、ダーイシュはこの間も「ヌサイリー派の本拠地カルダーハに向けて」前進を進めていると強調し、アサド政権との武装闘争に専念していると主張した。

さらに、使徒末裔旅団に関しては、その指導者がフランスを訪れ、ダーイシュに対抗するための資金・軍事支援を求めていると批判、また「イスラーム教徒にアルコールを飲むよう強要している」と指弾した。

このほか、アドナーニー氏は、メディアがダーイシュのイメージを悪化させようとしていると批判、「メディアはダーイシュがイスラーム教徒の頭を切断し、皮を剥いでいるというイメージを人々に与えようとしている。またイラクで行ったことをシャームでも行うと思わせようとしている…。しかしダーイシュは、決定的な法的証拠が無ければ誰一人として背教宣告はしない。ダーイシュは、アミールからそのメンバーにいたるまで、アッラーの法に従い、不正をしかける者のみを懲罰する」と強調した。

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AFP(10月1日付)によると、自由シリア軍最高軍事評議会(参謀委員会)報道官のカースィム・サアドッディーン大佐とアレッポ地元評議会のヤフヤー・ナアナーア議長が、フランス下院議員主催のシンポジウムに出席するためにパリを訪問した。

サアドッディーン大佐は、国連安保理決議第2118号に関して「この決議は国連にとって恥で、スキャンダルだ。国際社会は化学兵器に没頭し、10万人の紛争犠牲者を忘れてしまった」と述べた。

ナアナーア議長は化学兵器撤廃問題を通じて「バッシャール・アサドは再び尊敬に値する合法的な存在になった…。これらすべての虐殺はなぜこんな状態になってしまったのか?シリア革命が化学兵器問題のため…ではなく、シリアに法治国家を建設するために行われていたのだ」と述べた。

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自由シリア軍合同司令部中央広報局のファフド・ミスリー氏はAKI(10月1日付)に対して移行期における同組織のビジョンを明らかにした。

それによると、反体制勢力と「殺戮に手を染めていない」アサド政権双方の代表者からなる軍事評議会と文民評議会を設置したうえで、両評議会のメンバーからなる合同議長評議会を発足し、政務の遂行、テクノクラート内閣の樹立、憲法起草、国民和解の準備などが進められる一方、治安・国防最高評議会が設置され、治安機関、国軍、自由シリア軍の再編が行われるという。

ミスリー氏はまた、「殺戮に関与したアサドと政権幹部の退任を伴わない危機の収束はいかなる政治的解決・対話も成功させない」と主張した。

シリア政府の動き

ウムラーン・ズウビー情報大臣はダマスカスで開かれた「愛国的メディアと現下の挑戦」と題されたワークショップで、アサド政権が次期大統領選挙に出馬し、大統領に再選されるべきだと述べた。

ズウビー情報大臣は「シリアは存続する。国家、祖国、人民、そして大統領もだ。これはシリア人による選択だ…。強力で愛国的で、闘争を続ける名誉あるすべてのシリア国民…は、反体制勢力、米国、裏切り者、外国の手先が何を望もうと、そして何を拒もうと、バッシャール・アサド大統領がこの国の大統領であることを求めている」と述べた。

またアサド大統領の選挙への立候補については「大統領が望む決定を下す権利がある」と述べた。

国内の暴力

ダマスカス県では、シリア人権監視団によると、軍の戦車・装甲車がバルザ区への突入を試みたが、「自由シリア軍が…撃退し、装甲車2輌を破壊、兵士40人を殺害、軍に制圧されていた建物を解放した」。

軍はまた、カーブーン区、ジャウバル区にも突入を試み、双方に人的被害が出た。

さらにヤルムーク区、カダム区でも軍と反体制武装集団が交戦、軍が砲撃を加えた。

一方、SANA(10月1日付)によると、ジャウバル区で、軍が反体制武装集団の追撃を続け、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

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ダマスカス郊外県では、シリア人権監視団によると、ムウダミーヤト・シャーム市、ダーライヤー市で、軍と反体制武装集団が交戦、軍が砲撃を加えた。

一方、SANA(10月1日付)によると、アーリヤ農場、ミスラーバー市、ナシャービーヤ町、バハーリーヤ市郊外、カースィミーヤ市郊外、ナースィリーヤ村、ルハイバ市郊外、ジャイルード市郊外、ザバダーニー市郊外の山間部、サアサア町で、軍が反体制武装集団の追撃を続け、イスラーム旅団、使徒末裔旅団の戦闘員らを殺傷、拠点・装備を破壊した。

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イドリブ県では、シリア人権監視団によると、イドリブ市北部に反体制武装集団が侵入し、軍と交戦した。

またマアッラト・ヌウマーン市、アルバイーン山周辺で、軍と反体制武装集団が交戦、軍が砲撃を加えた。

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アレッポ県では、シリア人権監視団によると、ハナースィル市周辺、カルバーティーヤ市、ヌッブル市、ザフラー町で、軍、国防隊が反体制武装集団と交戦、軍が砲撃を加えた。

一方、SANA(10月1日付)によると、アウラム・クブラー町、マンスーラ村、アナダーン市、カフルダーイル村、ダーラト・イッザ市、ICARDA東部、ズィルバ村、アレッポ中央刑務所周辺、キンディー大学病院周辺、シャイフ・サイード市、クワイリス村、アルバイド村、カスキース村、ラスム・アッブード村、アレッポ旧市街、ジュダイダ地区、カースティールー地区で、軍が反体制武装集団の追撃を続け、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

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ダルアー県では、SANA(10月1日付)によると、ダルアー市、タファス市、ナワー市、ジッリーン村、ラジャート市、フラーク市、インヒル市、タイバ町、タッル・サマン市で、軍が反体制武装集団の追撃を続け、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

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ラタキア県では、SANA(10月1日付)によると、ラウダ村、ラビーア町、ドゥーリーン村で、軍が反体制武装集団の追撃を続け、外国人戦闘員らを殺傷、拠点・装備を破壊した。

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ヒムス県では、SANA(10月1日付)によると、カルアト・ヒスン市、ワーディー・ナダーラ村、ダール・カビーラ村、タルビーサ市、ラスタン市、ガースィビーヤ村、ヒルブナフサ村、ナースィリーヤ村郊外、ヒムス市カラービース地区、バーブ・フード地区、ワルシャ地区、クスール地区で、軍が反体制武装集団の追撃を続け、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

諸外国の動き

ロシアのセルゲイ・ラブロフ外務大臣は、イスラーム諸国会議機構(OIC)のエクメレッディン・イフサン・オグル事務局長と会談後の記者会見で、「反体制勢力は…過激派を支持する姿勢を表明せず、テロ的なビジョンを持つことがなければ、ジュネーブ2会議での代表(の派遣)を否定しない…。このことはアサド大統領も述べていたことだ」と述べた。

また「最近まで、我々は西側諸国が(ジュネーブ2)大会への反体制勢力の参加を保障し、早急にそれを実現し得ることを期待していた。しかし、彼らはそうすることができていない。11月半ばまでにそうすることができるかは分からない」と西側諸国を批判した。

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化学兵器禁止機関の調査先遣隊(20人)がレバノンから陸路でシリアのダマスカスに入った。

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アントニオ・グテーレス国連難民高等弁務官はジュネーブで記者会見を開き、移住を希望するシリア人に対して17カ国が門戸を開くことに同意したと述べた。

シリア人の受け入れに同意した国は、オーストラリア、オーストリア、カナダ、フィンランド、ドイツ、ハンガリー、ルクセンブルグ、オランダ、ニュージーランド、ノルウェー、スペイン、スウェーデン、スイス、デンマーク、フランス、米国、メキシコ。

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ヒューマン・ライツ・ウォッチは、衛星写真や活動家らの証言をもとに、9月29日に10人以上の犠牲者が出たラッカ市の中学校に対する攻撃で、シリア軍が燃料気化爆弾を使用したと指摘、非難した。

AFP, October 1, 2013、al-Hayat, October 2, 2013、Kull-na Shuraka’, October 1, 2013、Naharnet, October 1,
2013、Reuters, October 1, 2013、Rihab News, October 1, 2013、SANA, October
1, 2013、UPI, October 1, 2013などをもとに作成。

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