アフマド・シャルア暫定大統領は、スワイダー県でのドゥルーズ派と遊牧民武装グループの衝突、国防省と内務省の合同部隊の介入、そしてイスラエルの首都ダマスカスなどへの爆撃を受けて、国民に向けたテレビ演説を行った。
SANAによると、演説の内容は以下の通り。
愛する祖国が混乱に見舞われる中、困難を乗り越え、一日たりとも自らの確固たる原則から後退しなかった国民に対して、心からのメッセージを届けるのが愛国的義務だと考えている。シリアが自由で誇り高き国であり続けるために、最愛のもの、そして貴重なものも犠牲にし、尊厳と誇りを希求する諸国民の先頭に立つ国民に対してだ。我々国民は、自由を求める革命に立ち上がり、勝利を収め、多大な犠牲を払った。そしてこの国民は今なお、自らの尊厳が脅かされるいかなる脅威に対しても、戦う準備ができている。
誇り高きシリア国民よ、我々は今日、この新たな挑戦に直面する中で、自らの国の統一、国民の尊厳、民族の不屈の精神を守るための闘いのただ中にいる。
旧体制崩壊以来、我々の安定を脅かし、内乱を創り出すことを常套としてきたイスラエル政体は、いま再び、我々の清らかな大地を終わりなき混乱の場へと変えようとしている。我々国民の統合を引き裂き、再建と復興への歩みを妨げ、我々の力を削ごうとしている。
この政体は、係争や紛争の種を撒くためにあらゆる手段を利用し続けている。しかし、それは、シリア人が長い歴史の中で、いかなる分離や分裂も拒んできたという事実を見落としている。巨大な力を持つことが、必ずしも勝利を意味するわけではない。ある戦場で勝利しても、他の場面で成功が約束されるとは限らない。戦争を始めることはできても、その結果を思い通りに操るのは容易ではないのだ。我々こそがこの土地の民であり、イスラエル政体が仕掛ける分断の企てを乗り越える力を備えている。我々の意志は揺るがず、捏造された内乱でくじけることはない。
我々シリアの民は、誰が我々を戦争へと引きずり込もうとしているのか、誰が我々を分断しようとしているのかをよく知っている。だが、彼らに、我々国民を彼らの望む戦争に巻き込む機会など決して与えはしない。その戦争は、我々の祖国を分裂させ、我々の努力を混乱と破壊へと導こうとする以外に目的などない。シリアは、外国の陰謀の実験場ではなく、我々の子どもたちや女性たちの血の犠牲にして他人の野望を実現する場でもない。
シリア国家はすべての人々の国家であり、祖国の尊厳と誇りである。それはまた、祖国が自らを再建する姿を目にしたいと願うすべてのシリア国民の夢でもある。我々は、差別なく団結し、シリアに威厳を取り戻させ、平和と安定の中に生きる国々の先頭に立たせるために力を尽くしている。
新たなシリアの建設には、我々すべてが国家のまわりに集い、その原則を順守することが求められる。あらゆる個人の利益や狭量な利害を超えて、祖国の利益を最優先に据える必要がある。今日、我々が必要としているのは、国家建設のすべての段階において互いに協力し合い、直面するあらゆる困難を共に乗り越えることである。統合こそが我々の武器であり、真摯な行動こそが我々の道であり、確固たる意志こそがこの輝かしい未来を築くための土台となる。
また私は、この演説において、この祖国という織物(ナスィージュ)の不可分の一部をなすドゥルーズ派の住民に特に呼びかけたい。シリアは決して、分断や分裂、民の間に内乱の種を蒔くような場所にはならない。諸君らの権利と自由を守ることは、我々の最優先事項であると明言したい。我々は、諸君らを外国の当事者のもとに引き込もうとするいかなる試みにも、また我々の隊列の中に分裂をもたらそうとする動きにも、断固として反対する。我々はすべてがこの土地におけるパートナーであり、シリアとその多様性を表す美しいイメージをいかなる勢力であれ汚すことを許しはしない。
シリア国家はそのすべての機関と指導部を挙げて、強い意志と決意をもって、スワイダー県および周辺地域の武装グループの間での古い対立に起因する内戦を止めるために介入した。しかし、事態を沈静化しようとする国家が支援を受けるのではなく、混乱と無秩序、そして内乱を煽ることに慣れた違法なグループが跋扈した。これらのグループの指導者たちは、数ヵ月にわたって対話を拒否し続け、祖国の利益よりも自らの狭い私利私欲を優先し、この数日間で、民間人に対して数々の犯罪を行った。
にもかかわらず、国防省と内務省は、スワイダー県に広く展開し、同地の治安を回復し、緊張状態を沈静化するための取り組みを進めた。そして、イスラエルの介入がありながらも、安定を回復し、違法なグループを排除することに成功した。ここにおいて、イスラエル政体はこうした努力を挫くために、民間および政府施設への広範な攻撃に踏み切り、事態を大いに複雑化させ、広範に緊張状態を高めていった。
米国、アラブ諸国、トルコの実効的な仲介のための介入がなければ、この地域は行き場のない運命に直面し、我々は二つの選択肢の間に立たされていただろう。すなわち、ドゥルーズ派の住民とその安全を犠牲にしてイスラエル政体と全面戦争に突入し、シリアと地域全体の安定を揺るがすこと、あるいはドゥルーズ派の有力者および宗教指導者に理性を取り戻させ、寛大なるドゥルーズ山の人々の名誉を貶めようとする者に対抗し、国益を優先させる機会を与えるか、である。
我々は、戦争を恐れる者ではない。我々は生涯をかけて、数々の課題に立ち向かい、国民を守ってきた。だが、我々は、混乱と破壊よりもシリア人の利益を優先した。なぜなら、現段階において最も理想的な選択肢は、祖国の統一と民の安全を守るために、至上の国益に基づく適格な決定を下すことだからだ。それゆえに、我々は、スワイダー県における治安維持の責任を、一部の地元武装勢力と宗教指導者に委ねる決定を下した。この決定は、我々が国民統合への危機的状況を深く認識しており、壊滅的な戦争からの回復という大いなる目標からかけ離れた新たな全面戦争に国を陥らせることを避け、旧体制がもたらした政治的・経済的困難を脱却するためのものだ。
我々は、ドゥルーズ派の住民に対して不当な行為を行った者を厳正に処罰することに万全を期している。ドゥルーズ派は国家の保護と責任の下にあり、法と正義はすべての人々の権利を、いかなる例外もなく保障する。我々は、国の統一と安定、住民の安全を守ること、そして自らの子どもたちの未来をいかなる脅威からも遠ざけて保障するための取り組みが、国の解放後に取り組んでいる復興と再生の道を損なわせないためにも重要であると確信する。
**
SANAによると、シャルア暫定大統領は、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマーン皇太子、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領、カタールのタミーム・ビン・ハマド・アール・サーニー首長とそれぞれ電話会談を行った。
会談のなかで三ヵ国の首脳は、スワイダー県での衝突に関連して、シャルア移行期政権への全面的な連帯と支持を表明し、とりわけイスラエルの度重なる攻撃に強く反対する姿勢を明確にした。
これに対し、シャルア暫定大統領は、三ヵ国の兄弟的支援と連帯に対して深い謝意を示すとともに、宗教・宗派の違いを問わず、すべての国民の保護に尽力していると強調した。
そのうえで、現在の事態は、国内での武装の拡散と外国勢力の干渉の結果であると指摘し、法を逸脱し、国家権限を認めようとしないすべての者に対し、シリア国家は断固たる姿勢で臨むと表明した。
(C)青山弘之 All rights reserved.
