国連安保理で、シリア情勢への対応を協議するための会合が開かれた。
会合では、国連人道問題調整事務所(OCHA)の代表を務めるマーティン・グイフィス人道問題担当国連事務次長が、5月上旬に開催された「シリア及び地域の将来の支援に関する第6回ブリュッセル会合」で67億米ドルの支援が約束されたことに関して、2022年にシリアへの人道支援において必要とされる資金の半分にも満たないことを報告し、世界食糧計画(WFP)が支援の削減を強いられかねないと警鐘を鳴らした。
続いて、シャーム解放機構が軍事・治安権限を握るイドリブ県中部一帯で活動を続ける米国のNGOシリア米医療協会(SAMS)のファリーダ・ムスリム氏が報告を行い、越境(クロス・ボーダー)での人道支援の継続の必要を訴えた。
これに対して、ロシアのドミトリー・ポリャンスキー国連第1常駐副代表は、昨年半ば以降4度にわたって行われた政府支配地から反体制派支配地への境界経由(クロス・ライン)が「成功などとはほとんど言えない」と指摘、早期復旧や復興にかかるプロジェクトが支援国の政治的思惑によって左右されていると問題点を指摘した。
また、あらゆる代償も顧みずに越境人道支援を維持しようとする試みについて、「停学処分を受けている怠惰な生徒の親に似ている…。こうした甘やかされた子供に何も良いことはない」と欧米諸国を批判した。
そのうえで、国連がシリアに対する欧米諸国の一方的な制裁を無視し続けていると指摘した。
シリアのバースィム・サッバーグ国連代表は、越境人道支援がシリアの主権を侵害しているとしたうえで、境界経由での人道支援を強化したいと表明するとともに、4月30日の恩赦などを通じて人権状況の改善、難民・国内避難民(IDPs)の帰還、国民和解を推し進めていると強調した。
その一方で、「一部の国」がこうした取り組みを反故にしようとしていると批判した。
米国のリンダ・トマス=グリーンフィールド国連代表大使は、越境人道支援の成果を強調、安保理がその仕組みを継続するだけでなく、反体制派支配地における人道上のニーズを踏まえて、越境人道支援を行うことができる通行所を増やすべきだと主張した。
このほか、ブラジルの代表は、越境人道支援と境界経由での人道支援の双方を継続する必要があると述べた。
また、中国の代表は、シリアの主権と領土保全を尊重し、人道支援を政治利用すべきでないと発言した。
イランの代表は、越境人道支援に代えて境界経由での人道支援を行うことを支持し、そのためにシリア政府や国連に全面協力すると表明した。
一方、トルコは、越境人道支援の維持を訴えた。
AFP, May 20, 2022、ANHA, May 20, 2022、al-Durar al-Shamiya, May 20, 2022、Reuters, May 20, 2022、SANA, May 20, 2022、SOHR, May 20, 2022などをもとに作成。
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