国連のグテーレス事務総長は越境(クロスライン)人道支援の延長を呼び掛ける(2022年6月20日)

国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、シリアの人道状況への対応を協議するための安保理会合で、6月16日付で発表した国連安保理決議第2139号(2014年)などシリアへの越境(クロスライン)人道支援に基づく報告書(S/2022/492)のなかで、7月10日が有効期限となる越境人道支援の継続を提言したことを改めて明らかにした。

グテーレス事務総長は報告書のなかで、「人々は危機に瀕しており、対処することができない」シリアへの人道支援の必要は過去11年間でもっとも高まっていると強調、支援を訴えた。

また、反体制派の支配下にあるシリア北西部に関しては、「シリアでの国連の越境活動は世界においてもっとも精査され、監視された支援活動の一つだ…。我々の支援が困っている人々に届いていることは疑う余地がない」と主張、越境人道支援の維持を求めた。

一方、米国のリンダ・トマス=グリーンフィールド国連大使は、越境人道支援のこれまでの成果を強調するとともに、境界経由(クロスライン)の人道支援が限定的で、シリア国内での食料価格の高等などでより困難になっていると指摘、越境人道支援の維持を訴えた。

対するロシアのドミトリー・ポリャンスキー国連第1常駐副代表は事務総長が米国などによるシリアへの一方的制裁に言及しなかったことに遺憾の意を示す一方、イスラエルによるシリアへの相次ぐ爆撃などで治安状況が悪化していることが、人道危機を深刻化させていると非難し、シリア政府との連携のもとに境界経由での人道支援を拡充すべきだと主張した。

中国の張軍国連大使は、シリアの主権と境界人道支援を行うシリア政府を尊重したうえで、人道支援にかかる渉外を分析すべきだとしたうえで、人道支援を政治利用すべきでないと主張した。

シリアのバッサーム・サッバーグ国連代表は、6月10日のイスラエル軍によるダマスカス国際空港への爆撃により、国連の人道支援関係者の入国や救命用品の搬入が不可能になったにもかかわらず、欧米諸国はイスラエルによる国際法違反を非難することを妨害していると非難した。

また、トルコがシリア北部に「安全地帯」を設置するとして、シリア国内のテロを支援し、人口動態を改悪しようとしていると指弾、西側諸国についても境界経由での人道支援の奨励を定めた国連安保理決議を直接間接に拒否していると非難した。

AFP, June 21, 2022、ANHA, June 21, 2022、al-Durar al-Shamiya, June 21, 2022、Reuters, June 21, 2022、SANA, June 21, 2022、SOHR, June 21, 2022などをもとに作成。

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