アサド大統領は、アブハジア共和国のアルドズィンバ外務大臣と会談し、「世界の多数派」と題した政治・思想対話を行い(2024年4月21日)

アサド大統領は、大統領府でアブハジア共和国のイナル・アルドズィンバ外務大臣と会談し、「世界の多数派」と題した政治・思想対話を行い、ロシアのチャンネル1(カナール1、第1チャンネル)がこれを放映した。

対話のなかで、アサド大統領は、諸国民のアイデンティティと西側諸国が世界各地で仕掛けている戦争との関係、これによって諸外国、諸国民が尊厳と引き換えに強いられている代償、西側諸国が持つ大国意識のコンプレックス、西側諸国に真の指導者がいるかといった点についてのビジョンを示した。

対話は、自決と主権を目指す諸外国の役割を中心に行われ、こうした国々が米国をはじめとする西側諸国に対峙する「世界の多数派」をなしていることが確認された。

対話におけるアサド大統領の主な発言は以下の通り。

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「世界の多数派」の解釈

過去10年に発生したすべての紛争が国民アイデンティティに関係している。我々は外的影響からこれをどう守るかを学ばねばならない。我々に勝利する唯一の方法とは、我々の国民アイデンティティを破壊することだ。国民的アイデンティティとは概括的な概念であり、多くの意味がある。そのなかには文化、価値のシステム、伝統が含まれる。

これ(国民的伝統の破壊)が彼らの支配のやり方だ。だが、自分たちが国民アイデンティティを守ろうとする時、彼らにこう言ってやることができる。「あなた方は現状を適切に分析し、操作することはできない」と。だが、自分たちが国民アイデンティティを喪失すれば、自分たちにとっての唯一の関心事は、個人的な利益だけになってしまう。つまり、カネだ。カネは国境を越えたグローバルなもので、それを通じて支配することができる。だから、米国は東西のすべてのパートナーを支配している。どんな国、どんな政治家でも支配できる。

米国の影響力の低下について

それ(米国の影響力の低下)はまったくその通りだ。人々は過去の過ちから学んでいる。我々は、西側と友好的であろうとした。だが、西側は友人も、パートナーも受け入れない。従属する者しか受け入れない。

彼ら(ボロディミル・ゼレンスキー大統領ら西側の追随者)は、いつも「承知しました」としか言わず、どんな命令にも従う者たちだ。「右へ、左へ、上へ、下へ」と命じれば、いつも「分かりました、ボス」と答える連中だ。

彼ら(西側)は民主主義について語るのが大好きなくせに、「嫌です」と言われるのに耐えられない。彼らの民主主義とは、とにかく彼らに「はい」と言ってくれることなのだ。それが彼らの民主主義だ。

多極主義について

多極主義は人類の文明が始まって以来存在している。さまざまな段階において、さまざまな種類の社会制度があった。そのことは、時には戦争し合い、時には協力し合うまったく異なった複数の帝国が存在していたことによって裏付けられている。だが、多極主義とは、経済、あるいは文化であることもあるが、それより重要なのは、世界が多様に創造されたということだ。

一極主義は、その構造において矛盾している。それは、ソ連崩壊時に現れ、世界を混乱に陥れ、私の国、そして世界の多くの国などがその代償を支払っている。

今日の我々の問題は、国家間の協力がよりどころとする明白な基盤がないことにある。このことが常に紛争をもたらしている。だが、複数の言語や文化があり、世界は多様性で多元的だった。重要なのは、このことが法のもとにあることで、シリアとロシアはこうした状況が認められるメカニズムを全力で支援している。

ロシアへの評価

我々は次のような物言いを多く耳にしてきた。「ロシアはシリア大統領、シリア政府を支えた」。だが、これは正しい解釈ではない。ロシアはシリア国民を支え、シリアの独立を守り、それによって、紙面において今も存在している国際法を擁護したのだ。ロシアは国際テロに対峙したのだ。テロリストが法を逸脱した地元の悪党だとの説明は単純過ぎる。そうではなく、彼らは世界的なネットワークだ。ヨーロッパ、ロシア、インドネシア、そして世界のそれ以外の地域に存在している。今日のテロは、イデオロギー的に均質なのだ。ロシアはシリア領内でテロとの戦いに突入した。シリア国民を守ることで、自分たちの国を守っているのだ。ロシアがテロとの戦いについて発言する時、それは国際社会のレベルで、とりわけ、地中海沿岸地域、そして我々の地域において重要なのだ。なぜなら、シリアは地政学的に極めて重要な地位にあるからだ。

ロシアのウクライナ侵攻(特別軍事作戦)について

私はこう言った。「ウクライナに対するロシアの特別軍事作戦は歴史の流れを矯正するだろう。それによって歴史が書き換えられる、あるいは置き換えられるのではなく、矯正されるだろう」。なぜなら、大国としてのロシアは、西側諸国の他国への内政干渉に抵抗しているからだ。シリアであろうとウクライナであろうと、ロシアがどこでテロと戦っているかは問題ではない。敵は一つだからだ。ロシアは今日、政治、軍事における世界の均衡を支えている。なぜなら、均衡喪失に苦しんできたからだ。ソ連の崩壊は驚くべきことではなかった。むしろ、それは、歴史的に共存し合ってきたソ連内部の少数派を覚醒させるために講じられた措置の結果だった。

例えばクリミアを例にとってみよう。フルシチョフはクリミアをウクライナの支配下に移した。この地域で暮らすロシア市民はロシアから独立しようなどと一度も試みたことはなかった。だが、同地のナチが、あらゆるロシア的なものに対して宣戦を布告した。ベラルーシのロシア人、「小ロシア」(ウクライナ)のロシア系諸住民はロシア語やロシア文化を非常に近しく感じていることは周知の通りであり、ウクライナ東部にはロシア人が暮らしている。だが、ウクライナのナチには明確な目的があった。米国は第二次世界大戦以前からウクライナの民族主義者の敵たちを支援してきた。米国は第二次世界大戦以前からウクライナの民族主義者の敵たちを支援し、戦争中に憎しみを募らせた。米国は2004年以前はロシアとの闘争において諜報機関を通じて彼らを利用してきた。これは異常なことだ。私はこの紛争がロシアの勝利で終わると確信している。このことで同胞である諸国民は一つになっている。だから、こう言いたい。「ロシアは他国が台無しにしたものを矯正している」。

中国への評価

ソ連崩壊後、リベラリズムが最終勝利を収めたという幻想が生じた。この世の楽園は、政治においても、経済においても米国に似たものになり、資本が生活における主要な目標となり、我々はそのために人道的な道徳を犠牲にしても良いという幻想だ。しかし、中国はまったく別のモデルを示した。共産主義の原理と資本主義経済の融合だ。この融合によって、企業が経済的な自由を享受する中央集権的で社会的な国家が作り出された。我々は2008年以降、西側経済が衰退するなかで、中国がどのように興隆したのかを見てきた。その結果、中国は、資本主義の原理が経済にとってきわめて重要であることを立証した。しかし、資本主義は国家を運営するモデルとしては失敗しているとみなされている。我々は中国の戦略的役割をこのように見ている。

西側との対話の可能性について

希望(西側との対話再開の希望)は常に存在する。結果を得られないと分かっていても、試みなければならない。なぜなら、政治とは可能性の芸術だからだ。我々が彼らをよく見ていないとしても彼らとともに行動し、我々は自らの権利を譲歩しないと彼らに説明しなければならない。彼らとは平等の原則のもとでのみ協力する。米国は現在、我々の領土の一部を違法に占領し、テロリストに資金を供与し、同じく我々の領土を占領しているイスラエルを支援している。だが、我々との会談が何ももたらさないとしても、彼らと時に会うこともある。いかなるものでも変わることがあるからだ。

私は長らく西側で暮らしていた。科学や文化における彼らの偉業を尊敬している。これらの偉業のおかげで彼らは強国になったからだ。だが、力が彼らを退廃させ、政治階級は衰退した。彼らは自分たちのことにより多くの関心を持つようになり、国民に関心を示さなくなった。彼らのメディアは家族を破壊し、人間を孤立させる仮想空間を作り出した。これらすべてが将来、彼らの偉業を無に帰すことになろう。

NGOの影響力について

我々と西側は5世紀にわたって対立状態にある。だが、現下の包囲は1979年に始まった。西側は1970年代半ばに我々と対立するテロへの資金供与を始めた。だが、それによって彼らが望んでいた成果は生じなかった。1990年代に手段と手法は変わり、メディア、衛星チャンネル、インターネットを通じた圧力が始まった。もちろん、NGOを通じた圧力もだ。NGOはもっとも危険な組織だと考えている。なぜなら、それは慈善活動という仮面をつけているからだ。だが、実際のところ、NGOは情報を集め、国益に反するかたちでこれらの情報を利用し始めている。我々は戦争前から彼らを注意深く監視してきた。我々は、こうした組織を通じて、米国、そしてその諜報機関であるCIAが、敵だけでなく、同盟国さえも支配していることを知っていた。

戦争が始まると、これらNGOは、外交代表部と同じように活動を自ら停止した。それは論理的なことだった。なぜなら、我々はいずれにしても彼らを追放したからだ。そうすることで、彼らは影響力を及ぼす手段を失った。彼らには直接対決、テロ悪党への資金供与以外の手段はなくなった。こうした組織の目的は、我々の国であれ、あなたの国であれ、ウクライナであれ、一つしかない。それは、心を支配し、政府の中枢に達し、隠れた占領者の利益に奉仕するような政権交代を行うことだ。こうした組織が本当に人道的であったのなら、国連関連機関を支援していただろう。だが、そうしたことは決して行わなかった。

パレスチナ・イスラエル情勢について

西側、とりわけ米国の政策は、「分割して統治せよ」の原則に基づいている。これが彼らの支配の仕方、ある種の脅迫だ。それは非道徳的な状態だが、現実なのだ。

米国はどんな紛争でも、糖尿病やガンのような深刻な慢性疾患へと変えてしまう。紛争の代償を支払うのは、戦っている当事者だ。我々が米国と言う時、それは西側全体を意味している。なぜなら、西側は米国に完全に支配されているからだ。米国はどんな紛争であっても利益を得る。そしてそのあとで、一歩引いて、混乱が生じるのを傍観し始め、決定的打撃を与えるのにふさわしい瞬間を待つ。米国にとって、あらゆる紛争が利益の源なのだ。

中東諸国と西側諸国の関係の希薄化について

多くの国が、米国には友好国などいないことに気づいている。米国のパートナーを自認していたすべての国が、米国にはパートナーなどいないことを完全に理解するようになった。西側さえもだ。なぜなら、友人、パートナーとは、共通の利益を持っているものと理解されるからだ。だが、米国には米国だけの利益しかない。だから、米国との関係は、正常で安全なかたちではありえない。世界の多くの国が、中国との関係を拡大させるようになっている。そのなかには、西欧やラテンアメリカの国々もある。これは正しいことだ。なぜなら、米国はパートナーとされる国の利益さえも無視し、ドルを武器として利用し、政治的圧力をかけるからだ。彼らの賭けでパートナーがインフレや失業に見舞われても問題ではない。こうしたことは世界のなかで誰も議論しないが、際限なく続くものでもないだろう。

幼少期について

若い頃は、多くのプランがあって、それをすべて実現したいと考えていた。歳を重ねるごとに、何事にも代償があることに気づくようになり、優先順位を決めるようになった。これができなければ、これもできない、といったようにだ。あの頃を懐かしんでいるわけではない。時間とともに経験を積み、より効率的になっていっただけのことだ。

SNSについて

大統領になる前、若い頃は、テクノロジーに関心があった。デジタル・テクノロジーの未来を信じていた。だが、同時に、インターネットを通じて、どの国の生活にも外部から簡単に干渉できるようになると確信していた。SNSに時間を割くときは、人々と直接的な関係を築くことにも時間を割くことを忘れてはいない。SNSは人を欺く可能性があり、コメントや評価が本物かどうかは分からない。フォローしたものすべてを現実と比較する必要がある。仮想空間の世論は多数意見を反映したものではなく、その一部に過ぎない。フェイクかもしれない。だから、決定を下す時に、SNSに依存してはならない。私がシリアでインターネット技術の開発を推進し始めたとき、それが両刃の剣だということは分かっていた。先端技術には危険が伴うことを常に忘れてはならない。

趣味や家族について

若い頃は、映画やテレビが好きではなく、読書とスポーツが好きだった。だが、大人になるにつれて、時間があれば、インターネットでドキュメンタリーを見たり、聞いたりするようになった。音楽は大好きで、気分に合わせて音楽を聴きます。

父の生前、私がシリアでインターネットの開発に取り組んでいた時、政府首脳としてのキャリアが待っているとは予想していなかった。政府内の役職に就くことも予想していなかった。自分の将来について父と話すことはなかった。こうした問題は、個々人が、自分の立ち位置を理解して、自分で決めなければならないものだと考えている。自分の子どもがどんな未来を選ぶかは分からない。我々はみな、自分たちの国の市民であるから、何らかのかたちで国に奉仕するだろう。それぞれが自分の役割を決めると考えている。政府の首脳になるかもしれないし、経営者になるかもしれない。あなたの国の利益にならないかもしれない。こうしたことは、1人の人間から、その人の本質から生じるものだ。子供がどうなるかを父が決めるのは良いことだとは思っていない。子供は親から祖国愛、国の歴史への経緯、そして国のために努力する準備をすることを学ぶことはできる。科学分野の資格を取得することは重要なことだ。だが、そのあとに、どの分野で国に奉仕できるかを決めなければならない。私の子供たちは、戦争のなかで育った。そのためによくこう質問してくる。「なぜ、この戦争は始まったのですか?」 彼らの世代がリベラリズムの攻撃に立ち向かう時、彼らはなぜこの戦争が必然だったのかを理解するだろう。そして、その時、この世代はおおいに成功することになろう。

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SANA(4月21日付)が伝えた。


AFP, April 21, 2024、ANHA, April 21, 2024、‘Inab Baladi, April 21, 2024、Reuters, April 21, 2024、SANA, April 21, 2024、SOHR, April 21, 2024などをもとに作成。

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