ダイル・ザウル県でサラフィー主義者らによる住民の虐殺事件が発生するなか、アレッポ県で活動する自由シリア軍が共同声明を出しクルディスタン労働者党を「反革命」組織と認定、民主統一党との対決姿勢を鮮明に(2013年6月12日)

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国内の暴力

ダイル・ザウル県では、シリア人権監視団によると、ダイル・ザウル市近郊のハトラ村でサラフィー主義武装集団がシーア派住民60人を殺害した。

同監視団が公開したビデオ映像の映像・音声によると、ハトラ村襲撃を行ったのは、サーディク・アミーン旅団を名のる武装集団で、「シーア派の遺体だ…これがお前らの最期だ、犬ども」と歓喜している。

http://www.youtube.com/watch?v=SI6pyhNZ0T0

これに関して、SANA(6月12日付)も、ハトラ村で、シャームの民のヌスラ戦線が住民を襲撃し、女性、子供を含む30人を「虐殺」したと報じた。

またシリア人権監視団によると、マヤーディーン市に近いハワーイジュ村、ダイル・ザウル市東方のマフカーン町が軍の空爆を受け、複数人が負傷した。

このほか、ダイル・ザウル市のフワイジャ地区などが軍の砲撃を受けた。

一方、SANA(6月12日付)によると、ダイル・ザウル市工業地区、旧空港地区、シャイフ・ヤースィーン地区、ハミーディーヤ地区、ラサーファ地区、カマーマート地区、アラディー地区で、軍が反体制武装集団と交戦し、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

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アレッポ県では、『ハヤート』(6月13日付)によると、マンナグ航空基地を包囲する反体制武装集団(ファトフ旅団)が、飛行場内の軍兵士に対して、降伏の最後通告を発した。

複数の戦闘員によると、反体制武装集団はマンナグ航空基地の指揮基地内の複数カ所を制圧、司令部棟に接近しているという。

しかし、シリア人権監視団によると、ムハージルーン・ワ・アンサール大隊が、マンナグ航空基地の大部分を制圧した後に撤退、またシリア軍の戦車による砲撃で戦闘員6人が死亡したという。

軍はマンナグ航空基地への反体制武装集団の進軍を阻止するため地対地ミサイルでの攻撃を続けている。

このほか、マアーッラト・アルティーク村、ヌッブル市、ザフラー町、ザアラーナ村などで、軍と反体制武装集団が交戦、迫撃砲を撃ち合った。

一方、SANA(6月12日付)によると、マンナグ航空基地周辺、アルカミーヤ村、アイン・ダクナ村、アレッポ中央刑務所周辺、アナダーン市近郊、ナッカーリーン村などで、軍がシャームの民のヌスラ戦線からなる反体制武装集団と交戦し、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

またアレッポ市では、ブスターン・カスル地区、シャイフ・マクスード地区、バニー・ザイド地区、アシュラフィーヤ地区、アーミリーヤ地区などで、軍が反体制武装集団と交戦し、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

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ラッカ県では、シリア人権監視団によると、第17師団基地周辺の反体制武装集団の拠点を軍が空爆し、複数の戦闘員が負傷した。

またタブカ航空基地で、軍と反体制武装集団が交戦し、双方に死傷者が出た。

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ハサカ県では、シリア人権監視団によると、シャッダーディー市、マフルーム村などが軍の空爆を受けた。

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イドリブ県では、シリア人権監視団によると、ビンニシュ市・イドリブ市間の軍の検問所複数カ所を反体制武装集団が襲撃する一方、軍がダイル・ガルビー村・マアラーター村間、ラーミー村、カフルラーター市などを砲撃した。

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ヒムス県では、シリア人権監視団によると、ヒムス市ワーディー・サーイフ地区、ハーリディーヤ地区、ハウラ地方、タドムル市郊外、タルビーサ市などで、軍と反体制武装集団が交戦し、軍が砲撃を加えた。

一方、SANA(6月12日付)によると、タルビーサ市、ドゥワイル市、カフルラーハー市、タドムル市郊外、ヒムス市バーブ・フード地区、ワルシャ地区で、軍が反体制武装集団の追撃を続け、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

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ハマー県では、シリア人権監視団によると、スーハー村に軍が突入した。

また、クッルナー・シュラカー(6月12日付)によると、カフルヌブーダ町でウサーマ・ブン・ザイド旅団(自由シリア軍)が若者1人を拷問、殺害した、とハマー市および同郊外地元調整諸委員会のマスアブ・ハマーディー代表が発表した。

ウサーマ・ブン・ザイド旅団はハーリド・ムーサーなる人物が指導する武装集団で、地元情勢諸委員会代表は、ハマー郊外軍事評議会のアブドゥッラッザーク・フライジャ大佐に、同集団の犯罪を阻止するよう誓願した。

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ダマスカス県では、シリア人権監視団によると、カーブーン区、バルザ区、ヤルムーク区に対して軍が空爆を行った。

一方、SANA(6月12日付)によると、オートストラード・アダウィー地区のダール・シファー病院近くで爆弾が仕掛けられた車が爆発し、市民1人が負傷した。

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ダマスカス郊外県では、シリア人権監視団によると、ズィヤービーヤ町、ナブク市、ハラスター市、ムウダミーヤト・シャーム市、ダーライヤー市、ハジャル・アスワド市などに軍が爆撃・砲撃を加え、反体制武装集団と交戦した。

一方、SANA(6月12日付)によると、ドゥーマー市、ハラスター市、フジャイラ村、シャイフーニーヤ村で、軍が反体制武装集団の追撃を続け、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

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ダルアー県では、シリア人権監視団によると、インヒル市、ジャースィム市で軍と反体制武装集団が交戦し、軍が空爆を行った。

反体制勢力の動き

シリア国家建設潮流(ルワイユ・フサイン代表)がダマスカスで記者会見を開き、ジュネーブ2会議を失敗させてはならないと主張、そのために参加(予定)者に対して、2012年6月のジュネーブ合意の遵守、戦闘停止と政治プロセスへの参加、諸外国による武力紛争助長の停止、アサド政権と反体制勢力による移行期政府樹立の合意などを呼びかけた。

記者会見において、シリア国家建設潮流は、アサド大統領の進退に関していかなる前提条件を設けるべきでないと主張しつつ、次期大統領選挙への出馬は認めないとの立場を示した。

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『ワタン』(6月12日付)によると、民主的変革諸勢力国民調整委員会のハサン・アブドゥルアズィーム代表は、シリア革命反体制勢力国民連立がジュネーブ2会議への参加を拒否することはできない、との見方を示した。

その根拠として、アブドゥルアズィーム代表は、連立がアラブ湾岸諸国、欧米諸国に依存しており、これらの国々がジュネーブ2会議開催に関して合意しているからだと述べた。

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クッルナー・シュラカー(6月12日付)は、アレッポ県の主要な反体制武装集団(自由シリア軍)が共同声明を出し、クルディスタン労働者党(PKK)を「反革命」組織と認定し、活動を禁じ、民主統一党との対決姿勢を鮮明にしたと報じた。

また同声明では、周辺の村々を「侵略するアサドのシャッビーハ」を封じ込めるため、ヌッブル市、ザフラー町への包囲を強化すると決定したことを明らかにした。

同声明によると、民主統一党は、アサド政権と連携し、アフリーン地方からヌッブル市、ザフラー町への兵站路を確保し、アフリーン地方にシリア軍を招き入れようとしていると断じている。

レバノンの動き

レバノン軍は声明を出し、シリア軍のヘリコプターがベカーア県バアルベック郡アルサール地方に対して越境攻撃を行ったとしたうえで、同様の侵犯にただちに対応するために必要な防衛措置を講じたと発表した。

これに関連して、ミシェル・スライマーン大統領は、「主権を守るための必要な措置を講じる権利がある」と述べ、シリア軍ヘリコプターの越境攻撃を非難した。

またシリア軍武装部隊総司令部は声明を出し、レバノンのベカーア県バアルベック郡アルサール地方に逃走中の「テロ集団」を軍がヘリコプターで攻撃した、と発表した。SANA(6月12日付)が報じた。

諸外国の動き

フランスのローラン・ファビウス外務大臣はフランス2(6月12日付)で、「シリア国内のパワー・バランスを再び均衡させねばならない。なぜなら過去数週間で、アサドの軍、そしてヒズブッラーとイラン人の部隊が、ロシアの兵器を用いて、国土の大部分を回復したからだ。我々は、アレッポの前でこの進軍を止めねばならない。ヒズブッラーとイラン人の次の目標はアレッポだからだ」と述べた。

また「軍事バランスを回復することに失敗すれば、平和的解決をめざすジュネーブ2会議はないだろう。なぜなら、シリアの反体制勢力が参加に同意しなくなるからだ。政治的解決に至ることが火急に必要だ。それゆえ、我々はバッシャールの軍がジュネーブ大会に来ることを阻止せねばならない」と強調した。

そのうえで「シリアの反体制勢力はバッシャールの軍の進軍を阻止するための兵器を持たねばならない…。我々はこれ(進軍)を止めねばならない」と付言した。

さらに「誰も直接軍事介入について考えていない。だが、信頼問題というのがある。もしイランがシリアから手を引くことを阻止できなければ、イランに核兵器保有放棄を要求する我々にいかなる信頼が残ろうか?すべての問題は結びついている」と述べた。

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米国のジョン・ケリー国務長官と英国のウィリアム・ヘイグ外務大臣が会談し、シリア情勢について協議した。

会談後の記者会見で、ヘイグ外務大臣は、シリアでの人命救出のため、「同盟国とともにさらなる措置をとる用意がある」と述べたが、「シリアの反体制活動家に武器を提供することに関する新たな要件はない」と武器供与に慎重な姿勢を示した。

一方、ケリー国務長官は「政府に対する戦争においてシリアの反体制勢力を支援するために何が可能かを話し合った…。反体制勢力支援のために可能なすべて」を行うだろうと述べたが、詳細については触れなかった。

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国連の潘基文事務総長は、ゴラン高原の現状に関する報告書を安保理に提出、そのなかで同地の暴力が激化していると指摘し、UNDOFの活動に関する修正を行う必要があると提言した。

提言のなかには、自衛能力の拡充、隊員数の1,250人への拡大などが含まれている。

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『ハヤート』(6月13日付)は、ヨルダンの複数の高官の話として、ヨルダン政府は非公式にシリア・ヨルダン国境に違法に開設されていた国境通行所数十カ所を閉鎖し、シリア人の出入国の流れを「合法化」(規制)していると報じた。

AFP, June 12, 2013、al-Hayat, June 13, 2013、Kull-na Shuraka’, June 12, 2013、Kurdonline, June 12, 2013、Naharnet,
June 12, 2013、Reuters, June 12, 2013、SANA, June 12, 2013、UPI, June 12,
2013、al-Watan, June 12, 2013などをもとに作成。

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