アクナーフ・バイト・マクディス大隊を除くパレスチナ諸派はシリア軍との合同作戦司令部設置に合意、ヤルムーク・パレスチナ難民キャンプでのダーイシュ(イスラーム国)掃討をめざす(2015年4月9日)

シリアを訪問中のPLO(パレスチナ解放機構)執行委員会のアフマド・マジュダラーニー氏はダマスカスで記者会見を開き、パレスチナ諸派14組織がシリア政府との協調のもと、ヤルムーク・パレスチナ難民キャンプからのダーイシュ(イスラーム国)掃討に向けた軍事作戦を実施することで合意に達したと発表した。

しかし、この合意には、ダーイシュとの戦闘を主導するハマース寄りのアクナーフ・バイト・マクディス大隊は参加しなかったという。

マジュダラーニー氏は「シリア指導部と持続的に調整を行うため、(パレスチナ諸派の会合を)開催したままとし、シリア軍、パレスチナ諸派の合同作戦司令室を設置することを合意した。合同作戦司令室するのは、参加を希望し、(ヤルムーク・パレスチナ難民)キャンプ内ないしその周辺で、軍事的な作戦を行うための具体的なプレゼンスを持つ組織である」と述べた。

また「いかなる(軍事)行動も、ヤルムーク区のシリア、パレスチナ両民間人の声明を保護するものであり、キャンプ全体の破壊をもたらすものであってはならない。また作戦は地区ごとに漸進的なかたちで行われねばならない」と付言した。

さらに、会合に参加しなかったアクナーフ・バイト・マクディス大隊に関しては「アクナーフ・バイト・マクディス大隊の戦闘員の一部が離反し、ダーイシュやヌスラ戦線の側で戦っている」と批判した。

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PLOのアンワル・アブドゥルハーディー在ダマスカス政治局長もAFP(4月9日付)に対して、「キャンプからのダーイシュ放逐のための軍事的解決を支持すること」が会合で合意されたことを明らかにした。

一方、会合に参加しなかったアクナーフ・バイト・マクディス大隊に関して、「アクナーフ・バイト・マクディス大隊の戦闘員90人が合同作戦司令部との調整下に入り、シリア政府の側で戦っている」ことを明らかにした。

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これに対して、ハマースの在レバノン代表のウサーマ・ハムダーン氏は、シリア政府とパレスチナ諸派によるヤルムーク・パレスチナ難民キャンプでのダーイシュ(イスラーム国)掃討に向けた軍事作戦実施合意に関して、AFP(4月9日付)に、合意内容の詳細をまだ目にしていないとしつつ、キャンプでのパレスチナ人の軍事的関与を拒否する姿勢を示した。

またアクナーフ・バイト・マクディス大隊に関して、ハマースとは一切関係ないと強調した。

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また、アクナーフ・バイト・マクディス大隊の司令官の一人アブー・ハマーム氏は、ダーイシュ(イスラーム国)とシャームの民のヌスラ戦線によるヤルムーク・パレスチナ難民キャンプ占拠に関して、「キャンプの民間人を守ることで合意したすべての勢力と協力してきた」と述べ、ダーイシュが侵入まで、ヌスラ戦線と協力関係にあったことを明らかにした。

アブー・ハマーム氏は「我々はキャンプを中立化するためにヌスラ戦線に対処してきた。我々とヌスラ戦線の間には、ダーイシュのキャンプへの侵入を認めないという憲章があった」としつつ、ヌスラ戦線がこの憲章に反して、ダーイシュに協力して、キャンプに侵攻・占拠したことを非難した。

クッルナー・シュラカー(4月9日付)が伝えた。

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なお、シリア人権監視団によると、ダーイシュ(イスラーム国)とシャームの民のヌスラ戦線によって占拠されているヤルムーク・パレスチナ難民キャンプ一帯にシリア軍が「樽爆弾」11発、地対地ミサイルなどで攻撃を加える一方、アクナーフ・バイト・マクディス大隊などからなるジハード主義武装集団とダーイシュとの戦闘が続いた。

なお、キャンプでの戦闘による死者数は9日の段階で47人にのぼり、うち戦闘員は32人(ダーイシュが処刑した戦闘員7人、アクナーフ・バイト・マクディス大隊側が処刑した戦闘員5人を含む)、シリア軍兵士5人、民間人8人(子供1人を含む)だという。

『ハヤート』(4月10日付)が伝えた。

AFP, April 9, 2015、AP, April 9, 2015、ARA News, April 9, 2015、Champress, April 9, 2015、al-Hayat, April 10, 2015、Iraqi News, April 9, 2015、Kull-na Shuraka’, April 9, 2015、al-Mada Press, April 9, 2015、Naharnet, April 9, 2015、NNA, April 9, 2015、Reuters, April 9, 2015、SANA, April 9, 2015、UPI, April 9, 2015などをもとに作成。

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