アサド大統領はロシアの通信社のインタビューに応じる「シリア国内テロリストを打ち負かせば、トルコ、米国の侵略を退けられる」(2017年4月21日)

アサド大統領はロシアのRIAノーヴォスチ通信とスプートニク・ニュースの共同インタビューに応じ、4日にイドリブ県ハーン・シャイフーン市で発生した化学兵器攻撃疑惑事件や7日の米軍によるヒムス市シャイーラート航空基地へのミサイル攻撃などについて語った。

インタビューは英語で行われ、SANAが英語全文(http://sana.sy/en/?p=104753)、アラビア語全訳(http://www.sana.sy/?p=542333)、映像(https://www.youtube.com/watch?v=8lolIxGXmGQ&feature=youtu.be)を配信した。

インタビューでのアサド大統領の主な発言は以下の通り:

SANA, April 21, 2017

**

「(イドリブ県フーア市、カファルヤー町の避難住民を移送中の旅客バスの車列に対する自爆テロ事件の実行犯に関して)彼らはいずれもアル=カーイダ、あるいはヌスラ戦線(現シャーム解放機構)で、こうした派閥の一つがバスを攻撃したいと考え…、バスを攻撃し、インターネットで公開し、「我々はこうした和解を許さない。バスに乗りたいと考えるすべての市民を殺害する」と言ったのだ。これが今回の事件だ…。彼ら(実行犯)はヌスラ戦線だ。彼らは当初から自分たちの存在を隠していない」。

「ヌスラ、そしてそのイデオロギーについて話す場合…、ご存知の通り、ヌスラ自身が名前を変更してきたのだが、異なった名前を名乗っても、イデオロギー、振る舞い、殺し方は変わらない。名前は重要ではない」。

「(犠牲者の数に関して)我々は公式の数字しか話すことはできない。それは数万人だ…。しかし、西側は…これにテロリスト(の犠牲者)の数を加える。だが、彼らは犠牲者にはもちろん含まれていない…。シリアにやって来た数万、数十万とされる外国人についても同じだ…。西側のメディアで耳にする数字は…正確ではなく…、シリアに介入する人道的な口実とするために誇張された数字なのだ」。

「国連も死者数を算定する手段を持っていない…。もちろん、それ(実際の犠牲者数)は公式の数値よりも多いはずだろう。しかし我々にはその数値を示すことはできない」。

「(ロシア・シリア軍が20日にダーイシュ(イスラーム国)の指導者アブー・バクル・バグダーディー氏をイラク国境地帯で拘束したとの一部報道に関して)本当ではない。国境地帯は今もダーイシュの支配下にある…。だからバグダーディーはこの地域で安全でいられる」。

「(ヒムス県シャイーラート航空基地に対して米国が発射した弾道ミサイルをロシア・シリア両軍が撃墜できなかったことに関して)技術的には複雑なのだ。(迎撃用)ミサイルは標的を捕捉しなければならない。つまり…領土をあらゆる角度から監視するレーダーが必要になる。しかし、それは不可能だ…。これが第1だ。また第2に、ほとんど人は知らないだろうが、テロリストは攻撃を開始した際、シリアの防空態勢を破壊することから始めた。これは彼らが当時言っていたところの「平和的デモ」とは無関係だ…。危機を通じて、防空態勢は甚大な被害を被った」。

「我々は正確な数字をあげることはできない。なぜなら軍事情報だからだ。しかし、(被害を受けた防空システムは)50%以上に及んだと言うことができる。もちろん、ロシアはシリア軍への支援の一環として、高度の軍備や防空システムを供与することで損害の一部を補填してくれた。だが、全国レベルでは不十分で、防空態勢を完全に復旧するには長い時間がかかるだろう」。
「(ロシアからのどのような軍備補強を望むかとの問いに関して)もちろん、我々は常に最新システムに関心がある。だが、それは供給する側、すなわちロシアの意向…、そして価格による」。

「数年前にアレッポ県で我が軍に対してテロリストが最初の(化学兵器)攻撃が行って以来、テロリストが(有毒)ガスを保有し、我が軍に対して使用していることを証明するため、我々は国連に調査団の派遣を要請してきた…。しかし彼らは(シリア政府側の要請に応えるかたちで)調査団を派遣することはなかった。今回も同じだ。我々は、国連に正式な書簡を送り、ハーン・シャイフーン市での事件を調査するための使節団の派遣を要請した。もちろん、今になっても彼らは調査団を派遣していない。なぜなら、西側、そして米国が派遣を阻止しているからだ。もし彼らが派遣されたら、ハーン・シャイフーン市での事件に関する彼らの主張のすべて、そしてシャイーラート航空基地に対する攻撃がウソだということが明らかになるからだ」。

「あの地域(ハーン・シャイフーン市一帯)はアル=カーイダであるヌスラ戦線の支配下にある。世界中が得ることのできる唯一の情報はこの組織がYoutube、インターネット、主に西側の媒体を通じて公開したものだけだ…。我々が11時半に攻撃した施設が、化学兵器製造所なのか、貯蔵庫なのか、それ以外の施設なのかは分からない。彼らの話によると、攻撃は早朝の6時半に行われたという。だが、我々はこの時間には攻撃を行っていなかった。つまり、二つの可能性がある。第1に、攻撃が11時半に行われたという可能性だ。第2に考えられる可能性は自作自演で、攻撃が行われなかったというものだ。我々が目にしている画像、ビデオは、過去数年にわたって我々が目にしてきたホワイト・ヘルメット、すなわち人道的アル=カーイダに関わるものと同じで…、それは実際には存在してないものだ…。我々は、事件が自作自演だと信じている。その理由は単純なもので、もし同市で60人あまりの犠牲者が出る(有毒)ガスの飛散があったら、どのようにこの都市では通常の生活が営めるのか、というものだ。彼らはこの都市から避難せず…、通常通りの暮らしを続けている…。別の日に彼ら(米国)は(有毒)ガスが貯蔵されているというシャイーラートを攻撃し、すべての貯蔵庫を破壊したという。しかし、この航空基地には(有毒)ガスはなかったし、我が軍の将兵はガスによる被害をまったく受けなかった。つまり、化学兵器攻撃もなければ、(有毒)ガスの貯蔵もなく、シャイーラート航空基地への攻撃を正当化するためだけの自作自演があっただけだ」。

「それらしい救急隊員がマスクも手袋もせずに救出作業に当たっている映像もある。彼らはどうやってそのように自由に動けるのか。彼ら自身が語るサリン・ガスについての説明に完全に反している…。本来なら、救急隊員もほかの人たちと同じように死亡していたはずだ」。

「(化学兵器攻撃をめぐる嫌疑が近い将来も起き得るかについて)実際にある。この可能性は今回の事件があったからだけでなく、過去にも起こっているからだ…。第2に、米政権が相変わらず変わっていないからだ。ソ連崩壊以降、米国は安保理や国連を無視して他国を攻撃してきた。米政権の根底は変化していないのだ…。彼らはいつでもなんでもできる。なぜなら彼らの狙いはシリアを不安定化させ、政府を転覆させ、操り人形にすげ替えたいからだ」。

「(反体制派はどこから化学兵器を入手しているかとの問いに対して)直接トルコからだ。このことを示す幾つもの証拠がある。その一部は何年か前にインターネットで公開されている。トルコの多くの政党、議員がこの件に関してトルコ政府を追及している。何らの秘め事でもない」。

「テロとの戦い」に関して、我々はいつも、真剣にテロと戦う意思があるいかなる国とも協力する用意があると述べている。そしてそれがどの国かということは限定してない…。テロリストを支援し、彼らと戦う意思を持っていない西側諸国であっても…、用意がある誰に対しても我々は(協力する)用意があると言っている…。我々はクルド人と直接連絡をとっている、もちろんこれ(クルド人との協力)に関してロシアとも直接連絡を取り合っている…。ハマー県(北部)の(シャーム解放機構などによる)攻撃ゆえに、我々は(ラッカ市に向けた)攻撃の手を緩めなければならなかった…。なぜなら、ハマー市防衛のために一部部隊をシリア南部および西部から増派しなければならなかったからだ…。このことは、ダーイシュとヌスラの間に関係、ダーイシュとヌスラとトルコの間に関係があるということで、トルコという場合、それは米国、さらにはフランス、英国、そしてサウジアラビアなども含まれるということになる。これで一つの「合唱団」をなしていて、彼らには、主にアル=カーイダ、つまりヌスラやダーイシュなどを含む諸派からなる単一の代理部隊がいるのだ。だから、我々はラッカへの進軍の速度を落とし、優先事項を変更したのだ」。

「トルコの侵略、そして米軍、つまりは侵略について言及し、また国内のテロリストについて言うと、これらは一体をなしていて、何の違いもない…。現時点での優先事項はテロリストを打ち負かすことだ。テロリストを打ち負かしたとき、トルコ軍はシリア国内で弱体化するだろう。トルコの力は、トルコ軍自体でなく、その代理部隊(反体制派)の力によるからだ」。

「我々が現実主義的であろうとするなら、我々は地中海沖の米国艦船には手が届かない。しかし、シリア国内の部隊について言うと、トルコに関する問題と同じように、我々はテロリストを打ち負すとき、それこそが占領者と戦う場所が生じる。なぜなら、テロリストというのは彼らのテロリストだからだ」。

「米高官が言うこととやることはいつも違うということを我々は承知している。彼らが自分たちの約束や言葉を守ったことなど決してない。シャイーラートに対する攻撃はそのことを改めて証明した…。しかし、希望の扉があり、この国、この政権が態度を改め得るのであれば…、協力しなければならない。これは個人的な関係ではないし、憎しみだの愛とも無関係だ…。それが国民の利益につながるからだ…。シリアと米政権との間にはいかなる連絡のチャンネルもない」。

「我々はこの地域(西クルディスタン移行期民政局支配地域)を掌握してないが、自治、連邦制などについて言うと、我々が戦争下でなければ…、それは憲法に関わる問題となる。なぜなら、シリアは様々な文化、エスニック集団、宗教、宗派などからなる溶解炉であり、この社会を織りなす一集団だけがシリアの未来を決めることはできないからだ。それには国民投票が必要となる…。我々の今日の印象では、大多数のシリア人は自治、連邦制などを信用していない」。

「(ヨルダンがシリア南部に部隊を展開させるとの情報に関して)我々はその情報をメディアだけでなく、さまざまな情報源から得ている…。ヨルダンはシリアでの戦争が始まった当初から、米国の計画の一部をなしてきた。好もうが好まざろうが、この国は米国の命令に従わざるを得ない。ヨルダンはもはや独立国家ではない…。米国がヨルダン北部を利用してシリアに対抗したいのであれば、ヨルダンはそうするだろう。この場合、我々はヨルダンを国として扱っているのではなく、場所として扱っているに過ぎない」。

「私が今のところ、(ロシアやイランの)地上部隊の支援の必要はないと考えている…。だからロシア軍の支援はシリア領内の基地に限定されるだろう」。

「(カザフスタン政府がアスタナ会議にサウジアラビアやカタールの代表を招聘していることに関して)より多くの国が参加すれば、このイニシアチブ(停戦・和平に向けたイニシアチブ)がより強く支えられることになるだろう」。

AFP, April 21, 2017、AP, April 21, 2017、ARA News, April 21, 2017、Champress, April 21, 2017、al-Hayat, April 22, 2017、Iraqi News, April 21, 2017、Kull-na Shuraka’, April 21, 2017、al-Mada Press, April 21, 2017、Naharnet, April 21, 2017、NNA, April 21, 2017、Reuters, April 21, 2017、SANA, April 21, 2017、UPI, April 21, 2017などをもとに作成。

(C)青山弘之 All rights reserved.