イドリブ県でヌスラ戦線やイスラーム主義者戦闘員が市民国家建設を求めるデモ参加者らを襲撃、シリア・クルド民主党書記長はシリア北西部におけるクルド政府の発足が「時期尚早である」と述べる(2013年2月8日)

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国内の動き(アサド政権の動き)

ウムラーン・ズウビー情報大臣は、シリア・アラブ・テレビ(2月8日付)に出演し、そのなかで、周辺諸国は反体制武装勢力への武器支援を停止し、危機解決政治プログラムを成功させるために支援すべきだ、と述べた。

ズウビー情報大臣はまた、「我々のもとに来て、議論、対話したいすべてのシリア人に門戸は開かれている…。対話について言及した際、我々は誰も排除しない無条件の対話となると話した。議論ではいかなるテーマも排除されず、前提条件もない」と述べ、シリア革命反体制勢力国民連立のアフマド・マアーッズ・ハティーブ議長がアサド政権との条件付き対話に応じる姿勢を示したことを牽制した。

国内の暴力

シリア人権監視団は声明を出し、イドリブ県サルキーヤ市で市民国家建設を求めるデモ参加者を、シャームの民のヌスラ戦線やイスラーム主義者戦闘員が襲撃した、と発表した。

ユーチューブ(2月8日付、http://www.youtube.com/watch?v=R_1xdQX33pM)にアップされた映像によると、デモでは当初、イスラーム教、シリア革命の旗の双方が掲げられていたが、イスラーム教の黒い旗を掲げた一団が「我々が永遠の指導者、サイイドナー・ムハンマド」、「それは、それは、それはイスラームのカリフ制」とシュプレヒコールを繰り返すと、別の集団が「一つ、一つ、一つ、シリア国民は一つ」、「統一、自由、市民国家」と対抗し、衝突が発生した。

なおハーフィズ・アサド前大統領は「我らが永遠の指導者」と呼ばれ、バアス党の基本原則は「統一、自由、社会主義」である。

またシリア人権監視団によると、マアッラト・ヌウマーン市、カフルルーマー村などに対して、軍が空爆を加えた。

一方、SANA(2月9日付)によると、ワーディー・ダイフ軍事基地周辺で軍が反体制武装勢力を攻撃し、戦闘員を殺傷、装備を破壊した。

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『ハヤート』(2月9日付け)は、6日にダマスカス郊外県の軍の防衛ラインを突破し、ダマスカス県ジャウバル区などに侵入した反体制武装勢力に対して軍が空爆・砲撃を加えたと報じた。

同紙によると、軍と反体制武装勢力はダマスカス県を囲む環状線南東部で激しく行われた模様で、反体制武装勢力はダマスカス県を包囲するかたちで防衛ライン内の軍拠点や検問所の制圧を進めようとしている、という。

また活動家の一人によると、反体制武装勢力はダマスカス県内のアッバースィーイーン広場周辺にまで到達したという。(未確認情報)。

一方、アブー・フィダーを名乗る活動家はAP(2月8日付)にスカイプで、反体制武装勢力がダマスカス県とシリア北部を結ぶ高速道路の検問所の一つを制圧した、と述べた。

シリア人権監視団によると、ダマスカス郊外県ザマルカー町、ダーライヤー市、ダマスカス県ジャウバル区、カーブーン区を軍が砲撃・空爆を加えた。

これに対し、SANA(2月9日付)は、ダマスカス郊外県のアルバイン市、ザマルカー町、タッル・クルディー町、ドゥーマー市郊外、ハラスター市、フジャイラ村、スバイナ町、ダーライヤー市、ハジャル・アスワド市などで、軍が反対武装勢力を攻撃し、イスラーム旅団メンバーなど複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊したと報じた。

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ハマー県では、シリア人権監視団によると、ハマー市郊外のブラーク地方の軍需工場で爆発があり、女性11人を含む工場労働者54人が死亡した。

『ハヤート』(2月9日付)は、シリア人活動家の多くが、過激なイスラーム主義者の犯行だと主張し、民間人を標的としたテロへの関与を否定している、と報じた。

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アレッポ県では、シリア人権監視団によると、サフィーラ市などが軍の砲撃を受けた。

同市では、シャームの民のヌスラ戦線が市内の軍需施設を包囲、制圧を試みている、という。

一方、SANA(2月9日付)によると、アレッポ市のハイダリーヤ地区、マサーキン・ハナーヌー地区、バニー・ザイド地区、インザーラート地区、スッカリー地区、シャッアール地区、サーリヒーン地区、ハルワーニーヤ地区、旧市街などで、軍が反対武装勢力を攻撃し、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

またアターリブ市、クワイリス市、サフィール市などでも、軍が反対武装勢力を攻撃し、複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

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ヒムス県では、SANA(2月9日付)によると、カフル・アーヤー村、ヒムス市ジャウバル区、スルターニーヤ地区、ラスタン市郊外、ハウラ地方タッルドゥー市などで、軍が反対武装勢力を攻撃し、シャームの民のヌスラ戦線メンバーら複数の戦闘員を殺傷、拠点・装備を破壊した。

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ラタキア県では、SANA(2月9日付)によると、スーラース遺跡に侵入しようとした反体制武装勢力を軍が殲滅した。

反体制勢力の動き

民主的変革諸勢力国民調整委員会のハサン・アブドゥルアズィーム代表はクウェート日刊紙『ラアユ』(2月8日付)に対して、シリア革命反体制勢力国民連立のアフマド・マアーッズ・ハティーブ議長がアサド政権との条件付きでの交渉に応じたことを「在外の反体制勢力からの初めての重要な立場の提示」と高く評価した。

しかし「ハティーブは、ロシア、中国に接近し出した米国の姿勢の真の変化を認識した…。ハティーブの姿勢は米国の外交政策の変化と結びついている」と述べ、在外の反体制勢力が欧米諸国に追随していることを暗に批判した。

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SANA(2月8日付)が伝えたところによると、シリア革命反体制勢力国民連立のアフマド・マアーッズ・ハティーブ議長はイスラエルの『イェディオト・アハロノト』のインタビューに応じ、「化学兵器問題においてイスラエルが心配することはない。我々は…現体制の武器のすべてを掌握するだろうが、ヒズブッラーなどにそれを渡すことはない」と述べた。

またハティーブ議長は、この問題をめぐって欧米諸国の諜報機関から情報を得ていることを認めた。

クルド民族主義勢力の動き

クルディーヤ・ニュース(2月8日付)によると、シリア・クルド民主党(アル・パールティ)のアブドゥルハキーム・バッシャール書記長は、シリア北西部のクルド人が居住する地域でのクルド政府の発足に関して「時期尚早」だと否定したうえで、現下の最優先課題がシリアのほかの反体制勢力との協力関係のしくみを構築することになると述べた。

諸外国の動き

フランスのフランソワ・オランド大統領はブリュッセルで、「危機解決正常化のための政治対話が行われる可能性がある限り、EUはシリアの反体制勢力への武器禁輸を解除しない」と述べた。

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ジョン・ケリー米国務長官は、「我々は(シリア)情勢の評価を現在行っている。可能なステップ、とりわけ外交的ステップを考えている…きわめて複雑で危険な事態」としたうえで、「シリアの紛争を終わらせる意思」があると述べた。

また2012年夏にシリアの反体制勢力への軍事支援が提言されていたことに関して、「就任前の決定に関しては知らなかった」としたうえで、紛争解決に向けて「前進する計画がある」と述べた。

AFP(2月8日付)が報じた。

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トルコのムハンマド・シムシェク財務大臣はツイッター(2月8日付)、シリア人避難民(約17万7000人)への対処するため、過去2年間でこれまでトルコ政府が6億1050万トルコ・リラ(3億4400万ドル)を支出したと綴った。

ロイター通信(2月8日付)が報じた。

トルコは、シリアの反体制武装勢力に武器、兵站、拠点を提供し、国内の暴力を助長、こうした武装勢力と軍の戦闘によって、避難民が発生している。

AFP, February 8, 2013、Akhbar al-Sharq, February 8, 2013、AP, February 8, 2013、al-Hayat, February 9, 2013、Kull-na Shuraka’, February 8, 2013、al-Kurdiya News,
February 8, 2013、Naharnet, February 8, 2013、al-Ra’y, February 8, 2012、Reuters, February 8, 2013、SANA, February 8, 2013などをもとに作成。

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