ダマスカス県中心部で仕掛け爆弾2発が爆発し自由シリア軍国内合同司令部が犯行を主張、イスラーム諸国会議機構の特別首脳会議が閉幕し「アサド政権の加盟停止」をめぐって合意に至ったことが発表される(2012年8月15日)

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国内の暴力(アレッポ県アアザール市)

アレッポ県では、各紙によると、反体制武装勢力が占拠するアアザール市に対して軍が空爆を行い、少なくとも35人が死亡した。

Kull-na Shuraka', August 15, 2012

Kull-na Shuraka’, August 15, 2012

複数の反体制筋によると、空爆は市内のバアス党支局施設を狙ったもので、同施設は反体制武装勢力が占拠・使用していた。

AFP(8月15日付)によると、この空爆で800平方メートルが破壊され、住民の一人は攻撃が住宅地区に対して行われたと語った。

なおシリア人権監視団のラーミー・アブドゥッラフマーン代表によると、アアザール市では80人以上が死亡したという。

またナハールネット(8月15日付)によると、攻撃にはMiG29戦闘機が使用された、という。

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反体制武装勢力の活動家によると、7月に拉致されたレバノン人巡礼者(シーア派)11人のうち7人が空爆で負傷、4人が行方不明となった。シリア人権監視団によると、4人が重体だという。

これに対して、ジャディード・チャンネル(8月15日付)によると、レバノン人巡礼者4人が軍の爆撃で死亡した、と報じた。

しかし、マナール・チャンネル(8月15日付)によると、11人は無事で、数人はトルコに到着した、という。

またLBCI(8月15日付)によると、誘拐犯のアブー・イブラーヒームもこの攻撃で軽傷を負ったという。

国内の暴力(ダマスカス県マッザ区)

ダマスカス県では、AFP(8月15日付)などによると、マッザ区の首相府およびイラン大使館近くで軍・治安部隊と反体制武装勢力が激しく交戦した。

反体制勢力筋によると、交戦に先立って、反体制武装勢力がRPG弾でイラン大使館(建設途中)を狙ったという。

その後、シリア・アラブ・テレビ(8月15日付)は、マッザ区バサーティーン・ラーズィーに関係当局が突入し、反体制武装勢力の戦闘員多数を殺傷、逮捕したと報じた。

また『クッルナー・シュラカー』(8月15日付)によると、マッザ区での軍・治安部隊の砲撃で10人が死亡した。

国内の暴力(ダマスカス県ダーマー・ローズ・ホテル前)

ダマスカス県中心のダーマー・ローズ・ホテル(旧メリディアン)隣りの労働総同盟施設内で早朝、仕掛け爆弾が爆発した。

シリア・アラブ・テレビ(8月15日付)やシリア人権監視団によると、爆発はディーゼル・タンクに取り付けられた仕掛け爆弾によるもの。

同ホテルはUNSMISの監視団が宿泊している。

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攻撃に関して、シリア・アラブ・テレビ(8月15日付)は、「参謀司令部の駐車場近くで爆発が発生」し「3人が負傷した」と報じ、それがUNSMISを狙ったテロだと断じた。

これに対して、AFP(8月15日付)は、爆発で5員が負傷した、と報じた。

http://www.youtube.com/watch?v=lEftoHNEfNk&feature=player_embedded

Kull-na Shuraka', August 15, 2012

Kull-na Shuraka’, August 15, 2012

Kull-na Shuraka', August 15, 2012

Kull-na Shuraka’, August 15, 2012

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自由シリア軍国内合同司令部調整連絡局のマーヒル・ヌアイミー少佐はAFP(8月15日付)に対して、「自由シリア軍が参謀司令部での軍の会合を狙ってこの作戦を実行した」と発表し、「二つの爆破のうち、一発が司令部中、もう一発が外で行われた」ことを明らかにした。

ヌアイミー少佐はまた「専門の士官が(作戦)を計画し、朝8時5分ちょうどに実行した。この時間は司令部ないで定例の会合が行われている」と付言した。

同少佐によると被害者数は明らかではないが、「司令部内には少なくとも150人がおり、そのなかにはデモ弾圧を担当する士官10人もいた」と述べた。

また、自由シリア軍の「ハビーブ・ムスタファー旅団」を名のる反体制武装勢力がフェイスブック(8月15日付)で犯行声明を出し、「司令部の定例の朝礼にいたシャッビーハ多数を殺害した」と主張した。

さらに自由シリア軍の「使徒末裔大隊」を名のる反体制武装勢力も犯行声明を出し、参謀司令部を標的とし、爆発によって兵士50人を殺害したと主張した。

国内の暴力(その他)

アレッポ県では『ハヤート』(8月16日付)によると、アレッポ市で軍・治安部隊が市内北東部の戦線を新たに突破し、反体制武装勢力が占拠する地区に突入を開始した。

またシリア人権監視団などによると、アレッポ市バーブ街道、ザフラ地区、サイフ・ダウラ地区、サラーフッディーン地区などで戦闘が続いた。

一方、SANA(8月15日付)によると、サイフ・ダウラ地区、マサーキン・ハナーヌー地区、ハラク地区、バーブ・ナスル地区、カブターン市、カフルハムラ地方、カフルバスィーン地方などで軍・治安部隊による反体制武装勢力「残党」の掃討が続いた。

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ダマスカス郊外県では、SANA(8月15日付)によると、タッル市で軍・治安部隊が反体制武装勢力の拠点を攻撃し、多数の戦闘員を殺傷した。

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ダルアー県では、SANA(8月15日付)によると、タファス市で軍・治安部隊が反体制武装勢力「残党」の掃討を継続し、多数の戦闘員が武器を放棄して逃走した。

またヨルダン領内からタッル・シハーブ地方に潜入しようとした反体制武装勢力の戦闘員を国境警備隊が撃退した。

このほか、ブスラー・シャーム市などで軍・治安部隊が反体制武装勢力と交戦した。

一方、『ハヤート』(8月16日付)によると、軍・治安部隊がタフス市に突入、同市の「純化」を本格化させた。

自由シリア軍はこれを受け、装備部族を理由に撤退を宣言した。

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ヒムス県では、SANA(8月15日付)によると、レバノン領内からタッルカラフ地方に潜入しようとした反体制武装勢力の戦闘員を国境警備隊が撃退した。

またガントゥー市などで軍・治安部隊が反体制武装勢力と交戦した。

シリア政府の動き

ダマスカスに滞在中の国連のバレリー・アモス人道問題担当事務次長はワリード・ムアッリム外務在外居住者大臣と会談し、人道支援などに関する協力態勢について協議した。

SANA, August 15, 2012

SANA, August 15, 2012

SANA(8月15日付)が報じた。

反体制武装勢力の動き

アレッポで反体制武装闘争を行うタウヒード旅団のアブドゥルカーディル・サーリフ司令官は、アレッポ市内での反体制武装勢力による政権支持者処刑に関するビデオ映像が公開されたことを受け、声明を出し、「体制と結託した一部の勢力が映像をねつ造した」と主張し、反体制武装勢力が捕虜の取り扱いなどに関する国際法を遵守していると強調した。

http://www.youtube.com/watch?v=RLLq2czgTvs&feature=youtu.be

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アレッポ砲兵学校副校長のアブドゥルマジード・バドルクバイス准将がユーチューブ(8月15日付)で軍を離反し、タウヒード旅団への参加を発表した。

http://www.youtube.com/watch?v=hN0QRG-U9QU

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自由シリア軍国内合同司令部は声明を出し、レバノン人のハッサーン・ミクダード氏を拉致した誘拐犯が「自由シリア軍には属していない」と述べた。

しかし自由シリア軍は離反兵・反体制活動家の小規模な集団どうしの緩やかな連合体であり、組織への加盟・脱退の基準は存在しない。

クルド民族主義勢力の動き

シリア・クルド国民評議会のファイサル・ユースフ新事務局長はイラク・クルディスタン地域のエルビルでクルディーヤ・ニュース(8月15日付)に対して、「一部の都市では依然として武装デモが続いているが、市民保護のためのよりよい手段に至ることを望む」と述べ、反体制武装勢力の活動と一線を画す意思を明らかにした。

al-Kurdīya News, August 15, 2012

al-Kurdiya News, August 15, 2012

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『クッルナー・シュラカー』(8月15日付)は、PKK系のクルド民族主義政党、民主統一党がクルド人青年4,000人をアーバール油田の監視・守衛として雇用しようとしている、と報じた。

同党消息筋の話によると、同油田の守衛・監視の給与の平均は月額で15,000,000シリア・ポンド(3000万円相当)!!!だという。

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『クッルナー・シュラカー』(8月15日付)は、ハサカ県ルマイラーン町に避難したダマスカス県住民の話として、同市の西クルディスタン人民議会人民諸委員会の検問所から300メートルも離れていない場所に、アサド大統領、ハーフィズ・アサド前大統領、バースィル・アサド准将の銅像が建ち並んでいる、と報じ、クルド民族主義勢力とアサド政権の親密な関係を示唆した。

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クルド最高委員会は声明を出し、現下のシリアの情勢を踏まえて、イード・フィトル期間中、街頭で祝祭・祝典を行わないよう呼びかけた。

レバノンの動き

LBCI(8月15日付)などによると、アブー・アリー・ミクダードが書記長を務めるミクダード家連盟(本部ベイルート南部郊外ルワイス)の民兵がレバノン国内で自由シリア軍のメンバー20人以上とトルコ人1人を拉致したと発表した。

LBCIによると拉致された自由シリア軍メンバーには、大尉ら士官2人が含まれている、という。

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ナハールネット(8月15日付)などによると、ミクダード家は、ヒズブッラーのメンバーだとされるハッサーン・サリーム・ミクダード氏がダマスカス県で拉致されたことを受けて行動に出たという。

ハッサーン・サリーム・ミクダード氏の兄弟のハーティム・ミクダード氏はLBCI(8月15日付)に、これまでに30人の自由シリア軍メンバーを拉致したと述べるとともに、2日以内にハッサーン・サリーム・ミクダード氏を釈放するよう誘拐犯に呼びかけた。

Naharnet.com, August 15, 2012

Naharnet.com, August 15, 2012

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自由シリア軍の政務顧問だというバッサーム・ダーダー氏はジャディード(8月15日付)に対して、拉致されたシリア人は避難民で自由シリア軍のメンバーではない、としたうえで、「ヒズブッラーが事件の背後にいる」と断じた。

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LBCI(8月15日付)はその後、拉致されたトルコ人のパスポートの画像を公開、そこには「アイドゥン・トゥファン、1948年5月3日生まれ」と記されていた。

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なおナハールネット(8月15日付)は、アブー・アリー・ミクダード書記長の話として、ベカーア県東部(バアルベック郡)のシャンマース家、ズアイティル家、ナスルッディーン家、ダンダシュ家といった家族もミクダード家とともに活動している、と報じている。

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NNA(8月15日付)は、ダマスカス県に滞在してたレバノン人のルワイユ・マンスール氏(23歳、スール出身)が先週から行方不明になっている、と報じた。

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『ハヤート』(8月16日付)は、進歩社会主義党、ヒズブッラー、アマル運動がレバノン領内でのシリア国民の拉致拡大を阻止することで合意した、と報じた。

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アリー・アウダ・アスィーリー駐レバノン・サウジ大使は、レバノン在住のサウジ国民に即時退去を勧告した。

またUAEとカタールの外務省もレバノン在住の自国民に退去勧告を出した。

諸外国の動き

サウジアラビアのメッカで開催されていたイスラーム諸国会議機構の特別首脳会議が閉幕した。

閉幕声明では、「シリア国民に対する虐殺と非人道的行為への激しい懸念」を表明し、「シリアの加盟資格停止」を通じて「暴力行為の即時停止」をめざすことで合意したことが明記された。

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トルコ日刊紙『タラフ』(8月15日付)は、ヒラリー・クリントン米国務長官のトルコ訪問時の同国首脳らとの会談で、シリア領空での飛行禁止空域について実際に設定することが困難だとの認識に至った、とフランシス・J・リチャードーン駐トルコ米大使が語ったと報じた。

リチャードーン駐トルコ米大使は「もちろん、こうした問題を設定しなければならない。しかしこうした問題に関するトルコとの協議は、こうした地域(飛行禁止空域)の設定に積極的に関与することと同義であるべきでない」と述べた。

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ロシアのセルゲイ・ラブロフ外務大臣は訪問先のベラルーシで、ジュネーブでのシリア協力グループ会合での決定を遵守するよう西側諸国に呼びかけ、シリアのすべての当事者に圧力をかけ、反体制武装闘争を煽動しないよう警鐘を鳴らした。

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中国共産党の機関紙『人民日報』(8月15日付)は、シリア問題をめぐる国連安保理内での意見対立の原因が、政治的関係正常化を阻止しようとする西側諸国にあるとし、アサド政権の打倒に固執し、反体制勢力を支援し続ける姿勢を非難した。

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『ハヤート』(8月15日付)は、ヨルダンの複数の消息筋の話として、ヨルダン政府がリヤード・ファリード・ヒジャーブ前首相の離反と領内への避難を事前に知っていたと報じた。

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アラビーヤ(8月15日付)は、イランのアーラム・チャンネルのアフマド・サトゥーフ特派員がヒムス市の自宅近くで拉致された、と報じた。

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シリアでの人権侵害を調査するための国連人権理事会調査委員会が最新の報告書を提出し、軍、治安部隊、シャッビーハが「人道に対する罪」、「戦争犯罪」、「体系的な人権侵害」を行っていると指摘した。

報告書はまた「反体制武装勢力も殺戮、拷問といった戦争犯罪を犯している」と指摘したが、「その深刻さにおいては、政府軍、シャッビーハの侵害に及ばない」としている。

AFP, August 15, 2012、Akhbar al-Sharq, August 15, 2012、Alarabia.net, August 15, 2012、al-Hayat, August 15, 2012, August 16, 2012、al-Jadīd Channel, August 15, 2012、Kull-na
Shurakaʼ, August 15, 2012、al-Kurdīya News, August 15, 2012、LBCI, August
15, 2012、al-Manar Channel, August 15, 2012、Naharnet.com, August 15, 2012、NNA,
August 15, 2012、Reuters, August 15, 2012、SANA, August 15, 2012、Youtube,
August 15, 2012などをもとに作成。

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