UNSMISが「シリア国内での武装暴力の激化」により同監視団の活動を中止すると発表、米ホワイトハウス報道官がシリアの政治的転換に向けた「次なる措置」が考慮されていることを明らかに(2012年6月16日)

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UNSMISの動き

UNSMISのロバート・ムード司令官は声明を出し、監視団の活動を中止すると発表した。

声明でムード司令官は「過去10日間でシリア国内の武装暴力が激化し、我々の監視、調査、報告の能力が制限され、国内での対話開始や安定回復のための計画策定への支援ができなくなった」としたうえで、「平和的・移行的解決に向けた両当事者の意志が欠如」していると非難した。

そのうえで「多くの危険が伴うこうした状況下で、UNSMISは活動を停止する。新たな通知があるまでパトロール活動は行わず、本部に留まることなる…。状況が我々に任された任務を実行するに相応しいと判断すれば、活動を再開するだろう」と発表した。

国内の主な動き

シリアの外務在外居住者省はUNSMISの活動停止発表を受け、声明を出し、「監視団の安全を維持する…という(ムード司令官の)決定に理解を示している」としたうえで、これにより「武装テロ集団がアナン特使停戦案署名以降も犯罪行為を続けていることが明らかになった」と主張、シリア政府がアナン特使の停戦案を尊重していると主張した。

またアナン特使の停戦案に基づく危機解消を支持するとの意思を改めて示しつつ、「国連憲章第7章に基づき、実力行使に訴えると脅迫することでその履行をめざす」動きを批判、拒否するとの姿勢を示した。

国内の暴力

ヒムス県では、ヒムス市住民約1,000世帯は、国連、赤十字国際委員会、シリア赤新月社に対して、市内に取り残されている住民、とりわけキリスト教徒の避難を支援するよう呼びかけた。

SANA, June 16, 2012

SANA, June 16, 2012

ヴァチカンのフィディス通信(6月16日付)が伝えた。

『ハヤート』(6月17日付)によると、80万人いたヒムス市住民はすでにそのほとんどが避難し、現在は約400人が取り残されている。

この他、シリア人権監視団によると、ヒムス市に対して軍・治安部隊が攻撃を続け、5人が死亡、ファルハ-ニーヤ村(タルビーサ市近郊)でも砲撃により、5人が死亡した。

一方、SANA(6月16日付)によると、タッルカラフ市郊外のアルムータ村でレバノン領内から潜入を試みた武装テロ集団と当局が交戦し、テロリスト全員を殺害した。

またこれ以外にもクサイル市郊外のジャウラ地方、タッルカラフ市郊外のアズィーズィーヤ、アリーダなど複数カ所で武装テロ集団が潜入を試み、当局がそのうちの6人を殺害した、という。

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ダマスカス郊外県では、SANA(6月16日付)が、軍・治安部隊が住民の協力のもと、シャームの民のヌスラ戦線のリーダーの「右腕」で、ダマスカスでのテロを指揮していたとされるワリード・アフマド・アーイシュを殺害した、と報じた。

シリア人権監視団や地元調整諸委員会によると、軍・治安部隊の攻撃により、ドゥーマー市で7人が殺害された。

また同監視団によると、サクバー市で拷問の跡が残る市民5人の遺体が発見された。

さらにアルバイン市では子供2人を含む4人が砲撃により死亡し、サフナーヤー市郊外では治安部隊の発砲で青年1人が殺害された。

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ダマスカス県では、シリア人権監視団によると、スィナーイーヤ地区で軍用バスが爆破され、兵士1人が死亡した。

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ダルアー県では、シリア人権監視団によると、ハバブ町近くでの軍・治安部隊との戦闘の直後、反体制武装集団の一つを指揮する離反兵の少尉が殺害された。

一方、SANA(6月16日付)によると、治安維持部隊が武装テロ集団とダルアー市郊外で交戦し、テロリスト2人を殺害した。

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イドリブ県では、SANA(6月16日付)によると、ズーフ地点から潜入を試みた武装テロ集団と当局が交戦し、多数のテロリストを死傷させ、トルコ領内に退却させた。

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アレッポ県では、SANA(6月16日付)によると、ナッカーリーン村にある通信局前で爆弾が仕掛けられた車が爆発した。

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ハマー県では、SANA(6月16日付)によると、カフルズィーター市で自動車爆弾が爆発市、警官1人が死亡した。

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ダイル・ザウル県では、SANA(6月16日付)によると、ダイル・ザウル市で皮膚科の医師が武装テロ集団に暗殺された。

反体制勢力の動き

シリア国民評議会など在外の反体制勢力はイスタンブールでの2日にわたる会合を終え、6月末までにアラブ連盟のもと、反体制勢力統一のための会合をカイロで開催することを決定、そのための準備委員会を設置した。

al-Hayat, June 17, 2012

al-Hayat, June 17, 2012

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シリア国民評議会のアブドゥルバースィト・スィーダー事務局長は『ハヤート』(6月17日付)に対して、「バッシャール・アサドとその一味との対話はない」としたうえで、国連憲章第7章に基づくアナン特使の停戦案の強制を、シリア国民ではなく、国際社会に呼びかけた。

またイランとヒズブッラーに対して「シリア国民の意思を尊重し、シリアの新たな段階に備えるよう」呼びかける一方、「シリア国民の革命を支援」するサウジアラビア、カタールなどの湾岸諸国の姿勢を賞賛した。

アサド政権に関しては、「このような力の行使は…弱さは自己不信を示している」としつつも、「体制打倒の期限を限定することは困難だ」と述べるとともに、「我々はバアス党を根絶するつもりはなく、バアス党を一つの政治勢力とみなしている…。我々は専制の根絶をめざしている」と主張した。

一方、イスタンブールでの会合に関しては、「未来のシリアのための移行期間に関するシリアの反体制勢力のビジョンを体現するような国民文書を通じて各派の立場を統合することが目的であり、それによりシリア国内、近隣諸国、国際社会を安堵させる」と述べた。

自由シリア軍とシリア国民評議会の関係に関しては、「数度にわたり会い、連絡をとりつづけており…、現地での努力を糾合するため大いなる努力をしている」と述べた。

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シリア国民評議会は声明を出し、ヒムス市が「3万人以上」の軍・治安部隊によって包囲され、攻撃を受けており、「大虐殺」の危険があると警鐘を鳴らし、国連に民間人「保護」のための介入を呼びかけた。

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民主的変革諸勢力国民調整委員会は声明を出し、アサド政権による暴力継続を非難する一方、「外国のアジェンダに従い、非民主的な性格の武装集団が問題を軍事化し、暴力を用いている」と反体制武装集団の活動を批判した。

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アナトリア通信(6月16日付)は、シリア軍の上級士官が離反し、トルコに避難、これによりトルコ国内のシリア軍を離反した上級士官の数は10人に達した、と報じた。

新たに離反した上級士官の氏名などは公表されなかった。

イラクの動き

イラクのターリク・ハーシミー副大統領は滞在先のトルコでフランス24(6月16日付)のインタビューに応え、そのなかでシリアでの住民保護のため力を行使するよう国連に呼びかけた。

また反体制勢力への武器供与に反対するヌーリー・マーリキー首相の姿勢を批判した。

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『クッルナー・シュラカー』(6月16日付)は、PKK系のクルド民族主義政党、民主統一党がイラクに避難したクルド民族主義活動家の「粛清」(暗殺)を行おうとしていると報じた。

レバノンの動き

自由国民潮流代表のミシェル・アウン元国軍司令官は、『サフィール』(6月16日付)に対して、「現下のシリア情勢が我々をそうした戦争(内戦)に陥れることはない…。しかし(シリアの)体制が崩壊すれば、戦争になるだろう」と述べた。

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進歩社会主義党のワリード・ジュンブラート党首は『シャルク・アウサト』(6月16日付)に対して、「シリアの将来をめぐる対話が大国の手に委ねられている状況下で、域内の政治勢力は何もできないと思う」と述べた。

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国連UNSCOLのロバート・ワトキンス代表は『ナハール』(6月16日付)に対して、シリア情勢が悪化すれば、レバノン政府はシリアと距離を保つ現下の政策を維持できなくなるだろうと述べた。

諸外国の動き

米ホワイトハウス報道官は、シリア政府にアナン特使の停戦案を受諾するよう改めて求めるとともに、「血塗られた長期的な内戦が発生することを回避する」ため、「国際社会のパートナーと、政治的な転換に向かうための次なる措置を協議している」と述べた。

米国防総省高官はCNN(6月16日付)に対して、米国は過去1年半にわたってロシア軍の貨物船によるシリアへの武器、装備の搬入を監視していると述べた。

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EUは、6月17日からタバコ、アルコール飲料、革靴、キャビアなどの奢侈品のシリアへの販売を禁止することを決定した。

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トルコ外務省高官は、トルコ領内のシリア人避難民の数が30,000人に達したと述べた。

AFP, June 16, 2012、Akhbar al-Sharq, June 16, 2012、al-Hayat, June 17, 2012、Kull-na Shurakaʼ, June 16, 2012、al-Nahar, June 16, 2012、Naharnet.com, June 16, 2012、Reuters June 16, 2012、al-Safir, June 16, 2012、SANA, June 16, 2012、al-Sharq al-Awsat, June 16, 2012などをもとに作成。

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