Contents
ハッファ地方制圧
ラタキア県では、「海岸地方の自由シリア軍」は声明を出し、戦闘員数百人を展開させてきたハッファ地方から撤退(退却)したと発表した。
アブドゥルアズィーズ・カナアーン大佐が署名した同声明において、自由シリア軍は「我々はハッファ市および同市農村の全軍に対して、組織的撤退と、負傷者、戦死者、女性、子供、戦闘員の非難を命じた…。撤退は(作戦の)成功によるもので、我々はあなた方に次の行軍を約束する」と述べ、多数の軍兵士を殺害したことを戦果として鼓舞した。
**
駐英反体制組織のシリア人権監視団のラーミー・アブドゥッラフマーン所長は、AFP(6月13日付)に対して、ハッファ地方の活動家から電話で、撤退の連絡を受けたと述べうえで、「撤退は住民の安全を保障し、彼らを保護するための技術的なもので…。戦闘員の撤退後に正規軍が同地域に突入した」と弁明した。
またロイター通信(6月13日付)は、ラタキア市の反体制活動家サリーム・ウマル氏の話として、反体制武装集団が軍の砲撃に曝され、ハッファ地方から撤退したと報じた。
**
これに対して、SANA(6月13日付)などは、軍・治安維持部隊はハッファ地方の武装テロ集団の「掃討」を完了し、「安全と平静を回復した」と大々的に報じた。
同通信社によると、この掃討作戦により、同地方は甚大な被害を受け、多くの兵士が死傷した。
現在、関係当局が周辺の村々に逃走したテロリストの残党を追跡している、という。
**
『ハヤート』(6月14日付)は、ハッファ地方からトルコのハタイ県(シリア領アレキサンドレッタ地方)に撤退(敗走)した反体制武装集団の複数の戦闘員の証言を報じた。
それによると、軍・治安部隊はヘリコプター、戦車を投入し、ハッファ地方を攻撃し、若者らを拘束、略奪を行ったという。
また、ハタイ県には少なくとも50人の負傷者がトルコに敗走し、残りの戦闘員は軍に包囲されていた、という。
負傷した戦闘員の多くは、ハタイ県の病院で治療を受けている。
**
外務在外居住者省高官によると、ハッファ地方制圧後、UNSMISが同地方に入り、被害現場を視察した。
**
その他国内での主な暴力
アレッポ県では、シリア人権監視団によると、カッバーニーヤ村(クルド山)でラタキア市南ラムル地区出身の市民2人が殺害された。
国内の動き
アサド大統領はPFPL-GCのアフマド・ジブリ-ル書記長とダマスカスで会談した。
SANA(6月13日付)によると、会談でアサド大統領は、「シリアを標的とした残忍な行為が激化しようと、パレスチナ問題はシリア国民と結びつきつづけるだろう」と述べた。
**
SANA(6月13日付)によると、シリア外務省は「シリアは内戦ではなく、テロの悲劇を根絶するための闘争を行っている…。内戦について言及することは…現実に合致せず、シリア国民の方針と矛盾する」との声明を出し、「(シリアは内戦だと)言うことができると思う」との国連平和維持活動局(DPKO)のエルベ・ラドゥス局長の発言に反論した。
**
国内で反政府活動を行う平和的変革諸勢力はダマスカスで発足大会を開き、外国の軍事介入を拒否する一方、危機打開のため対話の原則に依拠する、との基本方針を確認した。
また「平和的な政治解決に至るためのあらゆる方法を受け入れる」との意思を表明した。
平和的変革諸勢力は、人民意思党、シリア民族社会党インティファーダ派、シリアのための第三潮流、平和的変革の道潮流、マルクス民主連合、国民行動潮流、そしてダイル・ザウル県およびラタキア県の人民運動諸委員会などからなる。
**
SANA(6月13日付)は、アレッポ市のアレッポ大学前で学生が外国の介入拒否、改革支持を訴える集会を行った、と報じた。
**
ロイター通信(6月13日付)は、ダマスカスの銀行家4人の話として、最近、ロシアで印刷された新紙幣の流通がダマスカス県とアレッポ市で実験的に始まった、と報じた。
新紙幣は現行のシリア・ポンドとの交換はできず、公務員の給与支払いなどを保証するためのものだという。
**
アサド大統領にメディア対策などをアドバイスしていると西側メディアで報じられてきたシャハルザード・ジャアファリー女史(バッシャール・ジャアファリー国連大使の娘)は『デイリー・テレグラフ』(6月15日付)のインタビューに応じ、「大統領の顧問でも助手でもない」と否定、報道が誇張で、自身がスケープゴートにされていると語った。
反体制勢力の動き
シリア革命総合委員会は声明を出し、シリア情勢を「内戦」と形容することを「平和的な革命…という現状とシリア国民の意思を表現していない」とし、拒否する意思を示した。
**
『クッルナー・シュラカー』(6月13日付)によると、若者「シリア民族社会運動体」が声明を出し、シリア民族社会党イサーム・マハーイリー派の指導を拒否するとともに、「抑圧的な体制を拒否」し、「国民の権利と自由のための…革命」を支持すると発表した。
**
シリア民主フォーラム、シリア国民ブロック、シリア・クルド国民評議会が声明を出し、反体制勢力統合のための常設調整合同委員会を設置するとのワーキングペーパーを発表した。
レバノンの動き
AFP(6月13日付)は、シリア軍がベカーア県バアルベック郡カーア地方に越境し、同地に地雷を敷設した、と報じた。
諸外国の動き
ロシアのセルゲイ・ラブロフ外務大臣は訪問先のイランでの記者会見で、シリアへの防空システムの供与が「国際法に何ら抵触していない」としたうえで、「米国が反体制勢力に行っていることは、シリア政府に対抗するための兵器の増強だ」と述べ、米国の姿勢を非難した、とイラン筋が報じた。
その後、ロシア外務省はこの報道に関して、「ペルシャ語の翻訳の誤り」としたうえで、「我々は米国とは異なり…シリアを含むいかなる国に対しても、平和デモに対峙するために利用できるいかなるものも供与していない」と訂正した。
またロシアの武器輸出公社の報道官は、SANA(6月13日付)などに声明を出し、「安保理の条件やそのほかの国際的合意に反するかたちで国外に武器・装備を提供していない」と発表した。
**
ヒラリー・クリントン米国務長官は、7月20日に任期が終了するUNSMISに関して、「その日までに顕著な動きがなければ、現地での監視活動の危険が増している任務の延長はきわめて困難だろう」と述べた。
米国防総省のジョン・カービー報道官は、ロシア側の主張に対して、「我々はシリアの反体制勢力に武器を供与していないし、今後も供与しない」と反論した。
**
フランスのロラン・ファビウス外務大臣は、記者会見で、国連憲章第7章に依拠してアナン特使の停戦案のアサド政権に迫るとの意思を表明した。
またアサド政権を「血と殺戮の体制」と形容し、その高官や支持者への制裁強化の意思を示した。
**
中国外交部報道官は、「シリア情勢の進展に激しい懸念を感じる」と述べ、同国情勢が「臨界点」に達しつつあると警鐘をならした。
**
NATOのアナス・フォー・ラスムセン事務局長は訪問先のオーストラリアでシリアへの軍事介入に関して「正しい方法ではないだろう」と述べ、改めて拒否の姿勢を示しつつ、シリア情勢や国連安保理の対応に遺憾の意を示した。
**
英国のアリスター・バート中東問題担当大臣は、訪問先のバーレーンで『ハヤート』(6月14日付)に対して、ロシアが提唱している国際会議に関して、アサド政権を支援するイランが参加することは相応しくないとの見解を示した。
**
イスラエル副首相はシリア情勢に関して、「現段階において、化学兵器はシリア政府の管理下にあるが、アル=カーイダがおり、我々は事態を注視している」と述べた。
**
トルコ外務省は、過去48時間で2,000人のシリア人がトルコ領内に避難したと発表した。
**
スイスの平和団体は同国議会に対して、軍離反者全員の亡命を認めるよう求めた。
AFP, June 13, 2012、Akhbar al-Sharq, June 13, 2012, June 14, 2012、AKI, June 13, 2012、The Daily Telegraph, June 13, 2012、al-Hayat, June 14, 2012、Kull-na Shurakaʼ, June 13, 2012, June 19, 2012、Naharnet.com, June 13, 2012、Reuters AFP, June 13, 2012、SANA, June 13, 2012などをもとに作成。
(C)青山弘之 All rights reserved.