OPCWはアサド政権による化学兵器使用を断定する報告書を公開(2020年4月8日)

化学兵器禁止機関(OPCW)は、シリアでの化学兵器使用疑惑事件にかかる調査識別チーム(IIT)の第1回報告書(82ページ)を技術事務局の覚書(S/1867/2020)として公開した。

調査報告書は、2017年3月24、25、30日にハマー県ラターミナ町で発生した事件に関してIITが行った調査結果をまとめたもの。

調査は2019年6月から2020年3月にかけて実施され、その間、事件発生時に現場にいたとされる人物へのインタビュー、現場で採取されたとされるサンプルや残骸の分析、犠牲者と医療スタッフが証言した症状の検証、衛星画像をはじめとする画像の検証、専門家からの意見聴取が行われた。

調査はまた、OPCWの事実調査団(FFM)がこれまでに作成・発表した報告書、シリア国内で技術事務局が直接入手したサンプルや資料にも依拠した。

その結果、IITは以下の通りの結論に達した:

●2017年3月24日午前6時頃、シリア軍第22航空部隊第50大隊に所属するSu-22戦闘機1機がシャイーラート航空基地(ヒムス県)を離陸し、サリンが装填されたM4000型の航空機搭載爆弾をラターミナ町南部に投下し、少なくとも16人に被害を与えた。
●2017年3月25日午後3時頃、ハマー航空基地(ハマー県)を離陸したシリア軍のヘリコプター1機がラターミナ病院にシリンダー1本を投下した。シリンダーは屋根を貫通し、病院内で破裂し、塩素が飛散、少なくとも30人に被害を与えた。
●2017年3月30日午前6時頃、シリア軍第22航空部隊第50大隊に所属するSu-22戦闘機1機がシャイーラート航空基地を離陸し、サリンが装填されたM4000型の航空機搭載爆弾をラターミナ町南部に投下し、少なくとも60人に被害を与えた。

なお、IITによる調査と報告書提出は、化学兵器禁止条約(CWC)加盟国で化学兵器が使用された場合、加害者、計画者、支援者などを特定すべきだとした2018年6月27日の加盟国会議(C-SS-4/DEC.3)での決定に基づき行われた。

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報告書に関して、フェルナンド・アリアスOPCW事務局長は以下の通り強調した。

「IITは個々の事件の実行犯を特定する権限を持った法的機関でも准法的機関でもないし、化学兵器禁止条約(CWC)の違反にかかる最終的な結論を出す権限も有していない…。適切且つ必要と判断されるさらなる行動をとるかどうかは、OPCWの執行理事会、締結国会議、国連事務総長、そして国際社会にかかっている」。

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一方、IITのコーディネータを務めるサンティアゴ・オナテ・ラボルデ氏は次の通り述べている。

「IITは、2017年3月24日と30日にラターミナ町でのサリンの化学兵器として使用、そして2017年3月25日の塩素の化学兵器の加害者がシリア空軍に所属する複数の個人であると信じるにたる合理的根拠があるとの結論に達した…。このような戦略的な性格を有する攻撃は、シリア軍司令部の上層からの命令に基づいてのみ行われ得たのだろう。権限は委任され得たものだったとしても、責任は免れない…。最終的に、IITはこれ以外の説得的な説明をすることはできなかった」。

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OPCWロシア常駐代表部は次のように批判のコメントを発表した。

「2017年に発生した事件でシリアを非難する専門家は、物的な証拠を収集・管理しつつ、事件を論理的に継続調査すると規定しているOPCWの活動の基本原則にあからさまに違反していたFFMの判断に依拠している」。

「FFMの報告書は信頼に値せず…、新たな報告書は事件現場を訪問することなく、遠隔で行われた調査、テロ組織やいわゆるホワイト・ヘルメットの証言に依拠している」。

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米国務省は声明を出し、「報告書はアサド政権が化学兵器を使用したことを示す最新の証拠」とコメントした。

AFP, April 8, 2020、ANHA, April 8, 2020、AP, April 8, 2020、al-Durar al-Shamiya, April 8, 2020、Reuters, April 8, 2020、SANA, April 8, 2020、SOHR, April 8, 2020、UPI, April 8, 2020などをもとに作成。

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ミドル・イースト・アイ:ムハンマドUAE皇太子はアサド大統領にイドリブ県での停戦破棄と攻撃再開を進言し、資金供与(2020年4月8日)

英国のミドル・イースト・アイ(4月8日付)はアラブ首長国連邦のムハンマド・ビン・ザーイド・アール・ナヒヤーン・アブダビ首長国皇太子が、アサド大統領にイドリブ県での停戦を破棄させ、同地への総攻撃を行わせようとしていたと伝えた。

シリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構が軍事・治安権限を握るイドリブ県を中心とするシリア北西部の反体制派支配地域では、3月5日にロシアのヴラジミール・プーチン大統領とトルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領の合意に基づき停戦が発効していた。

だが、この停戦が発効する数日前、ムハンマド皇太子は、シリアに国家安全保障評議会のアリー・シャームスィー副議長、皇太子の兄弟のタフヌーン・ビン・ムハンマド・アル・ナヒヤーン氏を派遣し、アサド大統領にイドリブ県で攻撃を再開するよう進言していたという。

ムハンマド皇太子の政策に精通しているという複数の情報筋によると、その際、イドリブ県に対する攻撃再開の見返りとして、シリア政府に総額で30億米ドルを支援し、そのうちの10億ドルを3月末までに供与することを合意、停戦が発効するまでに2億5000万ドルが支払われたという。

AFP, April 8, 2020、ANHA, April 8, 2020、AP, April 8, 2020、al-Durar al-Shamiya, April 8, 2020、Middle East Eye, April 8, 2020、Reuters, April 8, 2020、SANA, April 8, 2020、SOHR, April 8, 2020、UPI, April 8, 2020などをもとに作成。

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トルコ占領下のラッカ県タッル・アブヤド市で国民軍第3軍団が汚職容疑で拘束された司令官の釈放を求めて国民軍憲兵隊本部を包囲(2020年4月8日)

ラッカ県では、シリア人権監視団によると、トルコ占領下のタッル・アブヤド市で、トルコ軍の支援を受ける国民軍第3軍団のメンバーが、同じく国民軍の傘下にある憲兵隊本部を包囲した。

包囲は、憲兵隊が第3軍団の司令官1人を汚職容疑で拘束したことを受けたもの。

現場では銃声が何度か聞こえたが、死傷者は出ていないという。

AFP, April 8, 2020、ANHA, April 8, 2020、AP, April 8, 2020、al-Durar al-Shamiya, April 8, 2020、Reuters, April 8, 2020、SANA, April 8, 2020、SOHR, April 8, 2020、UPI, April 8, 2020などをもとに作成。

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トルコ占領下のアレッポ県各所で爆弾が爆発、1人が死亡、国民軍戦闘員1人らが負傷(2020年4月8日)

アレッポ県では、ANHA(4月8日付)によると、トルコ軍がシリア政府と北・東シリア自治局の共同統治下にあるタッル・リフアト市近郊のタッル・カッラーフ村、ウンム・フーシュ村、ハルバル村を砲撃した。

一方、トルコ占領下のバーブ市では、トルコの支援を受ける国民軍に所属するスルターン・ムラード師団のアブー・ワリード・イッザ司令官の弟で同師団メンバーでもあるアブー・ファイサル・イッザ氏の車に仕掛けられていた爆弾が爆発し、アブー・ファイサル氏が重傷を負った。

同じくトルコ占領下のアフリーン市でも燃料を積んだトラックに仕掛けらていた爆弾が爆発した。

さらに、シリア人権監視団によると、カフル・ナースィフ村で車に仕掛けられていた爆弾が爆発し、1人が死亡、2人が負傷した。

AFP, April 8, 2020、ANHA, April 8, 2020、AP, April 8, 2020、al-Durar al-Shamiya, April 8, 2020、Reuters, April 8, 2020、SANA, April 8, 2020、SOHR, April 8, 2020、UPI, April 8, 2020などをもとに作成。

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北・東シリア自治局はカーミシュリー国際空港での旅行者に新型コロナウイルス感染に係る検査を受けさせないシリア政府の非協力を批判(2020年4月8日)

北・東シリア自治局の保健委員会(保健省に相当)は声明を出し、シリア政府が新型コロナウイルス感染症対策に協力的ではないと非難した。

保健員会は声明のなかで「我々は予防対策として、カーミシュリー(国際)空港に到着する旅行者の健康を確認するため、彼らに必要な検査を行い、隔離場所に送ってきた。だが、シリア政府当局は、協力を望んでおらず、北・東シリア住民の声明を危険に晒すような誤った決定を行っている。自治局が承知せず、必要な検査を実施しないままに、民間人を我々の地域に入れている」としたうえで、「保健委員会は、我々の地域で感染者が出た場合、予防対策を遵守しなかったシリア政府当局の責任を追及する」と非難、自治局の対策に従うよう要請した。

ANHA(4月8日付)が伝えた。

AFP, April 8, 2020、ANHA, April 8, 2020、AP, April 8, 2020、al-Durar al-Shamiya, April 8, 2020、Reuters, April 8, 2020、SANA, April 8, 2020、SOHR, April 8, 2020、UPI, April 8, 2020などをもとに作成。

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保健省は新型コロナウイルス感染者1人が回復したと発表、反体制派系サイトはダマスカス郊外県の2町村が新たに閉鎖されたと主張(2020年4月8日)

保健省は新型コロナウイルス感染者1人が回復したことを明らかにした。

これにより、4月7日現在の同地での感染者数は計19人、うち死亡したのは2人、回復したのは4人となった。

SANA(4月8日付)が伝えた。

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国内通商消費者保護省のアリー・ハティーブ消費者保護局長は声明を出し、新型コロナウイルス感染症対策に伴う外出・移動制限に便乗した値上げ、買い占め、粗悪品の流通などを阻止するための監視活動を強化していると強調するとともに、3月だけでラッカ県とイドリブ県を除く13県で、6,824件の不正を摘発したと発表した。

SANA(4月8日付)が伝えた。

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ヒムス県では、SANA(4月8日付)によると、ヒムス市のバッル病院に、新型コロナウイルス感染者の治療・看護を行うための隔離病棟が新たに開設された。

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反体制派系のサウト・アースィマ(4月8日付)は、シリア政府当局が新型コロナ感染症対策として、ダマスカス郊外県のブワイダ町とフジャイラ村を「公式発表を控えたままで」封鎖したと伝えた。

封鎖の真偽は定かではない。

AFP, April 8, 2020、ANHA, April 8, 2020、AP, April 8, 2020、al-Durar al-Shamiya, April 8, 2020、Reuters, April 8, 2020、SANA, April 8, 2020、Sawt al-‘Asima, April 8, 2020、SOHR, April 8, 2020、UPI, April 8, 2020などをもとに作成。

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イドリブ県でロシア・トルコ軍合同パトロールが座り込みデモの妨害を受ける(2020年4月8日)

英国を拠点に活動する反体制派系NGOのシリア人権監視団によると、ロシア・トルコ首脳会談で合意された停戦が発効(3月5日深夜)してから34日目となる4月8日、シリア・ロシア軍、トルコ軍の爆撃は確認されなかった。

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ロシア国防省は声明を出し、過去24時間で「緊張緩和地帯設置にかかる覚書」への違反を確認しなかったと発表した。

トルコ側の監視チームも停戦違反を確認しなかった。

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イドリブ県では、シリア人権監視団によると、ロシア軍とトルコ軍がアレッポ市とラタキア市を結ぶM4高速道路で合同パトロールを実施したが、これに反対する座り込みデモの参加者に進行を妨害された。

両軍合同部隊はサラーキブ市からムサイビーン村に向かってパトロールを開始したが、タルナバ村近くでデモ参加者の投石を受け、パトロールを中止、サラーキブ市に引き返した。

これに関して、トルコのフルシ・アカル国防大臣は声明を出し「我々はイドリブ県でロシア軍との3度目となる合同パトロールを完了した」と発表し、パトロール継続の意思を示した。

アカル国防大臣はまた、イドリブ県内で多くの停戦違反があるとしつつも、こうした違反は「個人行動」であり、戦闘の収束状態は続いているとの見方を示した。
アナトリア通信(4月8日付)が伝えた。

ドゥラル・シャーミーヤ(4月8日付)によると、合同部隊はナイラブ村で座り込みデモの妨害を受けた。

一方、トルコ軍は、コンクリート・ブロックや兵站物資を積んだ貨物車輌30輌をカフル・ルースィーン村に違法に設置されている国境通行所からシリア領内に進入させた。

車列はM4高速道路沿線方面に向かった。

トルコ軍はまた、アリーハー市に新たな拠点を設置した。

これにより、シリア領内のトルコ軍監視所・拠点は59カ所となった。
(シリア人権監視団の計算だと57。なぜならサラーキブ市が3カ所のはずなのに、2カ所で計算されているため)

トルコ軍の監視所・拠点が設置されている場所は以下の通り:

監視所

イドリブ県:サルワ村、タッル・トゥーカーン村、サルマーン村、ジスル・シュグール市(イシュタブリク村)
アレッポ県:登塔者聖シメオン教会跡、シャイフ・アキール山、アナダーン山、アレッポ市ラーシディーン地区(南)、アイス村(アイス丘)
ハマー県:ムーリク市、シール・マガール村
ラタキア県:ザイトゥーナ村

拠点

イドリブ県:マアッル・ハッタート村、サラーキブ市(3カ所)、タルナバ村、ナイラブ村、クマイナース村、サルミーン市、タフタナーズ航空基地、マアーッラト・ナアサーン村、マアッラトミスリーン市、マストゥーマ軍事キャンプ、タルマーニーン村、バルダクリー村、ナフラヤー村、ムウタリム村、ブサンクール村(2カ所)、ナビー・アイユーブ丘、バザーブール村、ラーム・ハムダーン村、アブザムー町、ムシャイリファ村、タッル・ハッターブ村、ビダーマー町(2カ所)、ナージヤ村、ズアイニーヤ村(2カ所)、ガッサーニーヤ村、クファイル村、バクサルヤー村、フライカ村、バルナース村、アリーハー市
アレッポ県:アナダーン市、アレッポ市ラーシディーン地区、ジーナ村(2カ所)、カフル・カルミーン村、タワーマ村、第111中隊基地、アターリブ市、ダーラト・イッザ市、カフル・ヌーラーン村、バータブー村
ハマー県:ムガイル村

なおこのほかにも、トルコ軍はM4高速道路沿線に監視ポスト14カ所を設置している。

このほか、シリア軍が「決戦」作戦司令室の支配下にあるアーフィス村を砲撃した。

「決戦」作戦司令室は、シリアのアル=カーイダであるシャーム解放機構とトルコの庇護を受ける国民解放戦線(シリア国民軍)などからなる武装連合体。

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アレッポ県では、シリア人権監視団によると、シリア軍がカフル・ハラブ村、アターリブ市一帯で「決戦」作戦司令室と交戦した。

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ダルアー県では、シリア人権監視団によると、ジッリーン村で住民1人がオートバイに乗った2人組の武装集団に撃たれて死亡した。

AFP, April 8, 2020、Anadolu Ajansı, April 8, 2020、ANHA, April 8, 2020、AP, April 8, 2020、al-Durar al-Shamiya, April 8, 2020、Ministry of Defence of the Russian Federation, April 8, 2020、Reuters, April 8, 2020、SANA, April 8, 2020、SOHR, April 8, 2020、UPI, April 8, 2020などをもとに作成。

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ロシア難民受入移送居住センター:難民・国内避難民(IDPs)の帰還なし(2020年4月8日)

ロシア国防省は、合同調整センター所轄の難民受入移送居住センターの日報(4月8日付)を公開し、4月7日に帰還した難民はいなかったと発表した。

2018年7月18日以降に帰国したシリア難民の数は577,853人。

内訳は、レバノンからの帰還者182,605人(うち女性55,179人、子ども93,427人、ザムラーニー国境通行所、ジュダイダト・ヤーブース国境通行所、ダブスィーヤ国境通行所、クサイル国境通行所、タッルカルフ国境通行所を経由して帰国)、ヨルダンからの帰国者395,248人(うち女性118,618人、子ども201,569人、ナスィーブ国境通行所を経由して帰国)。

43カ国で難民登録したシリア人の数は6,715,172人。

なお、ロシアがシリア領内で航空作戦を開始した2015年9月30日以降に帰国した難民の数は807,133人(うち女性242,455人、子供411,918人)。

Ministry of Defence of the Russian Federation, April 8, 2020をもとに作成。

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