シリア国民ブロックが正式に発足:シリアの領土防衛と占領地解放、さらにすべての政治的・宗教的信条に対して中立を貫く分権的な市民国家の実現を標ぼう(2025年9月10日)

「シリア国民ブロック」を名乗る反政府組織が正式に発足を発表し、シリアの領土防衛と占領地解放、さらにすべての政治的・宗教的信条に対して中立を貫く市民国家の実現といった主要原則を掲げた。

発足発表はオンライン形式でで行われ、連絡委員会のメンバーとなった人権活動家のハイサム・マンナーウ氏、シリア民族社会党の幹部のターリク・アフマド氏、女性活動家のフランスィース・タンヌース氏が登場した。

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発足声明は、同組織の連絡委員会メンバーであるハイサム・マンナーア氏によって発表された。

声明は、シリア革命においてもっとも重要であるべき市民運動が、ここ数ヵ月のうちに、すなわちアサド政権崩壊とシャルア移行期政権の成立以降、野心的な諸国の軍事化や宗派化を通じた介入によって打撃を受けたと指摘、「シオニスト政体」(イスラエル)とトルコが国土の一部を占領下に置いていることを厳しく非難した。

また、2023年10月以降続くガザ地区をめぐる戦争が、力関係や敵味方の構図を変えたことに言及しつつ、こうした状況下において、新たな支配、つまりはシャルア移行期政権が、専制と腐敗の複製に過ぎず、国を困難な状況に陥れているとの見方を示した。

そのうえで、独裁の再生産に終止符を打ち、古くて新しい衣をまとった独裁の継続を拒否し、これを破壊することを呼び掛けた。

また、眠りから立ち上がり、真の自由と尊厳のため、完全かつ平等な市民国家を建設することを主唱、国民統合を守り、政治的・民主的多元性のもとで、言論の自由、思想の自由、自然権を求めると標榜し、政治・経済・社会・行政において包括的で統合的なプロジェクトを追求し、参加型の民主政体を実現し、主権在民と社会的公正を結びつけ、尊厳ある生活を目指すと表明した。

加えて、シリア国民ブロックは、「サイレント・マジョリティ」ではなく、「物言う多数派」となり、「宗教は神のもの、祖国は万人のもの」をスローガンと掲げることで、市民的・平和的な運動体として、国が一色に塗りつぶされることを防ぎ、すべての宗教的・政治的信条を包含した分権国家を目指すと強調した。

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続いて、アフマドが、シリア国民ブロックに参加するすべての個人、組織が遵守すべき以下三つの基本原則を発表した。

  • シリアの地理的・政治的一体性および不可分性。
  • 法の支配、人間の尊厳と国民の意思の尊重に基づく共和政体の採用。
  • 自由で、公正で、連帯した社会を築くことへの献身。

これらの基本原則は、「憲法を超越した原則」として位置づけられた。

また、この原則に基づいて、以下が具体的な実現目標として示された。

  • 占領地の解放と外国の侵略に対する国土の防衛。
  • 性別、肌の色、宗教、人種、財産、政治的あるいは党派的帰属にかかわらず、権利と義務において平等であること。
  • 主権在民と、これに基づいた自由かつ民主的な意見表明と為政者の選出。
  • 議会選挙法を制定し、シリアを一つの選挙区とし、比例代表制に基づく閉鎖名簿での立候補・投票を行うこと。
  • すべての公的権力に対して、憲法および国家が批准した国際的協約に含まれる基本的権利と自由を尊重することを義務づけること。
  • 軍、武装部隊、警察、治安機関を政治生活において中立的な機関とすること。
  • 兵役義務を、憲法で定められた一定の期間のうちに履行すること。
  • 司法の独立。
  • 憲法に基づいた三権の分立、権限の再配分。
  • 最高憲法裁判所の設立。
  • 憲法における報道の自由の明記。
  • 女性の権利の完全保障。
  • 社会的正義および国家資源の公平な分配。
  • 信仰の自由、良心の自由、思想の自由、表現の自由、私生活の不可侵の尊重。
  • 宗教や信条を他者に明かすことを強いないこと。
  • 国際的規約と世界人権宣言に従った人権の保護。
  • 許可を得ることを条件としないかたちでの平和的集会の権利の保障。
  • 国連憲章に基づいた民族・エスニック集団の文化的・言語的権利の保障。
  • 宗派的・人種的な煽動を犯罪とし、共生と国民的結束を確立・強化すること。
  • 憲法に政党を設立する権利を盛り込むこと。
  • 宗教・宗派的、部族的、地域的、職業的、性別や出自、人種、肌の色による差別に基づいた政党の設立を認めないこと。
  • 憲法に市民社会団体に参加する権利を盛り込みつつ、それが国家機関や政党と有機的に結びつくことを許さないこと。
  • 憲法に最高選挙委員会、視聴覚メディア庁、国家人権庁、復興・持続開発庁、透明性腐敗防止庁、移行期正義・公正・被害回復庁の設置を盛り込むこと。
  • 憲法にシリア領土と社会の一体性のもと、国家の非中央集権の原則を盛り込むこと。
  • 地方当局の独立を保障し、分権的な方法で統治を行うこと。

アフマドによると、これらの実現目標もまた、基本原則と同じく、「憲法を超越した原則」とみなされ、憲法制定委員会によって起草される憲法草案に盛り込まれ、国民投票によって承認された後は、修正や廃止ができないとされた。

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最後に、タンヌースが「国民的・民主的・市民的・近代的な国家を建設するための名誉憲章」を読み上げた。

憲章は、「宗教はアッラーのもの、祖国は万人のもの」という原則に基づき、国家のあらゆる宗教や信条に対する中立性、そしてシリア領土と国民の一体性に基づくもので、領土占領を拒否し、抵抗することを強調した。

また、民主主義は新たな体制の核心と位置づけ、主権在民、意見・表現・結社の自由、多元主義、市民権、人権、社会正義、三権分立、法の遵守、社会の多様性の尊重、思想信条、利益、あらゆる階層の特性の尊重を保障すると定めた。

さらに、シリア国民を、分かつことのできない一つの国民と位置づけ、人種や社会階層を問わず、友愛的で積極的で同胞的な交流と協力を、物心両面で推奨することが求められた。そして、いかなる宗派や民族的集団に対しても差別的・排除的・不公正な政策を行わず、容認しないことを確認した。

加えて、国内の政治、社会生活における暴力(武器の使用)と権利の侵害を容認しないと明言した。

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『アフバール』によると、シリア国民ブロックは、発表前に長い時間を準備が行われ、さまざまな勢力の間で受け入れ可能な妥協点を見出す努力が行われていたという。

ブロックの内部関係者が明らかにしたところによると、すでに多くの層や地域、人物から支持を得ており、その中には部族長、実業家、政治家などが含まれており、当初は匿名で支援することを選んだ者もいるという。

匿名を希望する者がいる理由について、連絡委員会のメンバーの1人であるラーミヤ・イブラーヒーム氏は、『アフバール』に対して以下の通り述べた。

ブロックは、政治勢力や政党、市民社会、国内外の影響力ある国民的人物を含んでいる。しかし、現在の国内状況、ダマスカス当局による党活動や政治活動の禁止と治安の締め付け、そして国内の仲間たちを守るために、ブロックは国外から設立を発表し、活動を運営する決定を下した。私たちが目指すものを実現する時まで、国内での活動は公表されず、最終的にはシリア国内で、公然と、誰も排除しない自由な政治環境のもとで活動することを望んでいる。

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