国連のシリアに関する独立国際調査委員会のピネイロ委員長:繰り返される暴力の発作的噴出が、シリアに根深く残る暴力の連鎖を断ち切る暫定当局の能力に対する楽観を弱めている(2025年10月30日)

国連のシリアに関する独立国際調査委員会のパウロ・ピネイロ委員長は第80回国連総会第3委員会で演説を行った。

国連人権高等弁務官(公式サイト)によると、ピネイロ委員長の主な発言は以下の通り。

6月にはラタキアとタルトゥースへの現地調査を実施し、最近ではスワイダー市およびその周辺地域を訪問した。
政府が国家再建に向けて取った前向きな措置にもかかわらず、繰り返される暴力の発作的噴出が、シリアに根深く残る暴力の連鎖を断ち切る暫定当局の能力に対する楽観を弱めている。
2025年3月には、ラタキア、タルトゥース、ハマー各県で、男女および1歳の乳児を含む約1,400人が虐殺により死亡した。
その中には暫定政権の治安部隊員による殺害も含まれている。
武装勢力の一部は、自らの行為を撮影し、処刑や焼死体のそばを歩く映像をネット上に投稿した。
処刑前、犠牲者はアラウィー派を侮辱する言葉での人格を貶める罵倒を受けた。
この事件により数万人がレバノンへ避難し、長期的な強制移住の懸念が高まっている。
また、ダマスカス県や西部の各県では、アラウィー派市民に対する違法な処刑、拷問、不当拘禁、強制移送が続いているとの報告を受け続けている。
委員会の調査チームはスワイダー市およびその農村部を訪問し、7月の暴力により壊滅的な被害を受けた地域を確認、被害者、遺族、生存者、目撃者から証言を得た。
スワイダーおよびその西部のドゥルーズ派地域では、数十の村がほぼ全滅状態となり、焼き払われ、住民は略奪によって追い出された。
殺害された者の多くの遺体は未だ見つかっておらず、数百人規模の行方不明者が出ている。
委員会は、家族が自宅から連れ去られ虐殺された事例について、数多くの証言を得た。
ドゥルーズ派・ベドウィン双方の避難民の人道的支援の必要性は極めて大きく、冬の到来を前に緊急の行動が求められています。
7月の事件がもたらした傷は物理的なものだけでなく、コミュニティと暫定政権との間の深刻な不信感を拡大させた。
この信頼を回復し、加害者を訴追し、再発防止のための制度改革を行うことが急務である。
3月の沿岸地域での虐殺後、インターネット上や現場でのヘイトスピーチの拡大が確認されている。
委員会は、迅速な行動が取られなければ、さらなる暴力の舞台が整いつつあると強い懸念を表明する。
前進の道は、3月と7月の事件を含むすべての暴力行為に対する真摯で透明な説明責任から始まる。
暫定政権発足以降に起きた「知られざる人権侵害」にも同様の責任追及が必要だ。
信頼の危機が高まるなかでも、多くの地域住民は隣人関係と平和的共存への願いを口にしている。
信頼を再構築するためには、対話、包摂、そしてすべての被害者への正義が不可欠である。
女性と少女に対する暴力・差別の増加が憂慮されている。
正体不明の武装勢力による誘拐・性的暴行・強制結婚が複数報告されている。
多くの家族は、行方不明を当局に届け出ても、調査も対応も行われていないと訴えている。
北東シリアでは、アレッポ市内およびティシュリーン・ダム付近で10月初旬に衝突が発生し、緊張が続いている。
さらなる激化を防ぐための即時行動が求められている。
2024年12月、イスラエルが南シリアに進攻した。
その後、民間人の強制移送・恣意的拘禁が行われ、ダマスカスなどへの爆撃も継続しており、民間人犠牲者の報告もある。
委員会は加盟国に対し、イスラエルによるこのような行動を阻止するよう要請する。
第三国の介入は、紛争をさらに悪化させ、シリア国民にいっそうの苦難をもたらす危険がある。

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