在レバノン・シリア大使館前で「拉致」されたとされる元反体制武装集団司令官らはいずれもダルアー県からの不法入国者で、シリア当局ではなくレバノン当局が拘束(2021年8月28日)

在レバノン・シリア大使館前でシリアの反体制武装集団元司令官らが拉致・連行されたとの情報が拡散されるなか、レバノンの軍事情報局は声明を出し、シリアからレバノンに不法入国したシリア人T.H.と’A.D.の2人の身柄を総合情報総局に引き渡したと発表した。

インディペンデント・アラビーヤ(8月28日付)によると、軍事情報局はまた、シリア大使館があるヤルザ村(レバノン山地県)とバアブダー市(レバノン山地県)で密輸業者の仲介でシリアからレバノンに不法入国したシリア人M.’A.W.、M.S.W、A.’A.、I.Sh.の4人を逮捕している。

国際人権法を専門とするシンクタンクのLIFE研究所(レバノン民主主義人権研究所)のナビール・ハラビー所長によると、レバノン国内でのシリア人活動家の拘束は今週に入ってたびたび報告されているとしたうえで、拘束されているのはいずれもダルアー県からの不法入国者で、武装解除を拒否し、ダルアー市ダルアー・バラド地区で籠城を続ける元反体制武装集団メンバーと、これを包囲するシリア軍の対立が激化していることが関係しているという。

なお、アリー・アブドゥルカリーム在レバノン・シリア大使は一連の報道を否定している。

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ハラビー・LIFE研究所所長によると、シリアの元反体制武装集団司令官のファーイズ・ハッジーらがヤルザ村(レバノン山地県)の在レバノン・シリア大使館近くで「治安グループ」によって拘束され、レバノンの軍事情報局のテロ撲滅課に引き渡されたとの情報を得たことを明らかにした。

レバノンの当局が、ハッジー氏の身柄をシリア政府側に引き渡したかどうかは不明だという。

ハッジー氏は、ダマスカス郊外県グータ地方で活動していたアバービール軍の司令官だった人物。

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ハッジー氏については、レバノンのターリク・シャンダブ弁護士は8月25日、フェイスブックのアカウント(https://www.facebook.com/tarekchendeb/)で、数日前にパスポートを取得するためにシリア大使館を訪れた直後に、「大使館の制服」を着た複数の男性によって拘束、連行されたと発表していた。

また、レバノンのムドゥン(8月28日付)は、8月27日に在レバノン・シリア大使館で4人の若者(イブラーヒーム・マージド・シャムリー氏、ムハンマド・サイード・ワーキド氏、ムハンマド・アブドゥルイラーフ・スライマーン氏、アフマド・ズィヤード・イード氏)が拉致されたと伝えていた。

反体制系のオリエント・ニュース(8月26日付)は、在レバノン・シリア大使館前で、反体制派の元司令官複数人が「拉致」されたと伝える一方で、ハッジー氏が「レバノンの総合情報総局によって逮捕された」、「逮捕は、彼の活動ではなく、レバノン国内の事件にかかわっている」とする地元消息筋の話も紹介していた。

AFP, August 28, 2021、ANHA, August 28, 2021、al-Durar al-Shamiya, August 28, 2021、Independent Arabia, August 28, 2021、al-Mudun, August 28, 2021、Orient News, August 26, 2021、Reuters, August 28, 2021、SANA, August 28, 2021、SOHR, August 28, 2021などをもとに作成。

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