アサド大統領は、ロシアのズヴェズダ・テレビのインタビューに応じる:「米国の政策はクーデタ、暗殺、戦争に基づく政策だ。トランプが私を暗殺すると言ったことは驚くことでも新しいことでもない」(2020年10月4日)

アサド大統領は、ロシアのズヴェズダ(星)・テレビ(10月4日付)のインタビューに応じた。

インタビューは、ロシア軍によるシリアでの航空作戦開始(2015年9月30日)から5年が経ったのに合わせたもので、通訳を介してアラビア語で行われ、その映像はズヴェズダ・テレビで放映されるとともに、大統領府がYouTubeの公式アカウント(https://www.youtube.com/watch?v=cyihcPbuf80)を通じて公開するとともに、SANAがアラビア語全文(http://sana.sy/?p=1230485)を公開した。

インタビューでのアサド大統領の主な発言は以下の通り。

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当時(2015年9月)の状況を約言すると…、テロリストがシリア各所に進軍し、米国、フランス、英国、カタール、サウジアラビアの直接支援を受けて複数の都市を占領していた。加えて、西側諸国、西側の間接的な支援があった。シリアの状況は深刻だった。2014年にダーイシュ(イスラーム国)が登場し、シリアの砂漠地帯を広範に占領したのを受けて、我々とロシアの軍・政治指導部との間で議論が行われた。もちろん、我々はさまざまな理由で支援を望んでいた。第1の理由は、シリアが政治的に重要な位置にあり、この地域(シリア)で麻痺が生じれば、中東全体、そしてそれ以外の地域に波及するからだ。シリアをめぐる紛争は、その重要性ゆえに、先史以来続いており、新しいものではない。もう一つの理由は、シリアが戦っているテロが、2004年のベスラン学校占拠事件と同じテロ…世界規模のテロだったからだ。シリアでこうしたテロを撲滅することは、第1にロシアの国益に繋がり、第2に安定を維持することで、ロシアを含む世界の国々の利益になる。

間違いなく、ロシア軍は技術面で非常に進歩している軍だ…。別の側面を言うと、あらゆる意味でプロの軍隊だ。標的を正確に狙い、目的を実行するために計画する…。我々が直接やりとりしたロシア軍の将兵は、絶え間なく働いていた…。もちろん、ロシア軍はシリア領内で犠牲を払い、戦死者を出した。

一方、(ロシアの)国防省は…高い信頼を揺るぎないものとした。高い透明性、明確さ、誠実さをもって国防省が示してくれたこれほどの高い信頼があったとしても、二つの国の軍が合同でこうした軍事的任務を実行することは困難だった…。要約すると、これが過去5年間にシリア軍がロシア軍と関わるなかで持った印象だ。

間違いなく、ロシア軍には様々な経験がある…。伝統的な戦争に加えて、非伝統的なチェチェンの戦争での経験などがある…。この戦争では、外国が、ロシアを弱体化、そしておそらくは分断しようとして支援を行った。そこにはテロ集団が、スリーパー・セルとしてさまざまなかたちで登場した…。我々にも多様と言えるような経験がある。1970年代後半から1980年代始めにかけて、我々はテロと戦うという経験をした。それは過激なテロ集団との戦いだった。だが、この戦争は、チェチェンの戦争に近かった…。外国の支援があり、軍隊というよりは、スリーパー・セルによる非伝統的な戦争だった…。

過去5年間におけるテロリストについて考えてみよう。彼らは、我々やあなた方の経験とは異なる方法を発展させた。だが、我々とあなた方、つまり、シリア・ロシア両軍にも、テロに対処するなかで学んだ教訓があった。テロは止んではいないが、それは軍事面で貴重な経験だったと言えよう。

シリアの戦争における重要な分岐点は…アレッポ市の戦闘だ。(アレッポ市の戦闘と第2次世界大戦中のスターリングラードの攻防戦の)比較はシリアの市民も行っている。なぜなら、アレッポ市は2年以上も包囲された。ほとんど時期、完全に封鎖されてしまっていた…。にもかかわらず、アレッポ市の住民は持ちこたえた。この比較において重要な点は、まずは、包囲、そして人民の不屈の精神のなかにある…。(スターリングラードの攻防戦の時と同じように)アレッポ市の住民に不屈の精神がなければ、軍が大規模な戦いを準備することはできなかった。偶然だが、別の比較もできる。それは、スターリングラードでは(ロシア)軍が西に向かって進軍を始め、第2次大戦の終了に至ったのに対して、アレッポ市でも、シリア軍は西に向かって進軍を始め、イドリブ県に向かって解放し続けていったということだ…。アレッポ市の戦いの後…、戦いにおいても、政治状況においても、それ以前とは同じではなくなったと考えている。

シリアにおけるロシア軍の役割は…二つの点から発している。一つ目はテロとの戦いだ。我々はそれを国際テロリズムと呼んでいる。それにはいずれ終わりが来る…。このテロの後には何が来るだろう? ここにロシア軍が世界において果たすもう一つの役割がある。我々は今日、国際法の庇護のもとではなく、国際社会というジャングルのなかに暮らしている…。四半世紀にわたり国際的なバランスは存在しない…。こうしたバランスを実現するため、政治的にも軍事的にもロシアの役割が必要であり、軍事的な側面において、(フマイミーム航空基地やタルトゥース海軍基地などの)基地がなければならない…。世界のほとんどの国にとって、こうした国際的なバランスは有益なものとなるだろう。

トランプ大統領の発言(ドナルド・トランプ米大統領が2017年にアサド大統領の暗殺について言及していたことについて)驚くほどのことも、真新しいことでもない。なぜなら、米国の政策は、冷戦開始、つまり第2次大戦の終わりから現代にいたるまで、覇権をめざすものだからだ。それはクーデタ、暗殺、戦争に基づく政策だ。当然のことだ。トランプは新しいことは言っていない…。米国の政官は…民主主義、人権などといった美しい仮面で自らを隠してきた。これに対して、トランプは率直に「自分たちがやっているのはこうしたことだ」と言っている。トランプがそうした言葉を口にしなくとも、我々は、こうした言葉が彼らの政策や思考の一部をなしていることを知っている。米国はパートナーを認めない。西側諸国を含めて独立国を認めない。西側諸国は米国に従属しているのであって、パートナーではない。独立もしていない…。米国は独立した大国であるロシアさえも認めない…。ロシアを独立国として認めないのであれば、小国のシリアを独立国として認めるだろうか? これが米国人の問題だ。彼らは自国の国益のために働いたり、自らを尊敬したり、国として独自の決定を下すいかなる人間も受け入れない。

(反体制派との)交渉を前進させ、何かを達成するため、ロシアとイランが重要な役割を担っている…。交渉には長い時間を要するからだ。だが、率直に言おう。我々が「反体制派」と呼ぶ相手について言うと、あなた方ロシアにも反体制派がいると思うが、反体制派とは愛国的で、ロシア出身で、ロシアの一部を代表していることが前提となる。だが、外国の諜報機関とつながりがある反体制派は…反体制派とは呼べない。なぜなら、反体制派は愛国主義と結びついていなければならないからだ。

交渉で起きていることについていうと、シリア政府が支援する当事者がおり、政府の立場を表明している。しかし、もう一方の当事者はトルコによって選ばれており、シリアの当事者ではない。トルコ、そしてその背後にいる米国などには、今のところ(制憲)委員会が真の結果に至ることの利益はない。なぜなら、これらの国々は求めているものは、国家の弱体化、解体をもたらすことだからだ…。我々はこうしたことは受け入れない。シリアの安定に抵触することをめぐって交渉はしない。だから、この交渉が何らかの結果にいたることを我々が実際にめざそうとすれば、すべての人々が、階層、政治的帰属のいかんにかかわらず、シリア国民が欲するものに回帰せねばならない。今後のラウンドではこのことがこれまで以上に明らかになると思っている。シリア人どうしの対話は成功するだろう。外国の干渉があれば、交渉は成功し得ない。

2018以前は、どんな市民でも死ぬ可能性はあった…。だが、人間は、こうした状況であっても適応し得る正確も持っているのだと思う…。だから、ダマスカスでも生活は続いたし、私も、一個人として、毎日執務に就いていた…。それ以外に選択肢はなかった。逃げ隠れすることはあり得ない。さもなければ、テロリストが目的を達成してしまっていた。

我々の運命はテロと背中合わせだ。私が生まれる前、そしてほとんどのシリア人が生まれる前からの運命だ…。たとえ、我々がこのテロに勝利しても、再び発生し得ると考えておかなければならない…。西側が存在する限り、植民地主義の歴史が再来するかもしれない。覇権主義が続く限り、こうしたテロはかたちを変えて再生するかもしれない。現実的に考えねばならない…。それを根絶したとしても、別のかたちで登場するかもしれいない、と。あから、我々にとっての戦いとは、テロリスト個々人に対する戦いである以前に、テロ思想との戦いなのだ。

イデオロギー戦争は軍事的な戦争より困難で、長い時間を要する。

AFP, October 4, 2020、ANHA, October 4, 2020、al-Durar al-Shamiya, October 4, 2020、Reuters, October 4, 2020、SANA, October 4, 2020、SOHR, October 4, 2020、Zverda News, October 4, 2020などをもとに作成。

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