3月に沿岸部などで発生したアラウィー派らに対する殺戮、略奪などの事件の真相究明を目的とする独立調査国民委員会は記者会見で最終報告書にかかる声明を発表:人権侵害に関与した298人の容疑者の実名を把握(2025年7月22日)

SANAによると、3月に沿岸部などで発生したアラウィー派らに対する殺戮、略奪などの事件の真相究明を目的とする独立調査国民委員会は首都ダマスカスで記者会見を開き、調査の最終報告書にかかる声明を発表し、委員会の活動は正義の実現、加害者への処罰、被害者の権利回復、そして真実究明という目的に向けた起点で、国家の安定と市民の和解を推進するものだと強調した。

記者会見のなかで、委員会の委員長を務めるジュムア・アンズィー判事と報道官を務めるヤースィル・ファルハーン弁護士は、調査委員会の活動方法、事実確認の手順、得られた成果と提言について説明、法的および専門的な基準を遵守し、政府機関や国際機関と連携した緻密な手法に基づいて作業を行ったことを強調した。

会見冒頭では、大統領への最終報告書の提出が遅れた理由について、シリア南部で発生した最近の出来事のためだと冒頭で説明した。

そのうえで、ファルハーン弁護士が声明を読み上げた。

声明の内容は以下の通り。

本調査は政府のイニシアティブのもとに開始され、真実の追求と正義の促進に対する政府と委員会の信念に基づいて実施された。今回の記者会見で発表される内容は、調査結果の概要として広く共有が可能であり、報告書のそれ以外の内容については、司法、治安、軍事、政治といった側面に照らして、今後の取り扱いを大統領府が決定する予定である。
委員会は、モニタリング、事実確認、調査に取り組み、その地理的範囲はラタキア、タルトゥース、ハマー各県に及び、3月初旬に発生した一連の事件の発生の背景や状況、民間人に対する人権侵害、政府機関・治安部隊・軍への攻撃などを対象とし、これらの事件の責任者を特定し、関与が確認された者を司法機関に送致することを目指して調査を行った。
委員会は、国民、とりわけ女性とも直接およびメディアを通じて透明性をもって連絡を取り、地域社会の各層、市民団体、専門職組合の代表、そして多くの知識人、有識者、地域の名士などとの面談や対話を実施した。
委員会は、33ヵ所の現場を訪問し、事件現場を視察、複数の埋葬地や墓地を調査した。
視察には、地域のムフタール(村長)、宗教指導者、被害者家族の代表者らが立ち会い、現地では、各町村で数十人と面会し、家族の証言者から個別に話を聞いた。委員会は合計938件の証言を記録しており、そのうち452件は殺人事件に関するもの、486件は武装強盗、窃盗、住宅・商店の放火、または拷問に関するものであった。
証言の記録作業において、被害を受けたアラウィー派の女性法務補助官7人を参加させ、また被害者家族の女性3人がラサーファ地方での聴取に同行した。
委員会はまた、政府関係者23人から説明・証言を聴取し、拘束中の容疑者に対する尋問を行ったうえで、関与が確認された者を司法に送致するための必要な措置を講じた。
委員会は、国連の関係機関とも集中的な協議を行った。これには、国連人道問題担当事務次長補、シリア問題に関する国際調査委員会の委員長や委員・スタッフ、国連人権高等弁務官事務所、シリア担当国連特使事務所とのハイレベルの会合も含まれている。さらに、ヒューマン・ライツ・ウォッチ、アムネスティ・インターナショナルとも会合・書簡を交わし、調査における最善の手法、基準、手続きについて意見交換を行った。
委員会はその活動を通じて、委員会の規則および職務権限に明記された法的手続きと基準を厳格に遵守し、独立性、公平性、客観性、専門性、一貫性、透明性、被害の回避、機密保持を確保する原則を維持してきた。また、証人の個人情報の秘匿を希望する者に対しては、保護措置を講じて対応した。
治安上の課題や委員会活動地域において「残党」が残存する危険な状況にもかかわらず、委員会は現場での任務遂行を継続し、事件現場や証人居住地への十分なアクセスを確保した。このような取り組みにより、委員会は被害者家族および国際的関係機関の双方から相当程度の信頼を得るに至った。
「残党」については、「旧アサド体制に属していた組織的な武装集団の残存勢力で、国家の法秩序と正統性に反する存在」と定義した。委員会の調査結果は、あくまでも明白な証拠に基づく法廷の判決とは異なり、「嫌疑」に基づくものである。したがって、関係者への損害を避けるため、容疑者の氏名は公表せず、付属の報告書資料に表形式で整理した。また、身元の露見を恐れる一部証人の氏名についても秘匿されている。
委員会は、情報、文書、報告書、証言、状況証拠、物的およびデジタル証拠を精査し、そして委員が4ヵ月にわたって得た確信に基づいて、結論を導出した。
アサド政権からの解放以後、今年3月初旬に至るまでの間、沿岸地域および全国的に比較的平穏な状況が支配しており、治安機関や政府軍の要員の行動にも、民間人保護に関する国家の方針と指示を守る形で一定の規律と責任が見られた。国家の安定と市民との和解を維持する努力も確認された。しかし、大規模な無秩序や報復的暴力は発生しなかったものの、複数の地域において民間人への人権侵害や政府軍への敵対行為が散見された。
2025年3月6日に「残党」が広範囲にわたって敵対的作戦を実行、彼らは重火器、中火器、小火器を用いて、軍および治安機関の施設、検問所、パトロール部隊を襲撃し、主要幹線道路を遮断した。
これらの攻撃により、ラタキア、タルトゥース、ハマー各県で治安部隊と軍の若い構成員238人が殺害された。その一部は、地域の有力者を通じた交渉の結果武装解除した後に殺害され、一部は治療中、あるいは捕虜として拘束された状態で殺害された。これらの犠牲者の一部は、「残党」によって集団墓地に遺棄された。
「残党」はさらに、幹線道路や病院を標的に攻撃し、6ヵ所の病院を機能停止に追い込んだ。委員会が入手した情報によると、複数のスンナ派市民も殺害されたが、証拠の基準を満たす情報が収集できず、被害者の個別情報には記録しなかった。
被害者家族や地元住民、政府職員の証言、拘束された容疑者の尋問記録、デジタル証拠や状況証拠などを総合的に分析した結果、委員会は265人の容疑者を特定した。彼らは、「残党」、すなわち旧アサド体制と関係のある違法な武装反乱グループに所属していたとされる。
委員会は、これらの人物について、以下のような重大な犯罪や人権侵害への関与の合理的な嫌疑があると判断している——宗派的な侮辱や侮辱、武装強盗、拷問、公務中の職員の殺害および遺体の損壊、民間人の殺害、宗派対立の扇動、そしてシリア国家領域の一部を国家主権から切り離そうとした行為。これらは、1949年に制定された刑法第148号および1950年の軍刑法第61号の適用対象となる重罪である。
事件発生当時およびその後に、「残党」勢力が都市、町、村落、道路の全域または一部を掌握し、政府関連施設を包囲するかたちで実効支配下に置いた。彼らの目的は、シリア西部の沿岸地域を国家から分離し、「アラウィー国家」を建設することにあった。そのための計画、資金、訓練、実行は、縦横の指揮系統をもつ組織的ネットワークによって行われていた。
「残党」による大規模な攻撃の後、政府軍、各種部隊、その他の武装勢力が出動し、それに加えて自発的に結集した民衆の応援部隊やその他のグループも無秩序に前線へと押し寄せた。これにより、国際幹線道路は「残党」支配地域の奪還を目指す武装勢力20万人以上で埋め尽くされた。
3月7日未明、「残党」は道路沿いの高地にあるいくつかの村落から軍の車列、自発的に参集した部隊、通過中の民間車両を武器で攻撃し、軍人や民間人に多数の死傷者が出た。この攻撃により、現場の混乱はさらに拡大し、政府軍は秩序回復のため道路の再開に向けた部隊を編成せざるを得なくなった。
3月7日朝から、さまざまな武装勢力が複数の村や町の住宅地に進入し始めた。委員会の調査によれば、住民は継続的な家宅捜索を受け、その一部は規律あるものであったが、一部は無秩序かつ乱暴なものであった。
委員会は、治安部隊の行動に対して住民の間でおおむね肯定的な反応があったことを確認したが、その一方で、3月7日から9日にかけて民間人に対して、広範囲に及ぶ重大な人権侵害が発生した。これには複数の殺人事件、計画的な殺害、財産の略奪、住宅の破壊や放火、さらには拷問や宗派的侮辱行為が含まれていた。
委員会は、主に遺族からの証言、墓地および埋葬地の現地調査記録、そして必要に応じて政府機関、法医学部門、赤新月社、民間防衛機構(ホワイト・ヘルメット)から提供されたリストとの照合を通じて、1,426人の死亡者の氏名を確認した。このうち90人が女性で、その他の大多数は民間人で、一部には当局との和解手続きを経た元軍人も含まれていた。
死亡者の中に「残党」の構成員が一部含まれている可能性を排除しないものの、大半の殺害事件は軍事衝突中ではなく、戦闘終了後またはそれ以降に発生したと見ている。また、公開情報から追加の死亡者数を確認したものの、それらの人物の名前は墓地リストや証言の中に見つからなかったため、信憑性の裏づけが取れず、記録には含めなかった。
一方で、委員会は行方不明者20人に関する情報も得ており、その中には民間人と政府軍関係者の両方が含まれていた。これらの情報については記録に記載した。
証言者の証言の中で、同じグループ内でも個人によって行動にばらつきがあったことが繰り返し語られた。ある者は残虐行為を行ったとする一方、別の者は礼儀正しく対応したと証言している。
これらの状況から、委員会は、人権侵害が広範囲に及んでいたものの、体系的・組織的なものではなく、動機の異なる多様な個人・集団によって引き起こされたものと考えている。その動機として、次のような背景が挙げられている:一部は武装組織の構成員であった。一部は無所属で自発的に行動し、小規模なグループを結成して行動した者たちで、旧アサド政権の復活や過去の残虐行為の再来を恐れたことから、自身の家族や国家を守る意識で行動した者だった。政府軍の包囲下にあった家族や子どもを救うために行動した者もいた。さらには、かつて家族を殺害・拷問・強姦したと信じる相手への報復として行動した者もいた。盗みや殺害を目的とした単なる犯罪集団も存在した。自らを政府関係者になりすまし、不正利益や名誉を得ようとした者もいた。地元に居住するジプシー(ロマ)系住民で、過去にアサド政権のシャッビーハと協力して(旧)反体制派に敵対した経歴を持つ者もいた。こうしたさまざまな動機を背景に、多様な行動が展開された。
一部の住民は、宗派に基づく侮辱的な言葉を浴びせられたり、「お前はアラウィー派か?」という問いかけを受けたりしたと報告されている。しかし、調査によって、委員会は、こうした宗派的動機の多くは、イデオロギーに基づくものではなく、報復感情に由来するものであるとの結論に至った。なぜなら、同地域に住む他宗派の住民や、周辺の地域に住むアラウィー派は、同様の人権侵害を受けていなかったからである。
なぜ特定の村々がこれほど凄惨な人権侵害を受けたのかを、アラウィー派が住む他の地域と比較しながら検証した結果、標的とされた村の多くが国際幹線道路に面していたこと、そして被害者家族の一部証言によると、「残党」がこれら地域を拠点として政府関係者への攻撃を行っていた事実が確認された。
委員会はまた、加害者の身元および背景の特定に注力し、被害者家族への聞き取りや事件関係者からの証言、デジタル証拠の精査、拘束者の尋問記録の確認を通じて調査を進めた。国防省も委員会の要請に応じ、委員会が提出した写真・映像資料に写る人物の身元特定に協力した。
これらの調査に加え、政府機関および地域社会・市民団体との面談・証言聴取・報告書・文書による連絡を通じて、委員会は298人の容疑者の実名を把握し、彼らが人権侵害に関与した疑いがあると結論づけた。
現在特定されている298人という容疑者の数はあくまで暫定的なものであり、調査の継続とともに変わる可能性がある。また、委員会が導いた結論は「明確な証拠」に基づくものではなく、「合理的な嫌疑」によるものであり、加害者の免責を防ぐ目的で、疑いのある者を広範にリストアップした。そのうえで、最終的な有罪・無罪の判断は司法機関の責任である。
委員会が把握している主な人権侵害の内容は以下の通りである:複数人に対する殺人、計画的な殺人、財産に対する強盗、家屋や商店の破壊・放火、拷問および宗派的侮辱、宗派対立の扇動、軍規違反。
これらはすべて、1949年の刑法第148号および1950年の軍刑法第61号に違反する行為である。
デジタル証拠の精査および国防省の積極的な協力により、特定の個人やグループが、軍内の一部派閥や部隊と関係しており、彼らが命令に違反して民間人に対する違法行為を行った疑いがあることが判明した。
委員会はまた、これらの行動における関係者の姿勢にばらつきがあったことも確認しており、多くの兵士や民兵の中において、民間人保護の責任を果たした者もいれば、そうでない者もいた。
さらに、各部隊への新規志願者の急増が、現場での混乱や統制不備の一因になった可能性がある。
委員会は、調査の中で、3月の事件の前後において、大統領、国防大臣、内務大臣が発出した命令や指示が、いずれも民間人保護と法令遵守に焦点を当てていたことを確認した。政府軍はおおむね高度な規律を保っていたと評価し得る。国家としても人権侵害の抑止に真剣に取り組んでいる。一部の加害者はすでに責任追及の手続きに移されており、他の容疑者についても、政府が委員会と連携して調査に協力している。
一方で、かつて民間人大量虐殺に関与した旧アサド政権の国軍が解体された結果、安全保障の空白を埋めるために民兵組織が国防省の枠組みに取り込まれたものの、その統合は形式的な側面が強く、統制や組織の整備が未完成であることも問題だった。
本報告書の対象期間中における国家の実効支配は、地域によって部分的、あるいは完全に欠如しており、国家はなお治安機関および軍の再建段階にある。これは、シリア国民に対する虐殺に関与した旧体制の抑圧的統治機構が完全に崩壊したことに起因している。また、その間に多くの個人やグループが無秩序に各種民兵に加わる現象も確認された。
委員会は、大統領によって本委員会が独立調査機関として設置され、その目的が真実の究明および加害者の責任追及と被害者の権利回復にあることが明示されたことについて、国家が人権侵害に対処する意思を示したものであると評価する。そして、委員会は政府機関の間で本委員会の独立性が尊重され、必要な情報提供にも誠実に応じたという実感を得た。
委員会は、その調査対象となる違法行為に適用される法的枠組みを検討した際、シリアが批准している国際条約との整合性を、憲法宣言の規定に基づいて国内法に反映させる必要があると認識した。そのためには、立法機関の構成を完了させる必要があり、実効的な責任追及に向けた具体的措置を進めるため、委員会は該当行為の法的性質を整理し、容疑者とみなされる者を国内の所管裁判所へ送致すべきだと結論づけた。
この判断に基づき、委員会は、報告書の第2項および第11項に詳細が記載されている暴力行為および人権侵害に関与したと疑われる者について、検察当局に対して2件の容疑者リストを提出した。
委員会による最終的な勧告は以下の通りである:
1. 調査に基づいて特定された人権侵害の容疑者とされる個人および集団に関して、関係当局が必要な調査および法的手続きを引き続き実施すること。
2. 武器管理プロジェクトを含む当該省の計画と措置を早急に実行し、民兵の実質的な統合を推進するとともに、5月30日付で国防省が発表した行動規範に従って厳格な実施を行うこと。さらに、軍服・徽章の制度整備およびその市場での販売禁止を含む関連規則や通達を制定・整備すること。
3. 被害者に対する法的根拠に基づいた補償および救済プログラムを速やかに実施すること。
4. 治安・警察・軍のガヴァナンスに関するプロジェクトを優先事項とし、現代的な装備や技術の導入、人権および国家職員の権利・安全の尊重と保障のための基準と仕組みを強化すること。また、独立した国家人権機関を設立すること。
5. 過去に出された公務員の解雇措置を見直し、違法または不適正な任用に関するケースも検討しつつ、違反是正の必要性と家族への影響との間で適切なバランスを取ること。
6. 移行期正義の枠組みの下で、速やかかつ具体的に措置を講じること。とりわけ、アサド体制の指導部および構成員で、司法の手から逃れている者たちを訴追対象とし、彼らが地域社会に対する脅威であり、被害者層が自力で報復行動に出る原因ともなっていることを認識したうえでの法的措置を取ること。
7. 旧アサド体制から引き継いだ司法制度や国内法を、シリアが批准した国際条約と整合させる必要がある。これには、憲法宣言の規定を踏まえた対応として、強制失踪防止条約への署名も含まれる。
8. 沿岸地域およびシリア全土において、国家の計画・政策の中で、社会対話および市民間の和解プロジェクトを優先させること。
9. 暴力や対立、宗派対立を煽る扇動行為の防止に向けて、立法・行政・教育分野における対策を講じること。また、これらの表現がメディアやソーシャルメディアを通じて拡散されることを防ぐため、監視・管理体制を確立する必要がある。

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記者団からの質疑応答において、アンズィー判事は、委員会が複雑な状況下でも、事実関係に対して職業的かつ中立な態度で対応し、一部の新たな人権侵害事案にも対処し、関係機関に対して証拠に基づいた案件を正式に送致したと述べた。

一方、シリア人少女の誘拐事件があったとの噂については、アンズィー判事は、委員会には口頭でも書面でも、いかなる誘拐事案も報告されていないと明言した。そのうえで、もし事件が存在するとすれば、それは刑事事件や個人的・部族的な報復に起因するものであろうが、少なくとも我々には誘拐に関する通報は一切なかったと断言した。

アンズィー判事は会見の締めくくりにおいて、最終報告書には以下の重要な提言が含まれていることを明らかにした。
・司法制度の改革
・責任追及の原則の強化
・加害者の免責を防ぐ仕組みの確立
・国家機関の枠組みを超えた武器の管理と取り締まり

またアンズィー判事は、委員会としての任務は完了し、今後の対応は関係当局に委ねられたとしたうえで、関係機関が責任を果たしてくれることを全面的に信頼していると強調した。

一方、ファルハーン弁護士は、今後の重点課題として、移行期正義、被害者救済、重大な人権侵害に対する賠償が最優先であると強調、国家が委員会の活動に一切干渉せず、委員会が完全な透明性と真剣さをもって任務を果たしたと改めて述べた。

そのうえで、すべての市民およびメディアに対し、真実の解明と正義の実現に資する情報の提供・通報への協力を呼びかけた。

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