国連安保理はシリア情勢の進捗について協議:米国はシャルア移行期政権に対して大量虐殺の加害者に責任を負わせるよう強く求める(2025年8月21日)

国連安保理は第9983回会合を開催し、シリア情勢の進捗について協議した。

会合では、ゲイル・ペデルセン・シリア問題担当国連特別代表がオンライン参加し、「我々は依然としてスワイダー県の周縁で危険な敵対行為や小競り合いを目撃しており、暴力はいつでも再開する可能性がある」と警告、停戦は「恒久的な安定の基礎というよりは一時的な休戦にとどまる危険がある」と付け加えた。

また、イスラエル軍によるシリア南西部での地上作戦が続いていることを指摘、シリアの主権・独立・領土保全の尊重を強く求めた。

一方、人民議会選挙について、「このプロセスを成功させるには、透明性と開放性を確保する措置が求められ、信頼された個人だけでなく、すべての主要なシリアの集団が有権者および候補者として含まれることが必要である」と彼は述べ、女性と市民社会の平等な参加を呼びかけた。

さらに、制裁解除措置の持続と拡大、長期的な安定と持続可能な統治への道を開く真の政治的移行を求めた。

一方、トム・フレッチャー人道問題担当事務次長兼緊急援助調整官は「人道危機は終わっていない」と警告し、1600万人のシリア人が依然として支援を必要としており、スワイダー県での最近の衝突で185,000人以上が避難を余儀なくされたと指摘した。

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韓国の代表は、スワイダー県での衝突をめぐるシャルア移行期政権とイスラエルの停戦が「差し迫った安全保障上の脅威を大幅に緩和した」としつつ、「不確実な政治的状況が、成功裏かつ包摂的な移行への展望に依然として影を落としている」と指摘した。

フランスの代表は、「シリアは岐路に立っている」と強調、「包摂的で平和なシリアは可能である」としつつも、「移行期司法のプロセスが確立されなければ、市民的平和への回帰はあり得ない」と指摘した。

デンマークの代表は、「シリアの一部地域で安定化が見られる一方で、14年にわたる戦争の人道的影響は依然として深刻である」と述べるとともに、シリアにおける危機対応のために約9,500万ドルを拠出することを誓約すると付言した。

イギリスの代表は「シリアにおけるニーズは依然として甚大である」としたうえで、停戦にもかかわらずシリア南部での限られたアクセスに懸念を表明、国内避難民のための医療、食料、きれいな水のために220万ドルの追加援助すると誓約した。

スロベニアの代表は、シリア全土での暴力の即時停止を求め、処刑、恣意的な殺害、誘拐、略奪、財産の破壊を含む犯罪に関する報告に警鐘を鳴らすとともに、「特に懸念されるのは、女性や少女、特にドゥルーズ派やアラウィー派の共同体出身者の誘拐、人身売買、性的搾取に関する報告である」と付言した。

ギリシャの代表は、人民議会選挙について、キリスト教徒、アラウィー派、ドゥルーズ派、ベドウィン、そして女性など、「全てのシリア人が候補者および有権者として参加」する必要があると述べた。

米国の代表は、シャルア移行期政権に対して、大量虐殺の加害者に責任を負わせるよう強く求めるとともに、「統一され、代表性を持つシリアには、一貫性があり、透明性があり、信頼できる司法制度が必要である」と述べ、「加害者を逮捕し、拘束し、対策を講じるのは今やシリア政府の責務である」と付け加えた。

ロシアの代表は、宗派間暴力に対する公平な調査を要求、シャルア移行期政権に対して「信頼でき、即時で、透明性があり、公平で包括的な調査」を行うという安保理の呼びかけを実施するよう促した。

イラン、トルコ、カタール、アルジェリアの代表は、イスラエルの攻撃を非難し、ゴラン高原の占領が「国際法に反している」と改めて強調した。

中国の代表は、シリアの主権、安全、領土保全が尊重されなければならないことを改めて確認し、イスラエルによるゴラン占領を「無効かつ無価値」だと非難した。

シリアの代表は、イスラエル軍を撤退させるよう圧力をかけ、イスラエルの攻撃を非難するよう安保理に呼びかけるとともに、シリア国内での人権侵害にかかる国際調査委員会との協力や、スワイダー県での暴力の加害者拘束への取り組みを説明した。

さらに彼は、スワイダー県とその住民がシリアを構成する不可分な一部であることを強調し、最近の不安定化の原因を「宗派間争いの火をつけるイスラエルの企て」にあると非難した。

さらに、制裁措置の解除を改めて求め、安保理における制裁解除手続きへの動きを歓迎した。

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