アサド大統領、米『フォーリン・アフェアーズ』誌のインタビューに応じる(2015年1月26日)

アサド大統領は米『フォーリン・アフェアーズ』誌の単独インタビュー(http://www.foreignaffairs.com/discussions/interviews/syrias-president-speaks)に応じた。

The Foreign Affairs, January 26, 2015

The Foreign Affairs, January 26, 2015

インタビューでのアサド大統領の主な発言は以下の通り:

「すべての戦争は、世界のどこで行われようと、政治的解決をもって終わる。なぜなら戦争それ自体は解決策ではなく、戦争は政治のツールの一つだからだ」。

(シリアが政府、ダーイシュ(イスラーム国)やヌスラ戦線といったイスラーム過激派、スンナ派とクルド人からなる反体制派の三つの「小国家」に分断されているとの質問に対して)「まずこのイメージは正確でない…。シリア国民は依然としてシリアの統合を支持している。彼らは政府を依然として支持している。あなたが言っている派閥は一部の地域を制圧はしているが、彼らはあちらこちらに移動し、定着していない…。住民は、国家を政治的に支持しているかいないかはともかくとして、国家を支持している。つまり、彼らは国家をシリアの統合の代表として支持している。シリア国民が統合を信じている限り、どんな政府、役人でもシリアを統合できる。国民が二つ、三つ、四つの集団に分かれていれば、この国を統合はできない」。

(スンナ派とクルド人が依然としてシリアの統合を信じているのかとの問いに対して)「もしダマスカスに今来れば、事態が異なっていることが分かる…。シリアの分断は、宗派やエスニック集団によるものではない…。それは特定の地域を軍事的に支配する派閥によるものだ」。

「当初から、我々は開放的だ。我々はすべての党派と対話を行ってきた…。またどんな解決策であれ、最後には信任投票を通じて国民に問うべきだ…。シリア国民に問うべきだ。つまり、対話を行うことは、決定を行うこととは別問題だ。決定は、政府、反体制派のいずれもが行うものではない」。

「我々はロシアに行って、こうした交渉を行う。しかし別の問いがそこにはある。誰と交渉するのかというものだ。我々は政府として、組織、軍を持っている…。これに対して、我々の交渉相手となる者たちは、誰を代表しているのか? ここに問題がある。反体制派とは通常、地方自治体、議会などに代表を持っている…。あるいは草の根を持ち、人々を代表していなければならない…。反乱分子が公式に発表してきたことに立ち返らねばならない。彼らは何度も、反体制派は自分たちを代表していないと言ってきた…。別の側面もある。反体制派とは国民的(愛国的)であるもので、シリア国民の利益のために活動することを意味する。もしカタールやサウジアラビア、さらには米国をはじめとする西欧諸国の操り人形だとしたら、それは反体制派ではない…。反体制派はシリアの反体制派でなければならない。我々には国民的(愛国的)な反体制派がいる。私はこうした反体制派を排除しない。すべての反体制派が合法的なわけではないが、国民的(愛国的)な反体制派と操り人形は区別されなければならない」・

(モスクワで開催されるシリア政府と反体制派の和平交渉(モスクワ1)に関して「モスクワで行われているのは、解決策に関する交渉ではない。それは(和平)会議の準備だ…。どのように対話を準備するかを交渉する。会議について話し始める場合、その原則となるものは何か?… 一部のグループは、先ほど述べた通り、他国の操り人形だ…。フランスをはじめとする多くの国は、会議が成功することには関心がない。だから、彼らはこうしたグループに会議を失敗させようと命令を出している。自分たちしか代表していない者、シリアの誰も代表していない者もいる…。反体制派を一つの勢力だとして話す場合、誰が誰に影響力を及ぼしているのか? これが問題だ。こうしたことはまったく明らかでない。だから楽観というのは大げさだ。ただ、私は悲観しているとは言いたくない。希望があると言いたい」。

(和平交渉を成功させるために)「反乱分子に対処することだ。しかし反乱分子には2種類ある。今やその大多数は、アル=カーイダ、つまりはイスラーム国やヌスラ戦線で、これと並んでよりアル=カーイダに所属する小規模の似たような派閥がいるだけだ…。オバマが「幻想」呼んだもの、ないしはいわゆる「穏健な反体制派」は、反体制派ではなく、反乱分子だ。そのほとんどがアル=カーイダだ…。アル=カーイダと交渉できるだろうか? 彼らには交渉する用意はなく、自分たちの計画を持っているだけだ。我々が始め、(スタファン・)デミストゥラ氏(シリア問題担当国連アラブ連盟共同特別代表)が続けているのは、現場に即したプラクティカルな解決策だ」。

「また我々は、ヌスラ戦線やイスラーム国に対して、国連安保理決議第2170号を実施しなければならない…。この決議はこうした組織に軍事面、財政面、兵站面での支援を行うことを禁止している。しかし、トルコ、サウジアラビア、カタールはこうしたことを依然として続けている。この決議が実施されなければ、我々は解決策について話し合うことはできない」。

「西側諸国は、「穏健な反体制派支援」などという言われる傘を取り除かねばならない。彼らは、我々が主にアル=カーイダ、すなわちイスラーム国やヌスラ戦線と対峙していることを知っているからだ」。

「武器を捨てた者に対して、我々は恩赦を与えている。彼らは普通の生活を取り戻している…。こうしたことが信頼醸成のための措置だ。だが、反体制派と収監者と間に何の関係があるのか? 無関係だ。反体制派は収監者ではない。まったく異なった問題だ」。

「イランはシリアにおいて何の野望も持っていない…。我々は他国が我々の主権を脅かすことを決して許さないからだ…。(イラン・イスラーム革命防衛隊によるシリア国内でのミサイル・プラント建設に関して)協力関係のなかで役割を果たすことは、覇権を通じて役割を果たすことは異なっている」。

(ヒズブッラー戦闘員やシーア派民兵との協力に関して)「政府機関、国家のみが安定を保証し、秩序をもたらすと言うのは当然だ。政府とともに何らかの役割を果たすそれ以外の要素は、特定の環境下では良い高価をもたらすこともあるし…、副作用、つまり悪い副作用もある…。政府を支持する民兵が生じることは、戦時下における副作用だ…。この副作用が生じたら、それをコントロールしようとするものだ」。

「1974年の停戦以降、ゴラン高原からイスラエルに対して(シリア軍は)何らの作戦も行っていない。だからイスラエルが何らかの作戦の計画があると主張することは、現実からほど遠い主張であり、言い訳に過ぎない。なぜなら、イスラエルはヒズブッラーのメンバーを誰でもよいから殺害したかったからだ…。イスラエルは2年近くシリアを攻撃し続けている。何の理由もなしに…。イスラエルは軍拠点を攻撃している。ヒズブッラーとシリア軍に何の関係があるというのか?… イスラエルはシリアの反乱分子を支援している。これは明確だ。なぜなら、我々がどこかで進軍を遂げれば、イスラエルはシリア軍を弱体化させようと攻撃をしてくる…。だから一部のシリア人は「アル=カーイダが空軍を持っていないなんでどうして言えるのか? 彼らにはイスラエル空軍があるじゃないか」と冗談で言っている」。

(イラク政府がシーア派民兵を制御できなくたっているとの問いに対して)「ポール・ブレマーはイラクという国家のためではなく、複数の宗派のための憲法を作ったのだ。これに対して、シリアではなぜ、制裁下であるにもかかわらず、4年間も軍が持ちこたえているのか?… なぜならシリアには真の憲法、つまり真に世俗的な憲法があるからだ。それが理由だ。イラクの憲法は宗派主義的だ。宗派主義的憲法は憲法ではない」。

「あらゆる政府、あらゆる個人が間違いを犯す…。しかし我々は三つの決定を実行した。第1にあらゆる対話に対して開放的になること、第2に新たに憲法を制定すること…、そして第3に自分たちの国を守ること。これら三つの決定が間違えだったとは思っていない…。テロリストから国を守ることが間違えだと言いたいのなら、テロリストを支援することが正しいことだということか」。

(イスラーム国を空爆する米国と奇妙なパートナー関係にあることに、米国との関係強化の可能性があると考えるかとの問いに対して)「可能性は常にここにある。なぜなら、我々は30年にわたってテロに対抗するための国際的な協力関係の構築を求めてきたからだ。しかしこの可能性には意志を必要とする。問題は、米国にどのくらい真剣にテロと戦おうとする意志があるかだ。これまでのところ、米国はシリア北部のイスラーム国を攻撃しているが、何ら具体的なものを目にしていない。具体性がない。これまで目にしてきたことは、実を欠いた見せかけだけだ。攻撃開始以降、イスラーム国はシリアとイラクで支配地域を拡大してしまっている…。コバネ(アイン・アラブ)は小さな都市だが、3ヶ月以上経っても攻撃は止んでいない…。つまり、米国はテロと真剣に戦っていないということだ」。

「(米国による)さらなる関与とは軍事的な面に限られない。政治的なものが求められている。米国がどの程度トルコに影響力を行使できるかということだ…。米国は、アル=カーイダを支援しないようトルコに圧力をかけているだろうか? 彼らは圧力はかけていない…。つまり軍事的な関与しかしていないのだ…。また、第2に、軍事的関与について話すのであれば、米国高官は現場に部隊がいなければ、具体的な成果を得られないことを公に認めるべきだ。現場でいったいどの部隊に依存しているのか?… シリア軍に依存しなければならないのは当然のことだ。ここは我々の領土であり、我々の国だ。我々が責任を負っている。我々は米軍に何も要請しない」。

「トルコへの圧力、サウジアラビアへの圧力、カタールへの圧力を通じて反乱分子への支援を止めさせねばならない。次いで、シリアと合法的な協力を行い、シリア政府にこうした攻撃を行う許可を求めることから始めねばならない。彼らはそしたことを行っていないので、攻撃は違法だ…。テロと真剣に戦う他国とであれば、我々は協力を行う用意がある。もし相手国が真剣ならば…」。

(米国が「穏健な反体制派」を軍事教練しようとしていることに関して)「シリア軍と協力しないいかなる部隊も違法であり、シリア軍の交戦対象となる。これは非常に明確なことだ…。シリア軍との協力しなければ、違法だし、他国の操り人形だ。彼らは他の違法な民兵と同じようにシリア軍と戦うことになる。しかし、こうした部隊に関して、もう一つ別の問いがある。オバマは彼らが幻想だと言った。幻想がなぜ現実になるのか?… 過激派を穏健になどできない」。

「なぜあなたが言うところの「穏健な反体制派」、つまり我々が言うところの「反乱分子」がますます弱体化しているのか? シリア危機の進捗がそうしているからだ。5,000人を(米国が)外国からシリアに潜入させたが、そのほとんどは離反し、一部はイスラーム国に合流してしまう、こうしたことが去年実際に起こっている。だから幻想的だと言っているのだ。5,000という数が幻想なのではなく、発想そのものが幻想なのだ」。

「(現下のシリアの危機は)二国間、二つの軍の戦争ではない…。市民が暮らしている地域に浸透する反乱分子について話しているのだ…。これがこの戦争の形態だ。だからこれを領土と関連で見ることはできない。次に、シリア軍は、いかなる地域であれ、進行すれば、成功を収めることができるが、シリア国内に1メートルおきに駐留することなどできない。それは不可能だ。過去2年間でいくつかの進軍を実現したが、戦況は良い方向に向かっているのかと聞かれれば、こう言いたい。すべての戦闘は、破壊をもたらすがゆえに悪いものだ。重要な問いとは、この戦争で我々が勝ち取った要素とは何かというものだ。我々が勝ち取ったものとは、シリア国民がテロリストを拒否し、政府と軍をさらに支援する姿勢が生じたことだ」。

「外国の支援がなければ…、何の問題もなく彼ら(反体制武装勢力)を打ち負かすことができる。今でも我々は軍事的には問題を抱えていない。問題は、彼らが主にトルコから断続的に支援を受けていることだ」。

「彼(トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領)は、アル=カーイダの基礎となっているムスリム同胞団のイデオロギーに属している…。彼は非常に狂信的だ。だから彼はイスラーム国さえも支援しちえる。今起きていることの責任は彼個人にある」。

(バラク・オバマ米大統領にメッセージはあるかとの問いに対して)「すべての米国人に問いかけたいのは、我々の国、我々の地域のテロリストを支援して何を得ようとしているのか、ということだ…。あなたの国の高官の一人は7年前にシリアでの会合の最後にこう聞いてきた。「我々にアフガニスタンの問題を解決できると思いますか?」 これに私はこう答えました。「操り人形でなく、あなたにNoと言える高官と折り合うべきだ」。米国が操り人形のような高官や従属しているような国ばかり見ることが、自国の国益に資することではない」。

なおアラビア語版はSANA(12月26日付)に全文(http://www.sana.sy/%d8%a7%d9%84%d8%b1%d8%a6%d9%8a%d8%b3-%d8%a7%d9%84%d8%a3%d8%b3%d8%af-%d9%84%d9%85%d8%ac%d9%84%d8%a9-%d9%81%d9%88%d8%b1%d9%86-%d8%a7%d9%81%d9%8a%d8%b1%d8%b2-%d8%a7%d9%84%d8%a7%d9%85%d8%b1%d9%8a%d9%83.html

)が掲載されている。
The Foreign Affairs, January 26, 2015、SANA, January 26, 2015をもとに作成。

 

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