ダマスカス郊外県ザバダーニー市で政府軍と離反兵の間に停戦合意が成立、露外相はシリアへの国連主導の軍事介入を拒否する姿勢を改めて表明(2012年1月18日)

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国内の暴力

ダマスカス郊外県ザバダーニー市(人口約40,000人)で、政府軍と離反兵との間に停戦合意が17日に成立、18日から実施された。

ザバダーニー調整(委員会)とザバダーニー地方総合委員会によると、停戦合意は間接交渉を通じてなされ、シリア軍側からは、アサド大統領の義兄のアースィフ・シャウカト副参謀長(中将)が出席した。

両組織によると、停戦合意は、ザバダーニー市の入り口一カ所の以外からの軍の撤退、同市に135輌の装甲車輌を展開するとされる自由シリア軍による市民保護を骨子とする。

自由シリア軍のハムザ・ブン・アブドゥルムトリブ大隊によると、これによりザバダーニー市の治安が自由シリア軍に移譲されたという。

シリア人権監視団によると、この停戦合意を受け、ザバダーニー市では「砲撃」が行われなかった。

自由シリア軍のマーヒル・イスマーイール報道官は、軍が停戦に応じた理由に関して、ロイター通信(1月18日付)に対して、「山岳地帯であるため、攻撃を行えば、装備の違いにもかかわらず、離反兵よりも多くの犠牲者が出るということを軍が知っている」ためと述べた。

また軍の停戦履行に関しては、軍が新たな攻撃作戦を計画しているだろうと述べた。

アンマンに亡命中の反体制活動家のカマール・ルブワーニー氏によると、軍と離反兵の戦闘で、市民1人が死亡、約50人が負傷したほか、正規軍兵士30人と離反兵多数が戦死した。

ザバダーニー市は、数日前から激しい「砲撃」が行われてきたと反体制勢力が繰り返し主張していた。

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シリア人権監視団によると、軍と離反兵の戦闘などで、ヒムス県で5人、イドリブ県で3人が殺害された。

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シリア革命総合委員会によると、ヒムス県、イドリブ県などで少なくとも17人が殺害された。

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SANA(1月18日付)によると、イドリブ県マアッラ地方で武装テロ集団が治安維持部隊を襲撃し、同部隊のフサイン・アリー・アッバース中尉を殺害した。

またヒムス県ヒムス市で武装テロ集団に誘拐された医師の遺体が発見された。

さらにハマー県ムハルダ市では電気技師のファーティマ・ハリーファ女史が武装テロ集団によって殺害された、という。

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シリア人権監視団によると、イドリブ県ザーウィヤ山で軍と離反兵が交戦し、離反兵1人と民間人6人が殺害された。

アサド政権の動き

シリアの日刊紙『ティシュリーン』(1月18日付)は、カタールのハマド・ブン・ハリーファ首長がアラブ軍派遣を提案したことを厳しく批判し、カタールがテロリストへの武器支援を行っている疑いがあると主張した。

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AFP(1月18日付)は、シリア・ポンドが2011年3月の反体制運動開始以来51ポンドに下落し、1ドル71ポンドとなったと報じた。

反体制勢力の動き

シリアでもっとも著名で影響力のある反体制活動家の一人、ミシェル・キールー氏は『ル・フィガロ』(1月18日付)に対して、自由シリア軍による武装闘争がシリアを危機に曝し「際限なき混乱」へと陥れると述べた。

キールー氏は「軍として構成されていない数千の兵(離反兵)によって40万の軍(正規軍)を攻撃しようとしている…。国は際限のない混乱に陥るだろう。気が狂っている」と反体制武装集団の行為を批判した。

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反体制活動家でアラブ言論・表現の自由擁護委員会のバヒーヤ・マールディーニー委員長は、アスマー・アフラス大統領夫人、マーヒル・アサド大佐の婦人、ディヤーラー・ハーッジ・アーリフ前社会問題大臣、ラーミー・マフルーフ婦人ら、政権内の女性たちが「国民の財産を海外で預金している」と避難し、西側諸国の制裁リストに加えるよう呼びかけた。

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アラウィー派市民106人がフェイスブック(1月18日)に共同声明を出し、「シリア革命の諸要求」への支持を表明した。

http://www.facebook.com/permalink.php?story_fbid=253277574742238&id=251608528242476

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シリア国民評議会の執行委員会は声明を出し、委員会使節団がカイロを訪問し、アラブ連盟のイニシアチブの進捗状況、監視団の報告書などに関して協議すると発表した。

また別の声明では、評議会使節団がオランダ外相と会談し、同外相よりアサド政権への圧力を強化するとの回答を得たと発表した。

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クウェート日刊紙『スィヤーサ』(1月18日付)は、アフマド・ジュムア氏なる人物の証言をもとに、自由シリア軍司令官のリヤード・アスアド大佐(自称少将)が避難先のトルコで実質的に「自宅監禁」下に置かれていると報じた。

また同報道は、イランがシリア国民評議会を通じて自由シリア軍への影響力を行使しようとしていると断じた。

アラブ連盟の動き

アラブ連盟のアフマド・ベンフッリー事務副長は、19日に予定されている連盟監視団報告書提出を前に、「我々は現在、節目にいる」と述べた。

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アラブ連盟監視団を辞任したアルジェリア人のアンワル・マーリク氏はオーストリア紙に対して、「口を噤まなければ、クビを切る」と脅されたと述べた。

レバノンの動き

ヒズブッラーは声明を出し、ザバダーニー市にカチューシャ砲で砲撃を行ったとの一部情報に関して、「まったく根拠がない」と否定した。

諸外国の動き

ロシアのセルゲイ・ラブロフ外務大臣は記者会見で、「リビアの先例」を引き合いに出し、「安保理決議の悪しき利用という現象が繰り返されることに満足しない」と述べ、改めてシリアへの国連主導の軍事介入を拒否する姿勢を示すとともに、「暴力を停止させた後、すべての当事者が即時対話を開始し、政治的関係正常化」をめざすべきだと明言した。

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国連安保理ではロシアが提出した決議案(修正案)に関して、専門家による審議が2日目に入った。

安保理筋によると、審議における中心的議題は、「シリア問題において安保理が何らかの役割を引き受けることを認めるか否か」で、ロシアとそれを支持する国際社会のマジョリティは「安保理の外に問題をとどめ、実質的な措置を講じることを回避する」べきだとの立場をとっている、という。

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EUは、英国の提案に従い、対シリア制裁第10弾として、治安関係者22人、関係機関8組織(政府系銀行5行、石油企業3社)を制裁リストに追加した。

アラビーヤ(1月23日付)によると、リストにはジハード・サルターン准将、ムハンマド・マアルーフ准将、ムフスィン・マフルーフ准将が名を連ねている、という。

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中国外交部報道官は記者会見で、「シリアでの暴力を完全に停止させられていないしても、治安状況が改善したことは重要だ」と述べ、アラブ連盟監視団の任務を高く評価した。

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デビッド・キャメロン英首相は議会で、イランとヒズブッラーがアサド政権の弾圧を支援している多くの証拠があると証言した。

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米国訪問中のヨルダンのアブドゥッラー国王は『ワシントン・ポスト』(1月18日付)に対して、国際社会による大規模な介入がない限りシリア情勢に変化はないとの見方を示した。

AFP, January 18, 2012、Akhbar al-Sharq, January 18, 2012, January 24, 2012、AKI, January 18, 2012、Alarabia.net, January 23, 2012、al-Hayat, January 19, 2012、Kull-na Shuraka’, January 18, 2012, January 23, 2012、Reuters,
January 18, 2012、SANA, January 18, 2012、al-Siyāsa, January 18, 2012、Tishrin, January 18, 2012、UPI, January 18, 2012、The Washington Post, January 18, 2012などをもとに作成。

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